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カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞

映画『落下の解剖学』息子の心模様があぶり出す夫婦の深層心理サスペンス

2024.02.11

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『落下の解剖学』

『落下の解剖学』
©LESFILMSPELLEAS_LESFILMSDEPIERRE

息子の心模様があぶり出す夫婦の深層心理サスペンス

なるほど、昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞しただけある、クセ者映画。まったくもって一筋縄ではいかない。だがそのモヤモヤ感こそ本作の醍醐味。今年の賞レースをジワジワ席巻しそうな本作は、正月ボケが抜けきらない頭にガツンと一発くらわしてくれる。

ドイツ人ベストセラー作家サンドラは、教師をしつつ作家を目指す夫サミュエル、視覚障害のある11歳の息子ダニエルと、夫の生まれ育ったフランスの雪山の山荘で暮らしている。ある日、愛犬と散歩から戻ったダニエルが、外で倒れている父親を発見。息子の叫び声でサンドラが駆けつけるが、夫の息はすでにない。山荘からの転落死で、サンドラに殺人容疑がかけられるが、彼女は無実を主張。事故か、自殺か、殺人か。唯一の証人ダニエルは何を語るのか――。

冒頭の死体発見まで、この夫婦について我々はほぼ何も知り得ない。だから何も見逃すまい、聞き逃すまいと全集中で凝視することに。“夫婦げんかは”“小説のネタは……”など、裁判におけるサンドラや捜査関係者の証言によって、嫉妬や失望など複雑な感情が漏れ出てくる。だが早まってはいけないのは、それらは話し手の主観によるもの、ということだ。だからサンドラを敵のように扱う警察の横暴に憤りつつも、常に彼女の言葉も真実かを疑わざるを得ず、心が揺れる。

新たな事実が飛び出すたび、驚いたり肝を冷やしたり、はたまた“夫婦の力学あるある”に共感したり。外国人や子どもや視覚障害に対する視線や扱いというフィルターをかけるだけでなく、男女や夫婦における世間の固定観念を覆すキャラ設定や価値観をするりと忍ばせ、観る我々の反射的反応を引き起こすから、さらに挑戦的で侮れない。

父と子、母と子、夫婦、それぞれ確かに愛はある。だが葛藤と怒りもある。父と母の間で選択を迫られるかのような、判決を左右する息子の最後の証言まで目が離せない。自分がどんな人間かを知らされる、覚悟を要する見逃せない意欲作だ。

2月23日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

公式サイト

『夜明けのすべて』

『夜明けのすべて』
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

こんな優しい世界があったら……琴線に触れる人間ドラマ

重いPMS(月経前症候群)のため小規模な科学工作玩具メーカーに転職した藤沢さん(上白石萌音)は、失礼な態度の同僚・山添くん(松村北斗)に、怒りを爆発させる。無気力そうな山添くんもまた、パニック障害に苦しんでいた――。反目し合う2人が互いの苦しみを共有し、同志のように助け合うに至る展開、そしてそこに宿る希望。2人を理解して見守る会社の人たちの優しさに、感動が広がる。瀬尾まいこの同名小説を、『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱が映画化。

2月9日より全国公開

公式サイト



コット、はじまりの夏

『コット、はじまりの夏』
©Inscéal 2022

胸にしみ入るひと夏の物語。昨年、米・オスカーノミネート

1981年、アイルランドの田舎町。貧しい大家族に生まれたコットは、寡黙なために学校でも家族内でも軽んじられている。母親にまた赤ん坊が生まれ、夏の間コットは親戚夫婦に預けられる。緑豊かな農場で、愛想はないが素直で覚えのよいコットの知性と優しさに気づいた夫妻は、愛情をたっぷり注ぐように。コットもまた尊重されて生きる喜び、丁寧に暮らす素敵さを初めて知るのだが。あらためて子どもが育つ環境の大切さや家族とは、など深く考えさせられる。最後は落涙必至!

全国順次公開中

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

取材・原文/折田千鶴子
こちらは2024年LEE3月号(2/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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