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私のウェルネスを探して/最果タヒさんインタビュー後編

【最果タヒさん】インターネット発詩人の「SNSとの付き合い方」「顔出ししない理由」

  • LEE編集部

2024.06.02

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最果タヒさん

 
取材日は、サイン本を作るために出版元のリトルモアに来ていた最果さん。ゴールドやシルバーのペンを使って、本に自身のサインと詩の1フレーズを丁寧に書き添えていきます。ペンが入っているポーチは、絵本『わたしのワンピース』(にしまきかやこ著/こぐま社)のうさぎのキャラクターが書かれているもの。「小さい時から家に絵本がたくさんあったので、絵本が好きなんです」。
 
後半では最果さん今好きな宝塚、自身を育ててくれたという絵本について聞きます。また顔出しせずに活動を続けている理由やネットリテラシー、詩へ込めた思い、仕事論についても語ってくれました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回目を読む

生まれて初めてその人そのもの・その人自身を好きになった、宝塚の俳優さん

最果さんが、今好きなことは宝塚歌劇団の舞台を観ること。5年ほど前に初めて鑑賞してから好きになり、頻繁に足を運ぶようになりました。宝塚にまつわる連載も3本あり、“心のウェルネス”では好きな宝塚の俳優さんに手紙を書くことを挙げてくれました(記事末参照)。
 
「もともと宝塚ファンを描いた漫画『ZUCCA×ZUCA』(はるな檸檬著/講談社)が好きで、何度も読んでいました。宝塚への情熱を面白く愛おしく描いているのがすごく好きで。読んでいると、誰かを好きでいることがとても可愛らしいことに思えるんです。あまりにもこの漫画が好きなので、宝塚そのものも観た方が良いのでは……と思い始めて。それで実際に観てみたら、見事に好きになりました(笑)。観る時間は幸せそのものですし、すごく尊敬して素敵だなと思う人が舞台に立っているのは最高です!」

最果タヒさん
『無人島には水と漫画とアイスクリーム』コラボカフェで使われたコースター。

それまで好きなアーティストや作家はいたものの、その人自身ではなく、その人が作る作品が好きでした。だからこそ、その人そのもの・その人自身が好きという感覚が新鮮だと言います。
 
「作品そのものを楽しむ気持ちもあるのだけれど、同時に、舞台は『その場所にその人がいる!』ということにすごいパワーがあって、それが一気にこちらに届く感じがして。その人がそこにいるというキラキラで、心がいっぱいになることがあります。本当に好きだなぁ、大好きだなぁって気持ちでいっぱいになれる感じが、幸せなんです。舞台は生身の人が、その瞬間を演じていて、それを私もその場所で受け取って、同じ時間を共有しています。そして私はその瞬間を、自分の人生の一瞬として記憶していく。だから心が動く時、その人を丸ごと好きになってしまうんだろうなぁって思います。なんだか応援している人を客席で見ていると、燃えている炎を見つめているような気持ちになります。自分の人生の一瞬が、一人の人の人生の炎を受け取るためにあって、そして自分もそのために今燃えているんだ!って実感します。それって本当に特別な時間です。青春ってこういうものなんだな、って心から思います」

小さな頃の感覚を閉じ込めておける、それが絵本の魅力

最果さんが新刊発売に合わせて書店で行う選書フェアでは、よく絵本を選ぶそう。それは幼少期から絵本に親しみ、絵本が今でもとても好きだからだと振り返ります。
 
「母が絵本が好きな人で、家に絵本がいっぱいありました。毎日寝る前に母が絵本を読んでくれるんです。好きな絵本はたくさんありますが、『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん著/こぐま社)、『くまさんにあげる』(神沢利子、平山英三著/童心社)、『パンやのくまさん』(フィービ・ウォージントン&セルビ・ウォージントン著、まさきるりこ訳/福音館書店)。ホットケーキとかクッキーとか、絵がどれもおいしそうで好きだったんですけど、読むたびにその時の好きという感覚を思い出せるのがすごく幸せなことだと思って。小さな頃の感覚を閉じ込めておける、それが絵本の魅力だと思います。

最果タヒさん
『無人島には水と漫画とアイスクリーム』ゲラ。

以前に『ここは』(河出書房新社)という絵本を作らせてもらったのですが、イラストを担当された及川賢治さんがすごく素敵な絵を描いてくれました。ページをめくりながら、“この人が好き”“この家が好き”とかいう子が出てくると思うんですけど、それがその子の思い出になり、その思い出が本に込められていくことで、絵本がその子だけの絵本になる。それが嬉しいです」



詩が読んだ人自身の言葉になって欲しいから、私の存在感は薄い方がいい

最果さんは詩をブログで書き始めた当初から顔を出さずに活動してきました。その理由は、作家の顔や印象に影響されず「詩が読んだ人自身の言葉になって欲しいから」だと言います。
 
「昔、国語の教科書の最後に著者の写真とプロフィールが載っていて、小説を読んだ後にそれを見て、“ああ、この人の話か”となる感覚が、ちょっと嫌だったんですよね。そうならないように私の存在感は薄い方がいい、私のイメージがない方がいい。特に私の作品は、読んだ人が自分の気持ちを詩に重ねて、その人だけの作品として受け取ってもらうものだから、余計にそう思います。読んだ人自身の言葉がそこにあると思ってもらえるように、私はできるだけ透明でいた方がいいかなぁって。私は自分の気持ちを詩に書いているわけじゃないのですが、読み手はついそう思いがちで、丁寧に著者の意図を汲み取ろうとしてしまいます。でももっと読者の人が自分のものとして言葉を受け取ってくれたらいいなって私は思っています」

最果タヒさん
新刊出版の度に作成する購入特典のカード。

直接読者と会うことはありませんが、インターネットやSNSで、自分の作品を読んだ人の感想を見かけることもあるそう。もしネガティブな意見と出会った時は、距離を置くように気をつけているとか。
 
「私を好きじゃない人がいるのは当たり前のことで、でも、ショックは受ける感覚はあります。だからそこにはできるだけ近づけないようにしています。好きじゃない人がいるのは当たり前だし、私がその人に好かれようとするのも意味がないことです。インターネットとどう生きるかというより、人と人の関わりでしかないので、いろんな人と距離をどう取るかが大事なのかなと思います。いろんな人がいて当たり前だと思っていたいです。

最果タヒさん
最果さんの作品は韓国語・中国語でも出版されています。

一方で、自分の作品が誰かの生活のタイムラインに入ることがすごく美しいなと思って。本を撮影した写真とかたまに見かけるのですが、その人の部屋や本棚が背景に見えて、一人の人の生活の一部に本がなっているのがわかるのは嬉しいです。海外で詩集が翻訳されることもありますが、その本が同じように部屋の中で撮影されているのとかみると、言葉は分からなくても同じ世界の誰かの生活のなかに言葉が溶け込んでいるってわかって、そのことにとてもときめきました。日常に私の詩が入って、その人の日常が流れていく。それがすごく幸せです。自分が知らなくても、そういう世界があちこちにあることを幸せに感じながら私は私のペースでやっていく。これがインターネット上での幸せなやり方かなと思っています」

ふと詩に出会った人が“いいな”と思える気持ちを、とにかく大事に

詩や小説、エッセイを書くことに加え、最近では、バレエ団への原詩案の提供、アーティストへの歌詞提供など、ますます活躍の場が広がっています。取り組みの内容は違えど、考えているのは対1人の人、1人の気持ちを大事にしています。
 
「詩を読み慣れていない人は、学校の教科書で読んだきり、という人もいます。“詩を書いています”と伝えると驚かれることもありますし、詩って本当に人によってどんな存在かバラバラなんだなぁと思います。言葉は、自分と読む人の間にあるもので、自分から出てくるものというより、読む人の存在があって、開かれていくものなのかなという感じがします。でも誰かの気持ちを動かそう、こう書くと喜ばれるだろう、とは決して考えないようにしていて、それは、人と人はそんなに簡単に完全にわかることなんてできないし、誰かの気持ちをコントロールできると思って書いた作品は多分つまらないだろうなと思うから。

