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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

究極の“愛の逃避行”映画『彼女』で、水原希子さん&さとうほなみさんの役者魂が炸裂!!

  • 折田千鶴子

2021.04.15

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胸を抉られる、ひたむきな剥き出しの愛

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面白い映画って、不思議と何気ないファーストカットから「おっ!?」と身を乗り出し、不思議な吸引力で最後まで引っ張られることがあるのですが、まさにこのNetflix映画『彼女』がそうでした。なんかもう、すごいモノを観てしまった衝撃! 脳みそがクラッとするような、軽い疲労を含んだ満足感。

同時に、スゴイぞ、この2人!! とブルッと震えが来ました。その素晴らしい熱演を見せてくれた、水原希子さんとさとうほなみさんがLEEwebに登場です!!

いつも率直で明るい希子さんには、つい数ヶ月前にLEE本誌で『あの子は貴族』のインタビューをさせていただいたばかり。面白い作品ばかりで、持ってますね~、希子さん! 初対面となるさとうほなみさんは、短いインタビュー時間の中でも、物事を真っ直ぐに見つめ、誠実に思いを言葉に紡ごうとされる、とても自然体の素敵な女性でした。

●水原希子(左)
1990年10月15日、米テキサス州生まれ、神戸育ち。’03年雑誌「Seventeen」専属モデルとしてデビュー。’10年、映画『ノルウェイの森』で女優デビュー。主な出演作に、ドラマ「失恋ショコラティエ」(’14)、「グッドワイフ」(’19)、映画『進撃の巨人』(’15)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせガール』(’17)、『あの子は貴族』(’21)など。企画・出演・監修を務める番組「キコキカク」が4月23日よりAmazon Prime Videoにて独占配信予定。

●さとうほなみ(右)
1989年8月22日、東京都生まれ。ほな・いこか名義で、「ゲスの極み乙女」のドラマーを務める。俳優さとうほなみとしての主な出演作に、ドラマ「黒革の手帖」(’17)、「連続テレビ小説 まんぷく」(’19)、「ルパンの娘」(’19)、「誰かが観ている」(’20)、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(’20)など。舞台などでも活躍中。

◆Netflix映画『彼女』ってこんな映画

原作は、中村珍さんによる漫画「羣青」。パートナー(真木よう子)と暮らすレイ(水原希子)は、ある日、高校時代に思いを募らせていた七恵(さとうほなみ)から、突然、会いたいと電話を受けます。幸せな生活を送っているとばかり思っていた七恵は、死を考えるほど夫からひどいDVを受けていました。心配するレイに、「だったら殺して」と思わず吐き出した七恵を、レイは迷うことなく救い出そうと決意し、実行に移すのですが――。

Netfix映画『彼女』 
監督:廣木隆一
出演:水原希子 さとほなみ 鈴木杏 田中哲司/真木よう子
4月15日よりNetflixにて全世界同時独占配信!

──すごく深いところに刺さって来ました。映画も演技も素晴らしかったですが、相当な覚悟がなければ演じ切れなかったと思います。身も心もさらけ出さなければならない役に、よくぞ覚悟を決めて臨まれましたね!

水原「脚本を読んだとき、自分でも絶対にこれは相当チャレンジングなものになるだろうな、とは思いました。本当に終始、ここまで感情をむき出しにするのか、という状態であり続けた気がします。人まで殺しますし……色んな意味で大変な役だとは思いましたが、自分のキャリアを考えた時、今、絶対にここでこれをやりたい、やるべきだと思ったんです」

さとう「私は元々原作がすごく好きだったので、もしこれが映像化されたら、絶対にやりたいな、と思っていました。原作における“彼女たち”には、本当に色んな感情が渦巻いていて、憎たらしいけれど可愛らしくもあって。私は役者としてやっていきたい気持ちが強かったので、これをやりたい、やりたい、とずっと言っていたんです。お話をいただいたときも、壮絶な過去を持つ七恵という女性……映像の中で、私がその七恵を生きたい、と思いました。そして、映画でそれを残せたら本当に素晴らしいことだ、と思ったのが本作に挑んだ一番の理由です」

原作「羣青」のエネルギーや熱量が強烈で

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──原作「羣青」の絵が強烈だけに、そのイメージに引っ張られてしまったそうですね。

水原「私は、原作より先に脚本を読みました衝撃的な内容で、かなり強烈なインパクトを受けましたが、すごくいい物語だな、と思って。そうしたら“原作は読まない方がいいかもしれないよ”と言ってくださった方がいたんです。でも“そりゃ、読むでしょ”と読んだら、なるほど……と。原作に引っ張られ過ぎるのは良くないよ、読んだら引っ張られるかもしれないよ、というアドバイスだったのか、と」

