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私がこの世にいなくなっても、私が手がけた梅仕事やレシピは残る。今井真実さんが震災と大病を乗り越え得た気づき

  • LEE編集部

2023.06.24

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今井真実さん後編

引き続き、今井真実さんのインタビューをお届けします。

今回の取材は、今井さんの自宅で行われました。キッチンは、4畳ほどのスペースでコンロは3口、キッチンの中央に古いテーブルがあり、所狭しと食材や調味料、漬けている梅のコンテナが並びます。ごく普通の家庭にありそうな、使い心地がよさそうなキッチン。ここからたくさんの料理が生まれました。

後半では、今井さんが料理家になるまでをたどります。食べることが大好きな家族と、お手伝いから始まった料理の始まり。震災や大病、さまざまなことを乗り越えて、料理を作ることを仕事にした理由には「できることをやる」、そして「何かを残したい」という思いがありました。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む

小学生にしてレストランで食べたカルボナーラを再現

今井さんは兵庫県神戸市生まれ、自営業の父と母、兄の4人家族。食べることが大好きな家族で、キッチンにはレシピ本がずらりと並び、週末は美味しいものを食べに外食することもよくありました。両親はお酒が好きで本と映画、音楽が好き、自宅には図書室があったと言います。家のそばに祖父、従兄弟も住んでおり、正月や行事ごとには親戚一同が集まり、おせちや料理を作って食事をすることもよくありました。

父母が仕事で家を不在にすること多かったため、自然な流れで今井さんも料理するようになります。「夕方に“冷凍庫のお肉をを解凍しといて”とか“味噌汁を作っておいて”と言付けされて作るようになりましたね。父が晩酌の時間を大切にする人だったので、冷蔵庫にあるもので勝手におつまみを作ったりもしました」

料理をするようになったもう一つのきっかけが、給食が苦手だったこと。母が神奈川出身だったため、家庭料理は関東風の味付けが多かった中、給食は関西系の薄めの味。それが口に合わず、給食の時間がとても苦痛だったそうです。

「なるべく量を少なくしてもらって、家に帰って好きなものを作っていました。小学校低学年には、好きなものを作れるようになっていたと思います。一番記憶に残っているのが、カルボナーラ。レストランで食べて、すごくおいしくて感動して。母がレシピ本を買ってきてくれて、それを見て作りました。『リストランテ アルポルト』の片岡護シェフのレシピ本だったと思います」

TVディレクターとして忙しくも充実した日々を過ごすものの

3歳の頃に始めたのがジャズダンス。踊るのが好きで、フェスティバルに参加したりと18歳まで続けました。ダンスの練習中、自分が踊れているかをチェックするためにカメラで撮影したことをきっかけに、動画撮影にハマります。「中学生か高校生の時、ちょうど縦型のコンパクトビデオカメラが出て買ってもらったんです。振り付けのための動画を撮影していたのですが、それがとても楽しくて。ちょうどハンディタイプのものが出回っていた頃で、簡単に撮れるのがとても楽しかったです」。

中学、高校は地元の学校に進学。その後、映像を学ぶため大学に進学しますが、学校に馴染めず1年で退学。大阪のテレビ局でADのアルバイトを始めます。

今井真実さん

「最初は報道番組や通販番組のAD。最後は音楽番組を担当したのですが、予算がないので神戸の飲食店にお願いして、アイドルタイムに間借りして撮影することもよくありました。アーティストを呼んで収録する番組でしたが、それをきっかけにお店の方と仲良くなって。料理が好きだと言うと、料理を教えてもらったり、暇な時にお店の手伝いに行ったり。ディレクターになり24歳まで働きましたが、その間も変わらずに料理は続けていました」

ロケと撮影が終われば、戻って編集作業。忙しくも充実した日々でしたが、過酷な働き方に体調を崩すことも度々ありました。ふと「私はこんなふうにずっと働くのかな」と不安にかられることも。ある時、番組の改編で時間ができた時に、東京に住むアーティストに誘われ、東京へ遊びに行きます。その時、「心から楽だ」「何にも追われていないって幸せ」と強く感じたそう。そこで「東京に行こう」「映像の仕事から離れてみよう」と決意します。

上京、転職、結婚、出産、そして大病

25歳で上京。すぐに営業事務の仕事が決まり、憧れだった定時終わりの仕事に就きます。会社帰りは飲み屋やレストランに寄る、充実した時間を過ごしました。そこで出会ったのが夫の今井裕治さんです。友人が働いていた居酒屋に別の友人に連れられて来たのが裕治さんでした。「当時はすでにスチールカメラマンの仕事をしていて、彼はお酒は飲まないのですが食べることが好きで。付き合っている時も、よく家に人を呼んで料理を作って食べたりしましたね」。

26歳で裕治さんと結婚。仕事は続けていましたが妊娠した時につわりがひどくなったため退職、27歳で長女を出産します。子育てで忙しい日々の中、ある日体調の変化が起きます。夜中に授乳で立ち上がろうとすると力が入らず転倒。本棚に後頭部をぶつけ、たんこぶができてしまいました。心配になって病院を受診したところ、「大きな病院に行ってください」と言われ、血液内科を受診。診断の結果は“前白血病”といわれる骨髄異形成症候群でした。

「完治するには骨髄移植しかなく、その後はすぐさま絶対安静。寝たきりで1週間ごとに病院に通って検査する日々を1年続けました。まだ娘が小さいのに寝たきりになる、正直不安しかありませんでした。ちょうど両親が神戸から東京に引っ越してきてくれたこともあり、夫と両親のサポートのおかげでなんとか乗り越えることができました」



万が一私に何かあった時も、梅があれば存在を伝えられる

当時病名を調べた時、“余命半年”という言葉もありました。「自分は死ぬかもしれない」と不安を感じましたが、その時に思い出したのが梅です。

「私は何も娘に伝えられまま死んでしまうのかも……と思った時、“梅”“味噌”なら残せる、特に自分がこの世にいなくなっても梅は残ると気づきました。梅干しは塩分を守れば100年以上前のものも食べられますから、万が一私に何かあった時も梅があれば存在を伝えられる。そこから梅仕事、味噌づくりには、より力を入れるようになりました」

大病を乗り越えたことに加え、今井さんは中学1年の時に阪神淡路大震災に遭いました。実家のあった地域は、神戸でも被害の大きかったエリアで、自宅は半壊、幸いにも家族は無事でしたが、親戚や友人で亡くなった方もいました。

「動ける時に動いたほうがいい、やりたいことはやりたいと思った時にやる。明日は何があるか分かりませんから、そう強く思いました。料理のレシピって、それぞれの家庭に残っていくんです。家庭に持ち込まれ、変化や成長をしていくことがとてもいいなと思って。私の存在はなくとも、レシピは残る。私の分身が残っていくような喜び、そんな思いから料理や梅仕事をしているともいえます」

奇跡的に寛解後、第2子出産。子どもを見守りつつ、料理家として忙しい日々

やがて病状も落ち着き、仕事への復帰も考えますが、体調を考慮するとハードワークはできない。でも仕事はしたい、子育てもある。自分に何ができるだろうかを考えた時、「料理教室なら自分のペースでできるのでは」と思い、料理家への道へ進むことを決めました。そしてその後、奇跡的に寛解し、34歳で長男を出産することができました。

現在、長女は14歳、長男は7歳に。子どもを見守りながら、料理家として忙しい日々を過ごします。毎日大切にしているのは、ごはんの時間。夕ご飯を一緒に食べるために、手早く準備できるようにします。今井さんは、夕飯の準備している間にお風呂に入ることも。その間は、オーブン調理をしたり、シャトルシェフで煮込んだり、夫の裕治さんにバトンタッチすることもあります。

ちなみに朝ごはんは夫の裕治さんの担当。子どもの幼稚園時代のお弁当も、今井さんの体調を考慮し、裕治さんが作りました。昼ごはんは、夫婦ともに家にいるときは家でパスタを作ったり、2人で出かけ、夕飯の相談をしながら買い物をすることもあります。

「最初は、朝もお弁当も作ってくれると申し訳ない気持ちもありましたが、もともと料理をするのが嫌いじゃない人で結婚前からもよく作っていたんです。私ばかり作っていたら、“腕が落ちちゃうな”と言っていて。夫も私もフリーランス同士で、どちらの立場も分かる。カメラマンって肉体労働で、料理家もある意味肉体労働ですから。お互いに疲れているのは分かっているので、労わり合い、コミュケーションを取りながらやっています」

個性豊かな家族の共同の思い出作りには、キャンプがぴったり

カメラマンと料理家、14歳7歳の7歳差姉弟。個性豊かな家族だからこそ、家族で過ごす時間を大切にしています。

「娘はもう自分の世界ができていて、息子は小2で赤ちゃんぽさもある。話題が全然違うんです。夫婦は長い付き合いだからいいのですが、なんだかんだ好みもバラバラの人たちなので、何か共通の話題やできることを考えた時に、キャンプがぴったりだったんです。結局は行った先でそれぞれ違うことをしているんですが、同じ場所に家族みんなで行ったという共通の思い出が作れるのがいいなと思って。今は、夕食後にみんなでUNOやトランプ、カードゲームをすることも日課になっています。7歳の息子が負けると泣いちゃうんですけど、大人気ないから本気でやっちゃって(笑)。そんな時間も、いい思い出になればいいですね」

今井真実さんに聞きました

身体のウェルネスのためにしていること

ジム通い

「時間がある時に、ジムに通っています。サーキット式のトレーニングができるジムで、マシンと有酸素運動を組み合わせて30秒ずつやります。体を動かすのは20分、ストレッチ20分で40分くらい。ちょっと汗をかくくらいですね。びっくりするほど体型は変わっていないんですが(笑)そこで踊ったり、運動するとスッキリします。子どもの習い事の待ち時間にちょうどいいんですよね」

心のウェルネスのためにしていること

お風呂に入る

「お風呂に入ることです。家のお風呂も好きですが、近所のスーパー銭湯も好きです。最近はスーパー銭湯に行くと、知らないおばあちゃんに急に話しかけられて心配されることがあって(笑)。“おたくのおじょうちゃん、ちゃんと塾行かせてるの?”とか。家のお風呂だと本を持ち込んで読むことが多いですね。お風呂は1人になれる時間なんです。ジムもお風呂もそうですが、スマホを持ち込まないので一切の情報が遮断され、とてもリフレッシュできます」

インタビュー前編はこちら!

今井真実さんが「料理は不器用な方でもできます」と断言する理由

今井真実さんの「梅仕事」寄稿記事はこちら!

【料理家・今井真実さんの気軽に梅仕事】完熟梅1kgで梅干し・梅酒・梅シロップが作れますーー2022年下半期BEST20

【料理家・今井真実さんの気軽に梅仕事】「梅干し」「梅シロップ」完成!意外に簡単梅の干し方

青木亮輔さん


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

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