家族に深くかかわってきた、エッセイスト・村井理子さんに聞く
心を少し軽くする【親・兄弟姉妹との関係のヒント】「自分の気持ちも変わっていくから、関係は完全に断たないほうがいい」
2024.12.22
遠慮がなかったり、うまく話せなかったり……近いからこそ難しい!
時にしんどい「親・兄弟姉妹との距離感」
長い間、一緒に暮らしてきた実の家族だからこそ、ちょうどいい距離感って難しいもの。いっそもう連絡をとらなくても!とすっぱり割り切れないのも、また家族ゆえ。このモヤモヤを、まずはみんなでシェア。そして、いい方向に向かうための手がかりを探ります。
経験者の言葉だからこそ、納得感あり!
ちょっと心が軽くなる「親・兄弟姉妹との距離感」のヒント
心の底には愛情があるからなおのこと、実の家族は難しい! 家族に深くかかわってきた村井理子さんに、実体験からのアドバイスをいただきました。
INTERVIEW
自分の気持ちも変わっていくから、関係は完全に断たないほうがいい
村井理子さん
幼い頃の家族の思い出。実母の看取り。兄の突然の死と、その“終い”の記録。翻訳家として活躍しながら数々のエッセイも手がけ、中でも家族に関する著書も多く持つ村井さん。家族を書き続ける、その理由はどこにあるのでしょうか。
「私が学生時代に亡くなった父も含め、全員がいなくなっているということが大きいですね。私ひとりだけ残されている立場で、すごい喪失感というか、ぽっかり本当に穴が空いたような気持ちになっている。その感覚がやっぱり、家族を書くことにつながっていますね。それに、家族のことって書きやすいですよ。物書きとして書かずにはいられない(笑)」
飲食店を経営する多忙な母、気難しい父、幼い頃はやんちゃで、成長するにつれてどんどん無軌道になっていった兄。互いに思い合っていたのに、いつも何かが噛み合わず、「わが家は機能不全だった」と村井さん自身が思い返す家族。
「兄にはすごく苦労させられましたね。5年前に突然亡くなったんですが、お金を貸してくれだとか、もういろいろとあったので。私は『貸したらもう、最後だ』と、頑なに拒否した。後悔しているとすれば、『そのくらいのお金、貸してやればよかったなあ』って。兄の死という、その終着点がわかっていたら、貸した1万、2万で得られたであろうちょっとした幸せみたいなものを、与えることができたのになって。私自身が、もっと大人になって兄を支えればよかったと。結局は、突然死されたことで、それどころではない金額がかかりましたからね(笑)。『どうせお金がかかるんだったら、かわいそうなことしたなあ』って」
ともに兄の“終い”をやりきった、元義姉は、村井さんにこう話しました。
「『たぶん、理子ちゃんがあの人に“助けて”って言ったら、あの人すごく喜んだと思うよ』って。そっか、確かに兄はそういう人だったな、って思った瞬間に、自分の冷たさというか……うん、そこはやっぱりひとつ大きな後悔ではあります」
昔は理解できなかった親の感情が、年を重ねた今、実感できるようになりました
子育てに翻弄される時期は親まで気が回らないのは当然
父が亡くなって間もないうちに違う男性と付き合いを始めるなど、村井さんにとっては受け入れられない部分もあった母。彼女に対しても、やはり複雑な思いを抱いていたといいます。特に自身が子育てで忙しい中でよかれと思って家に誘っているのに、直前で何度も約束を破られたときには、母に対して強い言葉を投げつけることもありました。
「何度ももういやだと距離をおこうとしたことはあったけれど、関係を完全には断ち切れなかったんです。私にとって母のいない世界っていうのは、ちょっと想像できなかったんですよね。母は、私がたとえでっかい罪を犯して服役して出てきたとしても、絶対に受け入れてくれるっていう、何も言わずに迎え入れてくれる存在なんだっていう確信がずっとあった。それなのに、私は彼女にとってそういう存在にはなれなかったなって。兄に関しても、背を向けつつも最後まで完全には断ち切れなくて、メールだけではつながっていましたね」
双子の幼児の世話に追われ、余裕がなかった当時の村井さん。母の気持ちを想像することはなかなかできなかったけれど、子どもたちが成長するにつれて見えてきたことも多くあります。
「母もあの頃は相当苦労をしたんだろうなと、自分も年を重ねたからこそ理解できることが多くあるんですよね。子どもとしての視点でなく、違う角度からの感謝というのがすごく出てきたわけです。子育て真っ最中だと子どものことに一生懸命だし、とても混乱している時期。そこに加えて親との関係までなんて、もう無理なことだと思います。自分も経験してきたことだから、今悩んでいる人の、その気持ちはすごくよくわかる」
今の感情で、未来の芽まで摘み取らないように
3人の家族を見送った村井さんが今、家族との関係に悩んでいる人に対して思うのは、家族との関係を自分から断ち切ってしまうのは、待ってほしいということ。もちろん、虐待を受けていたりなどの場合はその限りではないけれど。
