マルチタスク時代の頭の中は忙しい!
私の脳内図
各ジャンルで活躍する人の“脳内”をのぞき見する連載。今回は漫画家の鳥飼茜さんが登場。『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』など、女性の本音を赤裸々に描く彼女の、意外な頭の中を拝見できました!
鳥飼 茜さん〈漫画家〉
頭の中は“不安”でいっぱい。漫画を描いているときだけ不安を忘れられるんです
とりかい・あかね●大阪府出身。2004年、漫画家としてデビュー。『おんなのいえ』(講談社)、『サターンリターン』(小学館)、TVドラマ化もされた『地獄のガールフレンド』(祥伝社)など代表作多数。『モーニング』(講談社)31号(7月4日発売)より、待望の新連載『バッドベイビーは泣かない』が開始予定!
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漫画&映画『先生の白い嘘』
累計部数100万部を突破した、鳥飼さん原作の同名漫画が映画化。男女の性の格差に切り込む衝撃作として話題に。教壇に立つことで男女不平等への溜飲を下げている高校教師・原美鈴(奈緒)と、彼女を巡る歪んだ人間関係を描く。7月5日(金)全国劇場&3面ライブスクリーンにてロードショー。
鳥飼 茜さんの脳内図
心配性で、“不安”と漫画の創作を行き来する毎日。しっかり者の息子に相談したり愛犬と過ごすことで、バランスを保っています
「漫画を描かずに“現世”ばかりを生きていると『歩いていたらビルが倒れてくるかも』などと悪い想像をして、外や旅行へも出かけづらい性質(たち)。別世界に没入できる創作と現実を往復しているほうが、私は健全に生きられます。不安なことを息子に相談すると、ゲームをしながらもけっこう具体的な打開策を提案してくれるんです。愛犬の存在も、心のオアシスに」
女性の生きづらさやジェンダーといった重くなりがちなテーマを扱いながらも、ストレートで胸を打つセリフや描写で読者を惹きつける鳥飼茜さん。彼女の頭の中の大半を占めるのは、意外にも“不安”なのだと言います。
「体に痛いところがあると『もしかして大病かも』と心配になったり、出かけてもコンロの火を止めたか気になると、火事で家が丸ごと焼けている想像が止まらなくなったり。現世を生きることが、私にとっては心配だらけで大変なことなんです。でも、創作で手を動かしているときは、意識がすべて作品世界へ行って、不安がなくなる。創作の時間と現実を行き来することで、バランスがとれているのかなと思います」
15歳の息子の母でもある鳥飼さん。特にお子さんの乳幼児期には、日々不安が押し寄せていたそう。
「子どもは究極に“現世”のものだったんですね。現実世界のことってすごく責任が重いから、全うできなかったらどうしようと心配になっていたんです。他人に子どもを預けたり外注したりできなくて、全部自分でやらなきゃ、子どもが病気やけがをしたら私の責任だ、とどんどん神経質になって。もっと大らかに受け止められたらよかったのですが、私って、つくづく子育てには向いていないなと思いました。
それでも息子はしっかり者に成長して、今では私が不安を知恵のある人に相談する、みたいな関係性に(笑)。反抗期もあまりないのですが、友達とゲーム中など興奮しているとき、攻撃的だったり差別ともとれる言葉を使うことが前にあって。これは親としてひるまずに、よくないことはきちんと伝えなければ、と説教したこともあります」
張りつめがちな日常の中で、癒しはありますか?
「4年前から飼っている犬が可愛くて可愛くて。スプリンガー・スパニエルという耳が垂れた大きな犬種で、漫画を1ページ描くごとに抱っこして癒されています」
鳥飼さんの代表作『先生の白い嘘』が映画となり、今夏公開に。男女の性の格差を描いた注目作で、原作は’13〜’17年まで連載されていました。
「連載が終わった後に、#MeToo運動が盛り上がったり、性暴力のニュースが増えたり。こういったテーマを扱う漫画としてはタイミング的に早かったと思います。私は子どもの頃から、親戚の集まりで男性はお酒を飲んで女性は働いているみたいな、みんなが自然に受け入れている性別役割を見過ごせないタイプで。成長するにつれて、アニメでの女の子キャラのパンチラや電車での痴漢など、女性がエッチなものとして消費されることに嫌悪感を抱くように。
学校などでは男女仲よくしていても、立場や場面が変われば、加害者と被害者にもなりうるんだと気づき、その引っかかりが作品につながりました。今回映画化にあたって、あらためて『先生の白い嘘』の販売部数を聞き、思っていたよりも多くて、嘘でしょと(笑)。問題意識がある人に少しずつ届いて、長い間じわじわと読み続けてもらえているのかなと思うとうれしいですね。原作と映画は別物だと思うのですが、どんどん時代が変わっている中で、この作品が今どう受け止められるのかということには、期待と不安があります」
間もなく連載をスタートする最新作『バッドベイビーは泣かない』では、妊娠・中絶がテーマに。
「昨年ぐらいから緊急避妊ピルのことがニュースになったりして、予期せぬ妊娠や中絶を巡って若い世代の女性が理不尽な目にあっているのでは、と思いテーマに決めました。でも、調べてみると実際の中絶件数は20歳未満より40代のほうが多いんです。その原因は、もう妊娠しないだろうという男性の無責任なのか、女性にも油断があるのか、夫婦でもセックスを拒みづらいといった事情があるのか……。どのくらい突き詰められるかわかりませんが、今後はそのあたりも描いていけたらと思っています」
Staff Credit
撮影/田上浩一 イラストレーション/オザキエミ 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
こちらは2024年LEE7月号(6/7発売)「私の脳内図」に掲載の記事です。
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