TAKARAZUKA STAR|ことばの力
【花組・聖乃あすかさん】先輩たちの背中と思いを信じて、舞台に立てば大丈夫【宝塚スター|ことばの力】
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TAKARAZUKA STAR INTERVIEW ことばの力
2023.11.16
気づきを与えた言葉、背中を押してくれた言葉、自分を鼓舞する言葉……。舞台人として、一人の人として。“清く正しく美しく”輝くタカラジェンヌが大切にしている言葉とは?
花組
聖乃あすかさん
今の自分を作ったことば
「同じ景色を見てきた先輩たちの背中と思いを信じて、舞台に立てば大丈夫」
Asuka Seino
Asuka Seino ・Profile
2014年、宝塚歌劇団に入団。花組に配属される。『ポーの一族』をはじめ3度の新人公演の主演を務め、2度のバウホール公演主演も経験。目を引く美貌と華やかな舞台姿に加え、確かな実力でその存在感を増す男役スター。
たとえ、今は理解できなくても
“言葉”は未来の自分を救ってくれる
Asuka Seino
「幼い頃、両親が仕事に行っている間は祖父母の家へ。手をつないで散歩したり、大好きなお寿司屋さんに連れていってもらったり、ゆっくりとした時間を過ごしました。私の口調が“おっとり”なのはそのせいかもしれません(笑)」
おっとり口調に人見知りが加わり、家の外では“おとなしい子”と思われがちでしたが、家族の前では打って変わって“よくしゃべる子”に。それは今も変わらずで「柚香さん※1からもよく言われるんです。おっとりした笑顔を浮かべて嘘みたいによくしゃべるね、と」。そう聖乃さんは笑います。
「振り返ると、当時から性格はあまり変わっていなくて。私のベースは家族の中で作られたのだとあらためて思います。わが家はとても仲がよく、幼い頃は何かあるたびに近所の魚屋さんに出向いては買い物し、みんなで手巻き寿司でお祝い。宝塚大劇場で観劇したい私と、甲子園で高校野球が見たい弟の希望により、毎年、夏休みは関西を旅するのが家族の恒例行事でした。私と妹※2が宝塚歌劇団に入団してからは、家族揃っての手巻き寿司は難しくなってしまったのですが、舞台初日や千秋楽の日には、必ず誰かが“おめでとう”を送ってくれて、家族LINEが盛り上がるんですよ」
やわらかい印象の聖乃さんですが実は負けず嫌い。好きなものにはストイックなまでにのめり込む性格もまた、幼い頃から変わらない点のひとつだそうです。
「幼少期に通っていたダンス教室の発表会で真ん中に立てなかった、それが私にとって生まれて初めての悔しい経験で。そこで、努力なしには欲しいものは手に入らないことを学び、“誰よりも頑張らなければ!”のスイッチが入ってしまった……。負けず嫌いは私の背中を押してもくれましたが、こだわりが強く頑固な自分も作ってしまったような気がします。そんな私に“世の中にはいろんな考えや価値観が存在するんだよ”と教えてくれたのが、宝塚歌劇団でした。そこで出会った多くの人とのつながりは頑(かたく)なな私の扉を次々と開けて、山ほどの新たな気づきを届けてくれました」
聖乃さんが大切にしているのが、そんな人とのつながりの中でもらった言葉を忘れずに手放さずに抱えて歩くこと。
「自分の未熟さゆえに、いただいたそのときは理解できなかったとしても、経験を積んだ先に理解できる日がやってくる。その言葉を必要とするときにポンと舞い降りてきて、未来の自分を救ってくれることがとても多いんです」
そう語る聖乃さんに何度も舞い降りてくる言葉があります。それは、初の新人公演主演に抜擢されたとき、当時のトップスター・明日海りおさんがかけてくれた「緊張するかもしれないけど、それは今まで何人もの先輩たちが見てきた景色だから。数々の作品を乗り越えてきた先輩たちの背中と思いを信じて、舞台に立てば大丈夫」という言葉です。
「この言葉はまるで“お守り”のように、昔も今もことあるごとに私を救ってくれて。さらには、“いつの日か私も下級生たちに勇気を与えられる背中を持つ上級生にならねば!”と、私の背すじをピンと伸ばしてくれるのです」
※1=花組トップスター・柚香光さん ※2=月組・水城あおいさん(11月19日退団予定)
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聖乃あすかさんに3つの質問!
1
「聖乃あすか」はどんな人ですか?
