LIFE

高見澤恵美

読み聞かせに新たな2冊投入。福岡伸一先生が訳したダーウィンとドリトル先生。

  • 高見澤恵美

2019.12.11

この記事をクリップする

LEEwebの人気コンテンツ、「月刊トップブロガー」。10月のお題となっていた「漫画&本」が大充実でした。TBたちの心の本棚を見せてもらっている気分で、ちょくちょく覗いています。

TBさんのような目利きではないけれども、もし今、私がこのお題に答えるとしたら、選ぶであろう2冊の本。

を、自宅テーブルにてパチリ。

左・『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』(岩波書店)
右・『ドリトル先生航海記』(新潮文庫)

5歳息子の母として、イチ推しの2冊です。どちらも、訳を手がけるのは、生物学者の福岡伸一先生。というわけで、今回は、個人的な育児話や、福岡先生トークショーの話も絡めつつ、2冊のおすすめポイントを綴ります。

生物に興味があるお子さんにオススメしたい本2冊

前述の通り、わが家には5歳の息子がいます。幼稚園でいうと、年中の学年。今、読み聞かせでハマっているのがこの2冊なのです。

(1)5歳児がママに読み聞かせする本
『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』(岩波書店)

こちらは、生命の「なぜ」を説明したダーウィンの本を、美しい絵と、大人や幼児にも分かりやすい言葉で語り直した科学絵本。

平仮名、カタカナがだいたい読めるようになったかな? という段階の子どもにとって、絵の多いこちらの本は特にうってつけだったようで。置いておくとすぐにパラパラと開き、ゆっくりと音読をし始めました。幼児にはまだ難しい? と思っていたのですが、恐竜や動物、虫や鳥などの図鑑に親しんでいるタイプの子どもにとっては、「生き物がどうやって進化してきたのか?」という疑問は身近なものであり、子どもなりに理解して読み進めているようです。

息子の場合、恐竜図鑑を開いては「恐竜が鳥に進化した!」とつぶやいたりしていたので、本書はより興味深いようです。ちなみに、今までは、図鑑で得た断片的な知識を参考に(ファンタジーなどとおりまぜて?)、「僕、生まれる前は研究所で働いてて、隕石をぶつけて水を作ったり、地球の生き物を作ってたんだよ。ママも僕が作ったんだよ。最初はお魚だったの」といった空想話を、うれしそうに披露していた息子(お腹の中での記憶!? と親ビビる)。この科学絵本の登場によって、それらは妄想と気付いたのか話さなくなりました。そのかわり、ナチュラリストの端くれになった気分で、「種の起源」についての知識を語るようになりました。

また、本書はド・文系な大人が読んでも楽しめる内容になっているため、息子の音読を聞きながら、一緒に学んでいる感覚。息子とのおでかけ先でも、虫や鳥、犬などの生き物を見つけると、「この蝶とあっちの蝶は仲間なんじゃない? もともとは同じ種なんじゃない?」などと2人で話すようになったのも、『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』を読んでいるおかげかも?

お子さんの、生き物への興味を高めたいと願う人にもおすすめです。

(2)ママが5歳児に読み聞かせする本
『ドリトル先生航海記』(新潮文庫)

もう1冊はこちら。『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』が息子に好評だったため、ミュベールで開催された福岡先生のトークイベントを足を運んできました。テーマは、新訳『ドリトル先生航海記』。英国出身の作家、ヒュー・ロフティング作「ドリトル先生」シリーズは、動物と話のできる名医が世界のあちこちを旅する物語。トークショーでは、生物学者である福岡先生が新訳を手がけるにあたり、意識した点についてうかがったので、その一部をご紹介(ついでに、5歳児に読み聞かせするに至った理由も)。



ドリトル先生の口調に変化が!

子どもの頃、図書館で夢中になって読んだ岩波の「ドリトル先生」シリーズは、確か、古めかしい言葉遣いが多めだったような……。

「岩波の井伏鱒二訳は、ドリトル先生が自分のことを『わし』といい、『○○しとるんじゃ』とおじいさんっぽい話し方をしています。でも彼は行動的な人物で、もう少し若い方なんじゃないかと思い、新訳では若々しい話し方にしました。また、読み聞かせをしやすいよう、短文でリズムある文を心がけています。ぜひ小さいお子さんに読み聞かせしてもらいたいです」(福岡先生)

実は、トークショーではじめて知った(かもしれない)のですが、図書館で読んだあの「ドリトル先生」は井伏鱒二が訳したものであった! という事実。古典的な表現が多いというのも頷けます。新訳では、ドリトル先生がだいぶ若返った模様です(挿絵は原作と同じ)。

そして、“ドリトル先生を読み聞かせ”という提案も! 5歳児にはまだ無理だろうと思っていたけれども……。福岡先生の軽快なトークに引き込まれるうちに、「ドリトル先生」の楽しさに、子どもにいち早く触れさせたいと思うように。「試し読み、チャレンジしてみようか」という気持ちになってきました。

福岡先生が「ドリトル先生」に辿りついたきっかけは…顕微鏡と、図書館通い!