さとう「原作ファンの私は、七恵を演じようとすると、どうしても原作の画がチラついてしまいました。自分の中にも、“原作に近い表現にすべきなのでは?”という思いも色々あって。でも本読みの段階で、“漫画を100%連想しなくていい”と言ってもらえたのが、すごく大きかったです。その言葉自体、「羣青」という漫画を尊敬し、信頼しきっているからこそ出た言葉だな、と思えて。私は私の、『彼女』の七恵ができればいいんだ、と思えるようになりました」

水原「とにかく原作から放たれるエネルギーや熱量が、すごい強烈で。だから私も、原作の彼女たちの表情や言葉一つ一つの雰囲気を、大事にしたいと思いました。そのまま同じように表現は出来ないけれど、漫画に漂うムードや雰囲気は、すごく大事だと思ったので、敢えて読んで良かったと思って。さほど原作に引っ張られずに済んだのは、ほぼ順撮りで撮っていただけたから。そのお陰で、自分たちの『彼女』が作られていったと思いますし、原作にあるエネルギーを私たちもずっと持ち続けていた、と思います」



入念なリハーサルと本番は全く違うものに!

──撮影初日のファーストカットを覚えていますか? どんなことを感じたでしょう?

さとう「何度もリハーサルをしていた、10年ぶりに「会えない?」とレイに電話を掛けるシーンでした。序盤の(激しいDVを受けるシーンを含めた)シーンは、本番前に何度もリハーサルをやっていた場面でしたが、ちょっと緊張してしまって。でも、一瞬で察知した廣木(隆一)監督が、“口を大きく開けて~”と言って、顔をパッとほぐしてくれたんです。それによって、撮影に入りやすくなりました。ただ、何度もリハーサルを重ねましたが、実際の現場では全然違うものになっています

水原「私は重い雰囲気のシーンではなく、ケーキ屋さんでパートナーへの誕生日ケーキを買う、とてもほっこりしたシーンから始まったので、緊張もなく普通に“始まったな”というテンションでした。

──リハーサルはかなり入念にされたんですね。

水原「3,4日くらい、終日リハーサルをやる日がありました。ただ、リハーサルでやったことを本番でやるということでは、全くなくて。なにしろ順撮りなので、日を重ねるにつれて、どんどん2人の中で積み上がっていくものがあったので、リハーサルでやったものとは全く違うものになっていくんです。でも、すごく意味あるリハーサルだったと思います」

──廣木監督に、本番で“生っぽさ”をグイグイ引き出された、みたいな?

水原「まさしくその通り。本当に積み上がっていくものがあったので、その流れのまま、自然に入っていくことが出来た――という感じだったよね?」

さとう「そう。おそらく監督の手法だと思うのですが、長回しのワンカット、一発で撮っていくスタイルが多かったんです。だから本当に、場面場面、その長さで生きているみたいな感覚になりました。順撮りプラスその手法によって、二人の感情がよりリアルになったし、気持ちが繋がったし、すごくやりやすかったんです」

恋のために人を殺した女、殺させた女

──レイも七恵も、すごく人間的で、愚かだったりズルかったりもします。でも、そんな2人の言動に、どうしようもなく共感せずにいられなくなってしまいます。お2人は、どんな思いを抱きましたか?

水原「レイは、レズビアンであることを、母親に受け入れてもらえなかった過去があります。学生時代もセクシャリティが原因で周りから馬鹿にされたり、陰口を叩かれたり。とても苦しく、辛い思いをしたと思います。でも同時に、母親はじめ家族から、とても愛情を受けて育った子だと思うんです。しかも美夏(真木よう子)という、優しい愛で包み込んでくれるパートナーまでいて。愛を知っている人だということは、強く意識しました

さとう「逆に七恵は経済的にも家族からの愛情にも恵まれず、友だちもなく、大人になってからは旦那に暴力を振るわれている。信用・信頼できる人も、弱音や本音を吐ける人も、ずっといない状況でした。そんな中、自分の弱みを知っていて、かつ自分のことを好きだと言ってくれたレイという存在が、絶対にずっと引か掛かっていたと思うんです。だから自分がギリギリの状態でも、この人に連絡を取りたい、と思ってしまったんだと思います」

──愛を受けて育ったレイが、愛を信じない七恵を救うため、殺人を犯してしまうわけです。そこまで七恵を好きだったのか、という衝撃がありました。

水原「レイは愛を注がれて来たけれど、自分から愛すること、自ら愛を発することを知らなかった。しかも不器用だから、高校時代に七恵がある事件を起こしたときに、助けるつもりでお金を貸した結果、支配するみたいなことになっちゃって。そんなやり方しか知らなかったんです。でも、それが七恵を苦しめていたと10年後に発覚する。不器用ながらレイは、自分の愛を証明できるかを探求していくのだ、と思いました」