1
負けず嫌いで、ポジティブで、オンオフの落差が激しい人です(笑)
基本的にはポジティブです。もちろん、落ち込んで「私はネガティブなのかもしれない」と思うような日もあるのですが、数日後にはそれを笑い話にしている自分がいるので、やっぱり、かなりポジティブなのだと思います(笑)。一度、その理由を考えてみたことがあるのですが、私が常に前向きでいられるのは「負けず嫌いだから」なのかな、と。落ち込めば落ち込むほど、「負けてたまるか!」「やってやる!」と“なにくそ根性”が生まれるといいますか、それがエネルギーに変わるんです。その証拠に、私は褒められて伸びるのではなく、厳しいことを言われるほど伸びるタイプなんです。
ポジティブで楽しいことが大好き。日々の生活の中に転がっている面白いことに注目して仲間と笑い合える、そんな自分はわりと気に入っています。ただ、頑固でこだわりが強い性格は自分でも手にあまることも。毎日、早朝から始めるウォーミングアップをはじめ、自分の中に「何があってもこれだけは譲れない!」と思うものがいくつもあって。特に大好きな舞台に関してはそれが多め。目の前の作品や役にギュウッと力を入れすぎてしまうあまり、スイッチが切れたときはバタンキュー。オンオフの落差が激しいのが欠点でして、家の中の私はとても皆さんにはお見せできません(笑)。沸いたお風呂へと向かう途中に息絶えて夢の中へ……そんな日もあったりしますから(笑)。
2
日々、聖乃さんが「なくてはならない」と感じている大切なものとは?
2
大好きな家族と過ごす、“素顔”になれる時間です
幼少期は関西を旅行していた私たち家族ですが、大人になった今はその関西が生活の拠点に。宝塚歌劇団の舞台に立つ私や妹はもちろんですが、実は弟も関西で就職して、そんな私達のために母もほとんど関西で生活。さらに、最近は愛犬のキャンディまでもが母と共に関西へ、実家で暮らす父がまさかの“逆単身赴任状態”になっているんです(笑)。父には大変申し訳ないのですが、家族の前でだけは、何も考えずフラットに本名の自分に戻れるので、家族と過ごせる今の環境が私にはとてもありがたいです。
以前は、芸事と本気で向き合っているからこそ、切り替えが上手にできずに芸名と本名の自分の境目が曖昧になってしまったこともありました。そんな経験もあったからこそ、家族の前では、より本名の自分でいようと心がけるように。家の中ではとことん甘えますし、ワガママも言いますし、くだらないことでゲラゲラ笑う……その時間だけはほんの少し舞台を忘れることができるんです。ついついストイックになってしまいがちな私のバランスを、一緒にいるだけで整えてくれる、家族にはいつも感謝しています。
3
今年で男役10年目。今、どんな時期にいると感じていますか?
3
男役10年目、花組生になって10年目。“花男”に近づけた自分を感じています
私が花組に配属さればかりの頃、男役10年目の上級生といえば瀬戸かずやさんでした。その落ち着きであったり、周りの花組生を見守ってくださる温かさであったり、当時の私にとって瀬戸さんは、本当に先の先にいる大人の男役スター。“男役10年目”がとても遠いものに思えたのを今でもよく覚えています。そんな瀬戸さんもですが、初舞台後の組回りで一番最初に花組の舞台を踏んだときは、明日海りおさん(元花組トップスター)や望海風斗さん(元雪組トップスター)、芹香斗亜さん(現宙組トップスター)や柚香光さん(現花組トップスター)もいらっしゃって……舞台の袖から上級生達のフィナーレを初めて見たときは「これが“花男”(※花組の男役の呼称)なのか!」と感動、その華やかさに心が震えたのも、ずっと忘れられない私の“男役1年目”の記憶です。
花組に配属され、花組で育ち、今も花組の舞台に立たせていただいている、そんな私の歩みを振り返ると、“男役”であるのはもちろんですが、“花男”というものをずっと模索してきたような気がするのです。そして今、「花男になれた実感はありますか?」と聞かれたら、私は「舞台上ではまだまだですが、心だけは花男になれている自信があります」と答えます。花組の男役さんは照れることなく娘役さんを褒めるのですが。先日、月組の風間柚乃と星組の極美慎、同期3人で宝塚の舞台を観劇したとき、「娘役がかわいい」と連呼する私に二人が投げかけたのも「やっぱり花男だね」という言葉でしたので(笑)。男役がカッコよく舞台に立てるのは娘役さんがそばで素敵に寄り添ってくれるから。だからこそ、男役も娘役さんを輝かせるために堂々と男らしく立たなければいけない。お互いを高め合うのが“花男”であり、“花娘”であり、“宝塚”であり。男役10年目、受け継がれるその伝統は、しっかりと身についているのを感じています。
NEXT STAGE
ミュージカル
『アルカンシェル』~パリに架かる虹~
舞台はナチス・ドイツの侵攻に抵抗するパリ。レビューの灯を消すまいと立ち上がるダンサーを主人公にパリ解放へのドラマを描き出す。主演:柚香光 星風まどか
宝塚大劇場公演
2024年2月9日〜3月24日
東京宝塚劇場公演
4月13日〜5月26日
Staff Credit
撮影/柴田フミコ 取材・文/石井美輪
こちらは2023年LEE12月号(11/7発売)「ことばの力 vol.9 聖乃あすかさん」に掲載の記事です。
▼ 「ことばの力」連載一覧はこちら
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