トークショーでは、福岡先生の少年時代のエピソードもうかがいました。

「子どもの頃は友達がいなくて、両親が心配をして顕微鏡を買ってくれたんです。友達に自慢してコミュニケーションをとりなさい、と安物の顕微鏡を。私は早速、顕微鏡で蝶の羽をのぞいてみました。そこにはミクロな小宇宙が広がっていて、私はますます友達のいない昆虫少年となりました(笑)」(福岡先生)

顕微鏡を手に入れて、さらに好きなものにどっぷりと浸かることになった福岡少年。

「ですが、子どもが一番成長するのは、孤独なときなんじゃないかと今では思ってます。顕微鏡を手に入れたことで、一体どこのどんな人がこれを作ったのか知りたくなりました。今ならグーグル先生が教えてくれるけれど、昭和ですから、近くの公立図書館に通い、顕微鏡の歴史について調べ始めました。何度も足を運ぶうちに、ついに本が分類され、3~4階建てにぎっしり並んだ書庫の存在を知りました。そして自然科学は400番台、生物・虫は460番に並んでいることをつきとめました! この“道草”にこそ意味があると思うんです。図書館では、本が、背表紙が自分を呼んできます。目的地まで一足飛びで行くインターネットでは、本来学べるはずだったさまざまな豊かさがなくなってしまう。本が自分を呼んでくるときから、読書は始まっていると思うのです」(福岡先生)

図書館の書庫、460番で岩波の『微生物の狩人』という本に辿りついた福岡少年。その後、さまざまな本の“道草”をして、図書館で出会ったのが、「ドリトル先生」だったそう。

スタビンズくんが仲間に加わる『ドリトル先生航海記』が子どもにおすすめの理由

「ラッキーだったのは、最初に読んだのが『ドリトル先生航海記』だったこと」と語る福岡先生。その理由は2つ。

理由1:語り手=スタビンズくんの形式が俄然面白い!

『ドリトル先生航海記』が、シリーズ1作目の『ドリトル先生アフリカゆき』と大きく異なるのは、友人スタビンズくんがドリトル先生の助手になること。

「物語の語り手としてのスタビンズくんがあらわれ、助手が見聞きしたことを後から語るというスタイルに変化しています。聖書の福音書が、キリストの言葉を弟子が伝えるというスタイルであるように、物語が俄然いきいきとしてみえるんです」(福岡先生)

理由2:子どもは「スタビンズくんになりたい!」と憧れる

『ドリトル先生航海記』に子どもがワクワクする理由は、スタビンズくんの存在自体にも!

「9歳半のまずしい少年、スタビンズくんは、街で偶然ドリトル先生に出会い、冒険に出かけます。ドリトル先生は、スタビンズくんのことを『ミスター・スタビンズくん』と敬称をつけて呼ぶ。初めて、自分のことを子ども扱いしない大人に出会えたんですよね。家庭でも学校でも、子どもにとって大人は垂直の関係にある相手。抑圧的でもなく、世話をしてくれるわけでもない、斜めの関係にある大人に出会えることは、子どもにとって大事なこと。『そういう関係の相手を見つけたスタビンズくんみたいになりたい!』と憧れる少年少女の読者が多いからこそ、現在まで、児童文学として読みつがれているのでしょう」(福岡先生)

スタビンズくんや読者、そして福岡先生を魅了するドリトル先生。

「物語の中で、ドリトル先生は自分を“ナチュラリスト”と呼んでいます。井伏鱒二は“博物学者”と訳していますが。“ナチュラリスト”は、“自然を愛する人”という意味。19世紀の時代に、ドリトル先生は細胞をすりつぶすのではなく、生命が語るのを書き留めるスタイルで研究をしていたわけです。これは分析的な近代科学に対するアンチテーゼともいえます。私は分析的なトレーニングを行いながら、ドリトル先生に憧れてきました」(福岡先生)

福岡訳が井伏訳を決して超えられないワケとは……?

『ドリトル先生航海記』新訳に期待が高まるも、福岡先生から「井伏鱒二訳を超えることはできないんです」という衝撃の一言が。

「“Doctor Dolittle”を“ドリトル先生”と訳したのが、井伏鱒二なんです。“Do little”とは、ほとんど何もしない、つまり“オサボリ先生”という意味(笑)」(福岡先生)

井伏鱒二なくして、“ドリトル先生”は存在しない、ということですね。

とはいえ、現代の日本でも違和感のない若々しいドリトル先生、読み聞かせにも適した短文で書かれ、さらに新解釈も加えられている福岡訳の誕生は、母親である自分にとってもうれしい限り。

後日、5歳児に「ダーウィンを読み聞かせしてくれたかわりに、ママが別のナチュラリストの先生の話をしてあげるね」と、新訳『ドリトル先生航海記』を一章ずつ読み聞かせをし始めました。

文章のテンポがよく、読みやすいのが大助かり。5歳児もじっと耳を傾けて静かに聴き入っていました。そして、翌日にもリクエストが。毎晩はさすがに難しいので、週末限定になりましたが、読み聞かせは続いています。

新訳ということで、親も続きが気になって読み聞かせを楽しめています(これ、大事。親が興味ない本だと、眠気との闘いという悲劇が訪れますからね……)。

(ちなみに、ミュベールPRのTさん、娘さんが幼稚園の先生として働いているそうなのですが、勤務先ではこちらの2冊、『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』と『ドリトル先生航海記』を分かりやすく読み聞かせしていて、子どもたちも大変興味を持っているそう。なんてよい取り組みなんでしょう……!)

ママ目線で語ってきた、おすすめの福岡先生和訳本2冊。読んでいると、子どもが理系分野に目覚めていつかナチュラリストに? なんて淡い期待も抱いてしまう母です(あとは、顕微鏡を買い与えなくでは、と・笑)。

大人と子ども、一緒に楽しめる本。おすすめです!

高見澤恵美 Emi Takamizawa

LEEwebエディター・ライター

1978年、埼玉県生まれ。女性誌を中心に女性の性質や人間関係の悩みに迫り、有名無名千人超を取材。関心あるキーワードは「育児」「健康」「DIY」「観劇」など。家族は夫と4歳の息子。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる