ママライターのお悩みにも回答
子どもの気持ちをどこまで尊重する?否定するのはよくない?【子どもの権利】専門家・長瀬正子さんインタビュー
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渡辺有紀子
2024.01.06
「子どもの権利」を守るってどういうこと?
2023年4月、「こども家庭庁」が創設され、同時に、すべての子どもたちが幸せに成長できる社会をめざして、「こども基本法」という新しい法律が施行されました。「子どもの権利」という言葉に触れる機会も以前より増えましたよね。
でも、「子どもの権利を守るって具体的には何をすればいいの?」「子どもの権利や主張をどこまで尊重してあげたらいいの?」と戸惑う子育て中の人も多いのではないでしょうか? そこで、佛教大学 社会福祉学部 准教授で、長年、子どもの福祉を研究している長瀬正子さんにインタビュー。
長瀬さんは、「子どもの権利」の視点を広めるために活動している「子どもの権利・きもちプロジェクト」の代表を務め、「子どもの権利」を親子で知るきっかけになるための絵本『ようこそ こどものけんりのほん』の制作なども手がけています。11歳のお子さんを育てているママで、まさにLEE世代!
ワンオペ育児で子どもたちとのかかわり方に日々悩み、「正直、子どもの権利なんて考えている余裕はない…」という私が、こんなときはどう対応したら…という疑問もぶつけてみました。
Profile
長瀬正子さん
MASAKO NAGASE
佛教大学 社会福祉学部 准教授
1977年生まれ。京都府在住。佛教大学 社会福祉学部 准教授。社会的養護で育つ子どもや若者の権利を研究。「子どもの権利・きもちプロジェクト」代表。11歳の子どもを育てる親。
「子どもの権利・きもちプロジェクト」を立ち上げ、『ようこそ こどものけんりのほん』を制作!長瀬正子さんにインタビュー
まず、長瀬さんが「子どもの権利」について、広めようと思ったきっかけを教えてください。
私は普段、子どもの福祉にかかわる仕事をしています。「社会的養護」といって、さまざまな事情で親と離れて暮らす子ども・若者の支援について研究していて、社会的養護を必要としている子どもたちが健やかに大人になっていくためにどういった社会の仕組みが必要なのかを考えています。子どもの福祉を考えるときに欠かせないのが「子どもの権利」です。
「子どもの権利」の考え方を簡単に言うと、「子どものことを一人の人として見ていく」という考え方。
「大人のほうが上」とか、「子どもは大人が指導する対象」と思わないこと。例えば、暴れている子がいたら、「やめなさい!」と頭ごなしに叱るのではなく、「何か困っている?大丈夫?」と声をかけるという発想を持てると思うんです。「子どもの権利」という考え方がもっと広まることで、子どもたちが生きやすい社会になれば…と思っています。
さまざまな環境の子どもたちとかかわっていて感じるのですが、今の日本の社会って、一度苦しい環境に置かれてしまうと、そこから自力で脱する以外の選択肢が少ないんですよね。だから、その子どもや親の頑張りのみに頼るのではなく、まわりが気づいて助けられる社会にできないかな、という思いがあって。そのためにも、「子どもの権利」という考え方が広まることが、社会が変わっていくきっかけになると信じています。
付録の絵本がSNSで話題となり単行本化が実現
子どもの権利のプロジェクトを発足して、絵本『ようこそ こどものけんりのほん』を制作した経緯も教えてください。
以前から、子どもと大人が話をしやすくなるきっかけとして、絵本に注目していて、2017年から、子どもと大人の対話を助けてくれる絵本を集めて紹介する「ちいさなとびら」というサイトを始めました。でも、絵本をつくることになるとは思いもしませんでした。
きっかけは、コロナ禍で感じた違和感が大きく影響しているんです。新型コロナウイルスが大流行したとき、海外では、首相など、国のリーダー自らが子どもたちに向けて動画でメッセージを送ったり、説明をしたりしていたのに、日本ではそういうアクションがなかったんですよね。子どもたちに何も説明がないまま、休校などいろいろなことが決まっていく状況に対し、怒りを覚えました。
国連・子どもの権利委員会もコロナ禍に「子どもの声をちゃんと聞きましょう」と声明を出していたんです。その声明を知って、先の見えないこの状況下での羅針盤になれば…と思って、「子どもの権利と新型コロナ」という冊子を自費出版でつくりました。それがクチコミで2900部売れたことから、2021年に『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』という絵本の出版につながりました。2022年に「子どもの権利・きもちプロジェクト」を立ち上げ、メンバーで意見を出し合って、みんなでつくったのが、『ようこそ こどものけんりのほん』です。
長瀬さんが子どもの権利の研究を始めたのは、ご自身が子どものころ、つらい思いをした経験があるからとお聞きしました。
私自身、通っていた中学校の校則がとても厳しくて、苦しい思いをしていたんです。校則を受け入れられないことで、周囲から「立派な大人になれない」と言われていたので、ずっと大人になることに恐怖心がありました。そんなときに子ども向けの新聞で「子どもの権利」という言葉を知り、世界では「子どもの権利条約」が承認されている国が多いのに、日本では批准されていないという記事を読みました。
そのとき、「もしかしたら、こんなに苦しくて辛いのは、私のせいだけじゃないかもしれない。もしかしたら社会の側にも要因があるのかもしれない」と感じ、同時に心が少し軽くなったんです。そのあと、大学生になってから「子どもの権利」について学ぶことをはじめ、そこからずっと研究を続けています。
子どもの話を聞くこと、信頼すること
長瀬さんご自身が、子育てで気をつけていることって、ほかにどんなことがあるのか知りたいです!
子どもの話を聞こうとすること、本人の考えや力を信頼することですかね。いろいろな情報や人が溢れている世の中ですが、周りのことはあまり気にせず、目の前の子どもが考えてやっていることを信じるようにしています。
あとは、八つ当たりしないようにしたいと思っていますが、これはあまりできていないです(笑)。夜に私がイライラしていると、小学6年生の子どもの方から「眠くてイライラしているんだから、寝たほうがいいよ」と言われて、「はい、もう寝ます」と反省したことも…。
2児のママ・ライター渡辺のお悩みにも答えてもらいました!
Q1.子どもの気持ちを尊重する余裕がなく、罪悪感があります
「子どもの権利」という考え方をわかっていても、子育てをしていると、なかなか理想通りにいかず、子どもの言うことを「ダメ!」と強く否定してしまうときや、子どもの気持ちを尊重する余裕がないときも。そして、罪悪感に悩むことも…。そんな私に何かアドバイスをいただきたいです。
ライター・渡辺
A1.状況を振り返ってみるのも一つ。そして、自分でなんとかする以外の解決法を考えてほしい
まず、「ごはんを食べる」とか、生きること・育つことを支える基本的な生活が送れていれば大丈夫。「子どもの権利を尊重する、保障する」というと、親が新たに努力することが増えるのかと思うかもしれないけれど、大切なのは暮らしの中で権利を意識して、できるだけ実現すること。そのために、保護者が力を発揮できるよう、国や社会がサポートしましょうという考え方なんです。でも、「なんでできないんだろう」と自分を責めてしまう方も多いと思います。そんなときは、自分の状況を振り返ってみるのも一つの方法。
「なんであのときイライラしちゃったのかな、なんであんな言い方をしてしまったのかな…」と振り返ると、絶対に理由があると思うんですよね。私の場合は仕事がすごくきつくなってしまったときに声を荒げてしまいがち。あと、眠い時はダメ。そんな自分の傾向を意識しておくよう心がけています。
実際、子どもの権利を保障しようと思うと、「時間」と「お金」と「人間関係」がないと無理なんですよ。
だから自分をただ責めるのではなく、例えばだれかに頼ることで解決できないか。自分でなんとかする以外の解決法を考えてみてほしいです。私は自分がしんどいと感じることが続くときは、家族の「チーム力」が強くなるときだと思うので、そういうときこそパートナーに相談して、一緒に考えてもらうようにしています。
長瀬さん
Q2.私は子どもが髪を染めるのは反対。「ほかの子はしているのになんで?」にどう対応したら…
上の子が中2で反抗期。子どもの主張にどこまで寄り添えばいいのかも悩みます。たとえばですが、最近は、小学生や中学生でも、髪を明るい色に染めている子がいますよね。私は子どもが髪を染めるのは反対。だから、息子に「ほかの子はしているのになんで?」と言われたとき、「よそはよそ。お父さんとお母さんは反対。わが家はダメ」と対応しているけれど、この対応は大丈夫なのかなと気になっています。
ライター・渡辺
A2.正解はおそらくない。自分が「ここは大事だと思う」という着地点を見つけるといいかも
正解はたぶんないし、時代とともに変わっていくので、難しい問題かもしれません。なぜなら、私たちのときは「社会の中で順応していくのが大事」というように育てられてきたけれど、今は「自分なりの意見をちゃんと言いましょう」と育てられている。評価される基準は、社会の状況によって変化しているんですよね。そういう中で何ができるかと言ったら、自分が「ここは大事だと思う」という着地点を家族で見つけることなんじゃないかなと思います。その「ここは大事」という主張がだれかを傷つけるようなものでなければ、基本的には大丈夫かなぁと。
実は、わが家でも、子どもから「髪を染めたい」という話が出ました。「髪を染めることでどういう社会的評価を受けるのか」という話を子どもとよくして、私は美容師さんに、「若いから、頭髪や頭皮に与える影響はないか」を相談。健康上の問題はなさそうだったので、「生きる・育つ権利は守られるな…」と。それで、最終的には、夏休みの間だけ、毛先のみカラーリングをしたんです。お金に関しては、親が出さないことにして、自分で貯めたお年玉から出すということに。こんなふうに、「子どもの権利」は、方針を考えるときのひとつの基準にもなるかもしれません。
長瀬さん
最後に長瀬さんからLEE読者にメッセージ
子どもの権利の考え方について、「子どもの意見を聞きましょう」という新たなタスクが増えた~! と思わずに、物ごとを進めていくときの一つの参考にしてほしいなぁと思っています。子どもと話をしながら進めていくと、きっと新しい気づきもあって楽しいと思うんです。
LEE世代は、一生懸命子育てしている人が多い世代だと思います。でも頑張っているからこそ、「しんどくてもう無理」「できない」ってときだってあると思うんです。そんなとき、自分だけが頑張ってどうにかしないといけない社会ではなく、いろいろな大人が助けてくれる社会になってほしい。そんな思いから、「子どもの権利」という考え方を広める活動をしています。興味があれば、ぜひ『ようこそ こどものけんりのほん』も手にとってみてください。
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渡辺有紀子 Yukiko Watanabe
編集・ライター
1979年、新潟県出身。妊娠・出産・育児の雑誌編集を16年間経験。家族はレコード会社勤務の夫、2010年生まれの息子、2014年生まれの娘。ほぼワンオペで仕事と育児の両立に奮闘するも、娘の便秘通院をきっかけに退社し、フリーに。趣味はクラシックバレエ。