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藤原千秋

【文化は子どもからやってくる】 〜『約束のネバーランド』〜

  • 藤原千秋

2019.05.04

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「想像上の素敵な子育て」

いつか、わたしが「ママ」になれたなら。

あの歌を聴かせてやろう。
あの本を読んでやろう。
あの場所に連れて行って、あの食べものを、あの服を。ママとして、

「与えてあげよう。」

 

ごく若いうちに卵巣腫瘍を患い、そのほとんどを摘出してしまったわたしは、不妊治療を諦めた後、思いがけず子どもを授かり、3人育てることになりました。

<想像上の素敵な子育て>は幾重にも思い描いてきたものの、実際に子どもを抱えてみるとわたしにはできなかったことばかりでした。よもや「読み聞かせ」すら満足にできないことになるとは逆に想像もしていませんでした。とほほですが。

でも文字通り瞬く間に時は流れ、子どもはわたしとは違う人間に育ちあがっていきます。

「こんな物語を、知識を、文化を与えてやろう」ではなく、子ども自身が、わたしの知らない世界を連れてきて、教えてくれた話、驚きや喜びがあること。

そんなことも、子どもが生まれる前、まだ幼かったうちには想像することすら、わたしにはまたできなかったことでした。

『約束のネバーランド』

『約束のネバーランド」単行本をKindleで購入。

『約束のネバーランド」単行本をKindleで購入。

さてわたしが子どもから教えてもらった作品や世界は、この6年ほどのあいだ数多あるのですが、直近、「母さんこれすごい面白いよ、観てみなよ」と勧められたばかりの『約束のネバーランド』が、本当にものすごかったのです。

すごいと伝えたいために「ものすごい」と言うなんて、職業ライターとして「語彙……」って言われかねない情けなさなのですが、そのくらいの衝撃を受けました。世界観もキャラクターもストーリーもすごかった(……)。

『約ネバ』と略されアニメ化もされるほどの人気を博しているのでもう知っている、観てる、読んでるという方も多いと思いますが、かんたんにご説明しますと、『約束のネバーランド』とは「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2016年から連載されているマンガ作品で、原作者は白井カイウ、作画は出水ぽすか。

母さん寡聞にして原作者の方も作画の方も初めて知りました。ジャンプはもう今はハンター(『HUNTER×HUNTER』)だけしか追いかけられていませんでしたから、『ONE PIECE』も脱落してから数十巻進んでしまって何が何だかで……。

『約ネバ』も今年(2019年)1月にフジテレビのノイタミナ枠でアニメ化され、放送終了した後にAmazonPrimeで後追い視聴したレベルなので、わたしはまあ「遅い」し「浅い」のです。

けれども一気観して最終話が終わった朝5時半、いそいそとAmazonKindleで13巻分、大人買いするくらいにわたしは物語のちからに打ちのめされてしまいました。面白すぎました。

物語の舞台は孤児院「グレイス=フィールド」。「ママ」と呼ばれる特別なシスター、美しく優しい「イザベラ」の元で、子ども達は愛情をたっぷりかけられ、のびのびと幸せに暮らしている。11歳の少女「エマ」もそう、天真爛漫で、ママが大好き。同い年の「きょうだい」である聡明な少年たち「ノーマン」や「レイ」と共に、試験で「フルスコア」を叩き出すほど知能も高い。そんなエマは、里子に出される年少の少女を見送りに行った先であるものを目にしてしまう……。

フィクション作品からもれなく寓話性やら教訓やらを引き出そうとするのは、あまりスマートな姿勢ではないなと思いつつも、この物語の世界観と設定からつい考え込まずにいられないのは「母性とはなんぞや」「子どもの幸せとはなんぞや」というわたし自身のありよう、根源に関わる問いだったりします。

「ママ」

子どもが、子どもの立場からこの作品を読んだり観たりするのと、いやしくも人の「ママ」として生きる側面をもつわたしたちがこの作品を読んだり観たりする際に震わされるこころの部分は、少し違うのではないかと思わずにいられないのです。

まだ物語全体からでは序盤であろう、アニメ版の最終回がまたすばらしい構成と展開で、わたしは感極まり声を出さずに泣きました。

かつて子どもたちに対し「与えてあげよう」などと考えていた、自分の幼さ、おこがましさをしみじみ思い、そうしてわたし以外の「ママ」が、この物語からいったい何を感じるのか、知りたいと強く思ったのです。

藤原千秋 Chiaki Fujiwara

住宅アドバイザー・コラムニスト

掃除、暮らしまわりの記事を執筆。企業のアドバイザー、広告などにも携わる。3女の母。著監修書に『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など多数。LEEweb「暮らしのヒント」でも育児や趣味のコラムを公開。

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