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プロの朗読者が文章を読み上げ、聴きながら読書ができるコンテンツ・Amazonオーディブル。三浦さんの最新小説は、このオーディブルの依頼から生まれたのだとか。

耳で聴き、目からも楽しめる、没入感が高く臨場感あふれる小説が書けました！
────三浦しをんさん

「すでに出版した小説をラジオドラマやCDにしていただいた経験はあったのですが、朗読が前提で小説を書いたのは初めて。聴いている方が脳内でイメージを膨らませられるよう、主人公の遠田はあえて視覚が大事な“書家”という設定にしました。『一体、どんな文字を書くんだろう？』と、聴きながらワクワクしていただけたらいいなと思って。

……とはいえ、私は書道を習った経験がないし、学校の習字の時間も苦手なほうだったんです。執筆のために書道辞典を買い、古書店で手に入れた書道展の図録を『昔からの名筆とはこういうものか？』と眺めたものの、本当によくわからなくて（笑）。プロの書家の方に監修もしていただき、じっくり生み出したキャラクターです」

天才肌の書家・遠田の相棒的な存在となるのが、ホテルで働く続。

「書家と接点がある人は？と考えて思いついたのが、ホテルマンでした。パーティの招待状の宛名書きをお願いする機会もあるだろうし、自由人な遠田の無茶ぶりに対応できるのは、シフト制で働くホテルの人しかいないだろう！と。続が勤める三日月ホテルは、こぢんまりとした昭和レトロ感が持ち味。こちらは私の好みを凝縮した幻想のホテルです」

新たな試みで完成した作品。朗読を聴き、さらに発見があったそう。

「プロの方の表現力ってすごいですね。自分で書いた話ではあるものの、いつの間にか聴き入り、夢中になってしまった箇所もありました。それから私は、どうやら脳内で登場人物の声を演出しながら小説を書いているらしい、と気づきました。執筆中に浮かんでいた遠田や続の話し方や会話の間合いと、声優さんの解釈との違いを知るのが、また楽しかったんです。耳で聴くイメージと、活字から広がる印象。2種類の世界観を楽しんでいただければ幸いです」

20代でデビューして以来、数々のヒット作を飛ばし続けている三浦さん。プライベートでは、10代からロックバンドのBUCK-TICKのファンで、誰よりも早く“推し活の楽しさ”を公言してきた面も。数年前からはEXILEグループにもハマり、「毎日、忙しすぎます！」と笑顔に。

「EXILEをはじめとする皆さんのことは“EXILE一族”と呼んでいて、一族の方々がいろんなグループを兼任する、あのシステムにもキュンとしています。同じ人でも、居場所が変わるとまた魅力が変わってくるんですよ。私はどういうわけだか、粗削りの若手を見出し応援し続けるというよりは、完成されたスターが、大輪の花を咲き誇らせる姿を愛でたいという、いいところ取りを味わうファンです（笑）。これはEXILE一族だけではなくほかのエンタメに携わる方々についても同じで。

最近、女優の草笛光子さんの聞き書き連載を読むのが好きなのですが、『いやあ、円熟した大人って素敵だな』と感じ入っています。経験豊かでいらっしゃいながら、凝り固まった感もなくて。ちなみに私が書いた遠田も、書道を極めていますが、芸に打ち込んでいる人が放つ輝き、そして真の実力から生まれるユーモアや遊び心は、人の心をつかむ何かがあると思います」

1976年東京生まれ。2000年に『格闘する者に○（まる）』で小説家デビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞など、受賞作品、映像化された小説は多数。自身の日常や好きなもの、妄想について綴った『のっけから失礼します』をはじめ、エッセイのおもしろさにも定評がある。

『墨のゆらめき』

￥1760／新潮社

まじめなホテルマンの続は、仕事を通じて書家の遠田と知り合う。卓越した腕前を持ち、天衣無縫な性格の遠田は、続に勝手なあだ名をつけ、さらに「一緒に代筆家をやらないか」と持ちかける──。個性が違う男性2人のバディ感にドキドキしつつも、友情、家族の在り方、そして職場や書道教室など、周りの人とのかかわり合いも描いた長編小説。

撮影／名和真紀子　取材・文／石井絵里
こちらは2023年LEE8・9月合併号（7/7発売）「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示（掲載当時）です。