最果タヒさん
最果さんの詩の朗読を吹き込んだLP版『こちら99等星』。

いつもどんなふうに届くんだろうな、わからないな、と思いながら、それでも言葉を書いていくこと、言葉を書くことで知らない人の心に知らない形で届いていくことにどきどきして、それがすごく美しいことだと思えて、私は幸せなんです。ふと詩に出会った人が“いいな”と思える気持ちを、とにかく大事にしたいです。一人の人のいいなという気持ちに誠実に応えていきたい。それを一つずつ行なって、そうして積み重ねていく日々だといいなって思います。だから素敵なものを作りたいし、読む人の夢に応えられるような良い仕事をしていきたいと思います。なによりそうやってやることが私はとても楽しいです」

自分が積み重ねてきた作品や仕事に対して、つねに最善を尽くしたい

詩は、いつもスマートフォンで書いているという最果さん。「詩を書く時の気持ちはとてもフラット。自分の話をしようとすると面白くないし、どこか辻褄合わせをしようとするから、言葉としてもっとプレーンで、自分の予想からはみ出ているようなものがふっと出てくる瞬間を待っています。そんな言葉が書ければ、その言葉が次の言葉を呼んできてくれる。自分でも予想しなかったところに作品が着地すると嬉しいです」。長年書き続けてきた意地と誇り、詩と出会った人をがっかりさせたくないという真摯な気持ちが書くモチベーションになっています。
 
「いろんなところで詩を書かせてもらうけれど、その詩が誰かにとっては『初めまして』の詩なんだなということをいつも考えます。そこで、1人の人が偶然私の詩と出会って、好きになるかがっかりするか決まる。1回きりだと思って手を抜いてしまったら、その人にとっての私が終わってしまう。もっと美しい出会いがあったはずなのにできなかった、で終わらせたくない。初めての媒体やメディアに書く時はいつでも緊張します。

最果タヒさん
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』販促物として最果さんが直筆で書いた書店用POP。

私はこの仕事して17年ですが、自分が“よし!”と思えないと出せない。どこからがよし!なのかはあまりわからないけど、でも自分が納得するまでどうしてもひっぱってしまうところがあります。出してから後悔するような作品は、出したくないから……。自分が積み重ねてきた作品や仕事に対して、つねに最善を尽くしたいという感覚があるのかな、と思います。答えがない世界なので、自分が納得しているか、自分を恥じていないか、が唯一の道標みたいなところがあるんです。それを見失いたくはなくて。ちょっとスポーツっぽい考え方かもしれないですね。自分の誇りを保てるように、自分がどうしてもいやなことしないし、自分を恥じるようなことはしないように、ずっとずっと気をつけています。それが刺激的で楽しいんです。ただ頑固なだけかもしれないですが(笑)。それが私にとってのモチベーション、エネルギーになっています」

My wellness journey

最果タヒさんに聞きました

心のウェルネスのためにしていること

最果タヒさん
こちらは最果さん私物の和紙製レターセットとペンです!

「宝塚の応援している方に手紙を書くことです。ものを書く仕事をしていると、むしろ、一人の人に向けて自分の気持ちを書く、ということがすごく新鮮です。仕事だと、読む人の心に言葉が行き着いて、そしてその人の中で言葉が作品になっていくことがゴールだけど、手紙は本当にコミュニケーションだから。自分の気持ちを一人の人に伝えようとするとき、言葉にするたびに自分の気持ちが一つの形として目の前に現れて、改めてどんなふうにその人のことが好きで、自分は何を伝えようとしているのか実感することができます。そうやって言葉で書くことで気持ちを磨いて、一番澄んでいるところを相手に差し出していく。そんな繰り返しで自分の『好き』という気持ちがどんどんきらきらして、それを相手に伝えられる日々が、心から幸せだと思うんです」

体のウェルネスのためにしていること

「ヘッドスパのマッサージ器で頭をマッサージすることです。体のこり、頭のこりががごまかしが効かない年齢になってきて、このままだとやばいと思って。昔は自分の体のために時間を割くことが馬鹿らしかったんですけど、いろいろ溜め込むと後で痛い目に遭うと気づいて。頭のマッサージだけは毎日やっています」

最果タヒさん

インタビュー前編はこちらからお読みいただけます

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
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