さとう「レイに“私のために人を殺して”と頼み、そこまでしてくれた人に対してさえも、七恵は愛というものが信用できないので、試すようなことや確かめるようなことばかりしてしまう。脚本を読んでも、私はそこが大事、且つ面白いところだと思いました。自分から歩み寄っても、わざと傷つくことをするし、レイが歩み寄っても、傷つけて突き放して。そんなことばかりしているのに、段々と2人の関係が縮まっていくのが、面白いと原作でもそれをすごく感じたので、そこが出せればいいな、と思って臨みました。ちゃんと出ている……そこに近づけたんじゃないかな、と思っています」

一言では言い表せない愛憎模様

──2人の関係性にしても、お互いの愛憎やかげがえのなさが痛いように肌感覚で伝わってきました。かなり挑戦的なキャラクターであり、言動ですが、演じながら“分かるなぁ”と共感を覚えずにいられませんでしたか。

水原「レイは人を殺めてしまうという究極の選択をしましたが、もし目の前で愛する大事な人が死ぬような思いをしていたら、もし死ぬほど大変な状態にさらされていたら、と考えたら、その気持ちは分かるような気がします。私以外、誰が七恵を助けるの、と。その辺りの心情は、役にスッと入れましたが、逆に難しかったのは、七恵の夫を殺した後の感情でした

さとう「七恵のレイに対する思い、愛の中身については、観ていただいた人それぞれに感じて欲しいと思うところです。ただ不本意な形にしろ、裕福なレイのお陰で高校に残れたので、ずっとレイのことをどこかで想っていたし、お金持ちの人と結婚し、早くレイにお金を返し、“あんたなんかいなくて大丈夫だ”と言いたかったんです。そこには、ちょっとした憎しみもあっただろうし、でも愛情もあっただろうし、色んな思いを含めて特別な存在だったんだろうな、と感じていました

──そんな2人が逃避行の旅に出るロードムービーでもある本作は、悲しみやいつか終わるという諦めが底の方で流れながらも、冒険のようなワクワク感もありました。

さとう「車で走っているシーンが多かったですね。全部、自分たちで運転しているので、ここも走るのか、こっちもか、そこまでするのか、と思いました(笑)」

水原「あ、私も思った、思った(笑)。バイクを盗んで逃げ去るところも、台本に書いてはあったけれど、本当にやるんだった、って。想定していなかったのは、「CHE.R.RY」を歌いながら車で走っていくシーン。あれは、突然の監督の提案で。私たちも突然言われて“え、ここで歌うの!?”って」

さとう「撮っている最中にカメラ横で、監督がずっと小さい声で「CHE.R.RY、CHE.R.RY」って言っていたんです。撮影中だから“え、歌うんですか?”なんて聞くこともできず、フッと歌ってみたら、それが、あのシーンになって

水原「監督には全部、見えていて、それをおっしゃっていたんだな、と」

さとうあの情景にとても合う、2人の心情を表している、妙に切ないシーンになっていて。なるほど、こういうことか、と」

2人が愛し合うシーンに思わず涙っ!

──2人が愛し合う場面も、本当に切なくて痛くて涙が出そうになりました。相当にチャレンジングな役だと感じたとおっしゃった役を演じ切って、本当に良かったですね!!

水原「実は私、18歳で『ノルウェイの森』に出させていただいた時からずっと、自分のことを“役者だ”と思ったことが一度もなかったんです。オファーをいただき、“頑張ります”とやって来ましたが、ファッションもモデルも色んなことをやっている自分は、どこにもカテゴライズ出来ないなと、それがコンプレックスでもあったんです。それでも10年、演技を続けてきた中で、“役者”としてチャレンジしてみたかった。けじめではないけれど、色んな意味で腹を決めた、そんな意気込みで演じた『彼女』でした」

さとう「私も七恵として生きていた1,2ヶ月は、プライベートで誰とも連絡を取らず、ずっと孤独な状態で撮影に挑んでいました。それは辛くもありましたが、そういう追い込んだ役の作り方、嫌いじゃないな、と思いました(笑)」

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廣木隆一監督と言えば、やっぱりパッと思い浮かぶのが『ヴァイブレータ』(’03)ですが、本作は、それに匹敵する代表作になるのでは、なんて勝手に思ったりしているほど、ヒリッと、でもどうしようもない、愛のままならなさに疼く作品です。『きみの友達』(’08)、『RIVER』(’11)、『さよなら歌舞伎町』(’14)、『彼女の人生は間違いじゃない』(’17)など、挙げればきりがないほど、その時代時代で生きる人の“生きづらさ”や孤独を鋭く突いてくる廣木監督。

レイと七恵の逃避行の行方、2人の愛の行方を、是非、ガッツリ最後まで見届けてください!!

映画『彼女』

 

4月15日からNetflixにて全世界独占配信スタート!

【NETFLIX作品ページ】https://www.netflix.com/彼女


撮影/細谷悠美

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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