自分自身の安定にもつながる
三宅香帆さんが【“書く”ことを続ける理由】「何が好きか。何を感じているか。書くことで自分自身が安定します」
2025.02.13
書いてわかった、自分のこと――話題の本の著者に聞く
私が“書く”ことを続ける理由
自分らしく思ったことを表現する……それを実践し、道を切り拓いた人の発見とは? あなただけの言葉を記す意味とヒントが、ここにあります。今回は、三宅香帆さんにインタビューしました。
INTERVIEW
何が好きか。何を感じているか。書くことで自分自身が安定します
三宅香帆さん


三宅香帆さん
文芸評論家
1994年高知県生まれ。京都大学大学院在学中に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)を出版しデビュー。『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)など著作多数。自身のYouTubeチャンネル「三宅書店」では“語る”技術の向上にも挑戦中。
気になる本はあれこれあるのに、ついスマホばかり眺めて一冊も読めない……私たちの日常の「なぜ?」にフォーカスした著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)が大ヒット中の文芸評論界の新星・三宅香帆さん。着眼点の鋭さもさることながら、忙しすぎて文化を摂取する余裕を失っている現代人の問題点を明快に伝える文章力が評判です。
「本を書くときは、まず『こういうことを書きたい』というテーマ設定をしてから目次をつくるようにしています。書くのは決して楽ではないですが、私は読むことが好きなので、いろいろ工夫するのが好きなんでしょうね。『こうやったらもっと伝わるんじゃないか』って」
「非公開設定」で、まずは他者の視線から自由になる
そんな三宅さんの文章術がより身近に感じられる著書が『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。私たちが“推し”について語るとき、「ヤバい!」「泣けた」のようなありきたりな言葉しか出てこないのはなぜなのか? その謎を解き明かしつつ、感動や愛情を表現するノウハウを示した著書にも、実は裏のテーマが。推しを語る言葉を磨くことが、SNS全盛の社会で自分を守ることにもつながっているといいます。
「もともと人間は、他者の言葉をまねて自分の言葉をつくっていく生き物だと思うんです。でも、自分の意見が他人の意見と完全に溶け合ってしまうのはどうなんだろう?と。特に日本は『空気を読まなきゃ』という圧もあったり……。『いいね』をもらったりバズらせたりすることと自分の言葉や文体をどう両立させるかは、私にとって大事なテーマです」
言葉は、自分そのもの。それを磨くために三宅さんが続けているのは、仕事用の読書メモと、日記代わりのブログを書くこと。ただしそのブログは、三宅さん以外誰も読むことのできない非公開設定になっています。
「日記を書くことは小さな頃からやっていて、習慣になったのは中学生の頃、自分のための読書ブログをつけ始めてから。文章は特に上手でも下手でもありませんでしたが、自分のためのものを書くのは、昔から好きでしたね。非公開にしたのは、感情を言葉にすることと他者に伝えることは別物だと考えるようになったから。自分が思うことや感じていることは、他人にそのまま伝えるとどう思われるかわからないものも多く、皆さんも、そこが混ざってつまずくんじゃないかと思うんです。なので、一旦誰にも見られない場所で言語化してから、どれを伝えてどれを伝えないかを取捨選択するほうが健康的なのかな?と。そうすれば『SNSにあんなこと書かなきゃよかった』という後悔は減る気がします」
ほぼ毎日記すブログに書いているのは、その日の行動や仕事の進捗から、感じたこと、考えたこと、趣味の観劇の感想まで、思いつくままに。箇条書きの日もあれば文章でしっかり綴る日もある、非公開ならではの自由なスタイルです。
「人に言えない気持ちを発散させたり、反省したり。私の場合、仕事や人生での選択については日記を書きながら考えることが多く、自分を見つめ直す大事な手段だと感じています。なんとなく悩んでいる、ぼんやりとしんどさを抱えているときなど、頭の中にしまったままだとわからなかったことが、言葉にすることで整理されたりするんです。読み返してみて、定期的に同じことを悩んでいることがわかったのも発見でした」
さらに、日記の中で推しについて考えることも、ひとつの楽しみなのだとか。
「テレビ出演やライブの感想を共有するように、推しについて語ること自体にはほかの人と一緒に波に乗るダイナミズムのおもしろさが大きくあると思います。ただ、推しにスキャンダルが発生して世間から批判されたり、自分もモヤモヤしたりしたときには、大勢の波に振り回されるとすごくしんどくなる。そんなとき、誰もいない場所で孤独に『推しのどこが好きだったんだっけ?』とじっくり考え直してみると、自分なりの結論が出て気持ちが落ち着いたりもする。自分は自分、皆と一緒である必要はないんだと」
発信は、相手との距離をいかに詰めるかを考えて
一方、仕事の文章やSNSなど外に向けて発信するときに、三宅さんがまず考えるのは「読み手が誰か」。どんな人に読んでもらうのかを決めることが、心を動かす文章の第一歩になるといいます。
「せっかく書いたのだから、誰にでも読んでほしいと思いますよね。でも頭の中に読者を設定すれば、さらに伝わりやすい文章になる。いわゆる“自分語り”であったとしても、『こういうネタや言葉が刺さるんじゃないか』というフックが浮かぶと思うんです。あとは相手との距離感と、その詰め方。書く内容についてどこまでを前提とするのかを測り、どこまで解説するかを考えるのも大事なことです。自分に向けて書いているものと内容を変える必要はなくて、発信の仕方と言葉の使い方を変えるだけで、伝わりやすさが全然変わってくるので」
伝わった手ごたえが得られれば、次はもっとかっこいい感想を書いて、人に感心されたいという欲も湧いてくるもの。「発信する以上、たくさん読まれて褒められたいという功名心は向上心そのもの」と、三宅さんは肯定的にとらえています。
「いい、悪いよりも『ここが好き』という思いを優先し、具体的に書いていく。自分が何を考えているか、どういうことを感じる人間なのかを言葉にすることで、他人との違いも見えてきます。推敲を重ねて技術がついてくれば自信が持てるようになり、それがさらに自分自身の安定にもつながるんじゃないでしょうか」
どんなことをどうやって書いてますか?
1
日記代わりの非公開ブログで思考を整理し、発信に備える

「大学生くらいまでは紙の日記帳でしたが、何かあったときに一発で燃やせないなと思って(笑)」と始めたブログ。一般的なフォーマットを使用し、入力はスマホかパソコンで。観劇の感想などは、帰りの電車で書くこともあるという。時間がない日は日付だけ入力し、後で書くクセをつけている
2
アナログとデジタルを使い分け、読書の記録を詳細に

文芸評論家という仕事柄、読む本の数は膨大。なので、読んだ内容を覚えておくための読書メモは必須。「日記と違って、自分の感想というよりは本の要点、のちに原稿や論文で引用するかもしれない箇所を重点的にメモしています」。基本的に、紙の書籍のメモは紙のノートに手書きで、電子書籍の場合はスマホのメモアプリに入力と、アナログとデジタルを併用するスタイル
まだまだこれも知りたい!
三日坊主にならないためには?
「後で書くのもOK」など、ルールで自分を縛らない
何を書けばいいかわからないときは?
好きな書き手の文体をまねすることから始めては?
書いたことを振り返りますか?
自分のためだけの感想も、とりあえず残しておく。読み返すとおもしろいし、必ず発見があります
書くことでどんないいことが?
悩みやしんどさを言語化し、整理できる。自分を見つめ直す大事な手段です
Staff Credit
取材・原文/大谷道子
こちらは2025年LEE3月号(2/7発売)「なりたい自分をつくる”書く”力」に掲載の記事です。
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