「私自身がそうだったように、いつか自分の立場や視点が変わったら、許せたり、わかり合えたりするときがくるかもしれないから。それは10年後、20年後かもしれないけれど、未来に訪れるかもしれないチャンスまで断つのはどうかな、と思うんですね。未来には何があるかわからないし、そのときの自分が今の自分と同じ考えであるかもまったくわからない。ラストチャンスの芽まで自分から摘み取ってしまわないほうが、いいんじゃないかな。
……不思議ですよね、私、義理の母や父には、ちゃんとキレ散らかせるんですよ、ものすごくストレートに怒れるんです。でもなぜか、実の家族にはそれができなかった。腹が立ったり、それは違うと感じたりしたなら、本当はちゃんと、キレちゃってよかったんだと思う。それで相手もキレたら、『ああ、意見が違うんだね、仕方がないね』でよかった。それなのに私は『もう、わかったわかった、ここからは離れます』って対決しないってやり方を選んで、背を向けてきてしまったんですよ。だって、血のつながったもの同士で傷つけ合いたくなかったから。でもね、私は兄が死んでしまったときに、ものすごい大きな喪失感を感じたんです、あんなに嫌いだったのに。もし読者の方が親きょうだいとの関係を切ってしまおうかと思っているなら、『二度と会えなくなったときの喪失感』まで未来の自分は受け入れられるのか、それを想像してみてほしいなとは思いますね」
LEE読者からの質問に答えてもらいました
父は男が稼ぐという世代で、私が仕事の話をするといい顔をしません。話題の提供にかなり言葉を選びますし、父の話したい話題に相槌をずっと打っているので気を使います。今後も仲が良好であることを優先するなら、このままのほうがいいのでしょうか。それとも本音を伝えたほうがいいのでしょうか。(LEEメンバー くるみさん)
はっきり伝えれば、「伝えられた」という気持ちは残ります
言いたいことは、はっきり伝えたほうがいいんじゃないかと思います。それで結果的には、何も変わらなかったとしてもです。昭和の父親って、今さら娘が何を言っても本質は変わらないと思うんですよ。でも、あなたの中で「私はちゃんと言ったんだ」という、その事実は残ります。それがあなたにとって自信になると思うから、本音を伝えてみてください。
遠方に住む母は自分が何事においても正しいと思っており、思いどおりにならないと怒ります。私の父やきょうだいもずっと母の怒りを避けてきた結果、今の頑固な母になってしまった面もあると思い、今後の接し方について悩んでいます。(LEEメンバー honomamaさん)
思いきって、一度キレ散らかして距離をとってみるのもあり
正当な理由があるならともかくですが、おそらく、キレることで家族をコントロールしようとしてきたんじゃないかと思います。あなたも勇気を出して、「もうさよなら!」って覚悟を決め、1回キレ散らかして距離をとってもいいかも。でもね、そういう人って距離をおかれることに慣れていないから、少し放置してみると歩み寄ってきたりもするんですよ。
母は自分の気分で連絡してきます。仕事があると伝えると、仕事の終業時間ぴったりに電話をかけてくるときがあり、こちらも疲れているのでさすがにしんどいです。本人に悪気がないため、注意もしにくいです。(LEEメンバー こなおさん)
スマホの電源を切って、シラを切るのはいかがでしょう(笑)
私も同じようなことを義父母にやられていたので、気持ちはよーくわかります。わざわざタイミングを見計らってかけてきてると思うと、ゾッとしていたものです。私はさっさとブロックしちゃいましたけどね。うーん……電源切っちゃうとかはどうですか(笑)? 後から文句言われたら、「なんか電話の調子が悪かったみたいで〜」なんてシラを切るとか!?
私と妹はともに離婚して独身です。私は老後は一人一人自立して生きていきたいのですが、妹は支え合ってそばにいたいと思っているようで困っています。(LEEメンバー nanaさん)
妹さんが夢中になれる対象を見つければ、解決できるかもしれません
妹さんは、姉であるあなたに背負ってもらいたいんですね。やさしいあなたはスパッと切り離すことができない。妹さんが、何か推し活的な、夢中になれることを見つければ解決できそうですね。そういう背負ってもらいたいタイプの人って、別の対象を見つけるとすんなりと去っていくものなんですよ。そういうものを見つけるサポートをしてみるとよいかも。
Staff Credit
撮影/馬場わかな イラストレーション/Aikoberry 取材・原文/福山雅美 本誌編集部
こちらは2025年LEE1・2月合併号(12/6発売)「時にしんどい 親きょうだいとの距離感」に掲載の記事です。
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