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おいしい食べものと人がつなぐ3年間の記録 南青山の人気店『ふーみん』のドキュメンタリー映画が公開

  • 武田由紀子

2024.05.29

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「あのお店のあの味を食べたい」「あのお店のあの人に会いたい」。そんなふうに思う、自分にとって大切なお店があると思います。東京・南青山、骨董通りにある中華風家庭料理店『ふーみん』は、まさにそんなお店。この店でしか食べられないメニュー「納豆チャーハン」「豆腐そば」が食べたくて、そしてあったかい人柄のオーナー、ふーみんママに会いたくて訪れる人が多いお店です。そんな『ふーみん』とふーみんママを映し出すドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』が公開されます。

『ふーみん』が誕生したのは1971年。美容師を目指していたふーみんママこと斉風瑞(さいふうみ)さんが25歳の時、 友人からの一言をきっかけに、「こんなお店があったらいい」という思いからオープンしました。ふーみんママは台湾人の両親を持ち、おいしいものに敏感な味覚のおかげで、たくさんの人をおいしい料理で満たしてきました。70歳の時に『ふーみん』から引退しましたが、現在は1日1組限定のお店『斉』をオープンし変わらずにたくさんの人を笑顔にしています。3年半に渡って密着したドキュメンタリー映像には、ふーみんママのあたたかい人柄とおいしいものがつなぐ縁、今の時代に改めて大切にしたいゆるやかな人のつながりが詰まっています。

『ふーみん』の料理はふーみんママのルーツとも言える中華風家庭料理。そこにふーみんママの確かな味覚を生かしたアレンジ、お客さんからの「こんな料理が食べたい」というリクエストが加わり、たくさんのメニューが誕生しました。

最初に作ったメニューが「小腹が空いた時に自分が食べたいと思うおそば」という「ふーみんそば」。透明なスープにツルツルとした細麺、シャキシャキのもやしと小松菜、煮卵、大きなチャーシューが乗った定番メニューです。

「体調が悪い時に食べたくなる」「大きな鉢なのにペロリと食べられる」とファンが多い「豆腐そば」、ふーみんママが好きだったお店のメニューを自分で再現してアレンジした「ねぎそば」、納豆が食べられない人でもファンが多い「納豆ごはん」「納豆チャーハン」など、『ふーみん』でしか食べられないメニューも数多くあります。そこには、料理が好きなふーみんママと『ふーみん』が好きなお客さんが交わした記録とも言えるような名物メニューばかりです。

最初にオープンしたのは神宮前のお寿司屋さんの居抜き物件で、その後南平台へと移り、現在お店のある骨董通りへ。お店は、原宿・渋谷・表参道からも近く、たくさんのクリエイターが足を運びました。和田誠さん平野レミさん夫婦、三宅一生さん、絵本作家の五味太郎さん、イラストレーターの灘本唯人さん。『ふーみん』のお店のロゴイラストは五味太郎さん、文字は灘本唯人さんが手掛けています。

ふーみんママが70歳を迎えた2016年、お店の経営を甥に任せ、ふーみんママは『ふーみん』を引退しました。そして2021年、1日1組限定のお店『斉』をオープン、今も変わらずに腕を振るっています。

ふーみんママが最後に伝えてくれたのは

「食べることは心を作り、体を作ること。そして生きること」

私たちは、日々どんなふうに食べることに向き合っているでしょうか。忙しくてお昼ごはんも食べられない、疲れ果てて夕ご飯を作りたくない、買って来たもので済ませてしまう。そんな日もあると思いますが、食べることが私たちの体を作り、明日に向かって生きます。

ふーみんママの3年半の記録から伝わって来るのは、なんでもない日常や食べることがいかにみずみずしくかけがえがないのかということです。それによって“生”を享受し、元気になり、またおいしいものが食べたなくなる。また食べるという行為は基本1人で行うことなのに、それを作る人や一緒に食べる人という、ゆるやかな連鎖があることにも気付かされます。自分が今夜作る料理にも、実はそんな物語がある。疲れた日は、外で食べてしまってもいい。今日食べる一皿にもそんな背景があることに気付かされることで、改めて明日生きること、食べることを大事にしたいと思うのかもしれません。

そして映画を見ると、間違いなく『ふーみん』に行きたくなります。ふーみんママが残した味を、ぜひお店やホームページで紹介したレシピで、味わってみてください。

『映画 キッチンから花束を』

出演:斉風瑞    監督: 菊池久志  語り:井川遥    

ⒸEight Pictures

5月31日(金)より全国順次公開

武田由紀子 Yukiko Takeda

編集者・ライター

1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション勤務、WEBメディア運営を経てフリーに。子育て雑誌やブランドカタログの編集・ライティングほか、映画関連のインタビューやコラム執筆などを担当。夫、10歳娘&7歳息子の4人暮らし。

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