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石井絵里さん
ライター
本誌をはじめ、各女性向け媒体でカルチャー記事を担当。最近は近所の昔ながらの銭湯にドはまり中!
『あいにくあんたのためじゃない』
柚木麻子 ¥1760/新潮社
無意識の思い上がりや傲慢さ。自分ごとのようにも読める短編集
圧倒的なストーリーテリングと、登場人物たちの細かい描写で、いつも読みごたえのある小説を世に送り出している柚木麻子さん。プライベートでは子育て真っ最中と、40代でもある彼女の最新刊は、巷にあふれている偏見と、そこに負けまいと葛藤する人々が登場する短編集だ。
第一話の『めんや 評論家おことわり』は、他者を安易に批評したり、レッテルを貼ってしまうことの愚かしさについて問いかけてくる物語。主人公の佐藤は、かつてはその界隈で名が知られていたラーメン評論家だったが、過去のブログ記事が発端で、SNS上でバッシングされ続けている。
ネットの中傷に耐えかねた佐藤は、謝罪文を投稿した。すると同業のラーメン評論家より、佐藤を出入り禁止にしていたある店が「彼に来て欲しい」と言っているとの知らせを受ける。過去に自分がブログに取り上げ、批評した店を再訪すると、そこには店主の女性をはじめ、今までに佐藤がネット上でこきおろした人たちが、待ち受けていた。“男か女か性別がよく分からない”と書かれた人、“日本一可愛い超巨乳店員”と紹介された女性……。みんなは、佐藤の思い込みや偏見で書かれた文章や、配慮に欠けた写真により、傷つき、居場所を失ってしまっていたのだった。
インターネットの発達で、誰もが気軽に情報発信ができるようになった時代。だからこそ、佐藤のように無自覚な差別意識や、他者への配慮の欠如が、人の生活や人生を簡単に狂わせてしまうことに。ラーメン店の店主や客たちの、佐藤への逆襲劇は痛快だけれども、同時に、「自分も誰かを雑に扱ってないか?」と、反省も促されるよう。
そのほかにも、元アイドルで番組降板の危機にさらされている中年男性が、自分の引き立て役を求めて暴走していく短編『スター誕生』にも引き込まれる! 今の社会への鋭い視点、ユーモア、そして登場人物たちの成長を見守るうちに、おなかの底からパワーが湧き上がってきます。
『こまどりたちが歌うなら』
寺地はるな ¥1870/集英社
前職に疲れて、親戚が経営する小さな製菓会社へ転職した茉子。頼りない社長、実力はあるのに自分の待遇を改善しようとせずに働き続けるパート勤務女性、声や態度が大きな社員と、叱られっぱなしの部下。さまざまな人に囲まれながら、茉子は“会社内の違和感”に少しずつ声を上げていく。働くこと、人とかかわることの難しさや大切さがじわじわと響く長編小説。
『まさみ式 考えない晩ごはん』
小林まさみ ¥1650/オレンジページ
実用的でわかりやすいレシピが雑誌やSNSで人気の著者。本著は豚肉、鶏肉、牛肉・合いびきを材料に、5分の仕込みで2種類の「おかずの素」の作り方を紹介。同じ素材で保存袋を2枚使い、1食はすぐに食べられる冷蔵用、もう1食分はいつでも食べられる冷凍用と、作り分けができるのが便利! “まさみ式”で「今日は何を作ればいい?」という悩みから解放されます。
『へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。』
菊池亜希子 ¥1595/宝島社
本誌連載でもおなじみ菊池亜希子さんによる、2020年秋から約3年間の日々の出来事とその思いをつづったエッセイ第2弾。家族やペット、仕事や趣味の出来事などから生じる、つかみきれない感情の正体を、一度立ち止まってぐるぐると考えをめぐらして文章に。菊池さんのぐるぐるに、共感したり、なつかしさを感じたり。何気ない日常を愛おしく感じられる一冊。
Staff Credit
こちらは2024年LEE5月号(4/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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