今回のゲストは、料理家の今井真実さんです。今井さんは、この1年2カ月の間に5冊の料理本を出版、4月にはフライパンレシピの本と梅仕事の本が立て続けに出版されたばかりという、今注目の料理家です。今井さんが日記とレシピを書いているnoteは、「よくある食材なのに組み合わせが新しくておいしい」「簡単なのにごちそう感がある」など、たくさんの人から支持されています。
前半では、多忙な1年2カ月の足跡をたどりながら、書籍『フライパンファンタジア 毎日がちょっと変わる60のレシピ』(家の光協会)および『今井真実のときめく梅しごと』(左右社)が生まれた背景、日々のごはん作りを楽しくするコツ、ライフワークにもなっている梅仕事への熱い思いを聞きます。撮影当日は、本の担当編集者も立ち会って取材が行われました。(この記事は全2回の1回目です)
「手数は少なく、おいしく」を大事に
今井さんが料理を仕事にし始めたのは、神戸から東京に引っ越してきた25歳の頃。会社に勤めながら、趣味で知人を自宅に招いて料理を教えていたのがきっかけでした。その頃から変わらない理念があります。「ごはん作りの助けになるような、そして作った人が幸せになる料理を」。そのためには、「手数は少なく、おいしく」を大事にしています。
結婚、出産を経てスローペースになった時もありましたが、2010年からは料理教室『nanamidori』を開講。2020年にはコロナ禍で料理教室ができなかったため、noteで日記とレシピの執筆を始めます。情感がただよう豊かな文章と簡単に作れるレシピにファンがどんどん増えていく中、「本を出しませんか?」と声をかけたのが『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』(KADOKAWA)の編集者でした。
初の書籍は、試行錯誤しながら本づくりが進められました。その後、『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(左右社)、「料理と毎日 12か月のキッチンメモ」(CCCメディアハウス)の制作が始まり、続けて梅仕事本の準備が始まります。ほぼ同時期に、『フライパンファンタジア 毎日がちょっと変わる60のレシピ』の制作もスタートし、1年ほどかけてこの2冊が作られました。
「人気の理由は“意外となかった”レシピが多いこと」と編集担当が分析
4月に出た2冊の本の編集担当者は今井さんの魅力をこう語ります。
「今井さんの料理が人気なのは、“意外となかった”レシピが多いこと。大御所と言われる料理家の方のレシピや流行りの時短レシピとも違う、新しさがあります。作っている時も楽しくて、出来上がってもおいしい。楽しい理由は、作るのが簡単だからだと思います」(『フライパンファンタジア 毎日がちょっと変わる60のレシピ』編集担当・磯部朋恵さん/家の光協会)
「仕事をフルタイムでやりながら、子どももいて。だけど外食や惣菜を買ってくるのは避けたい。元々ちゃんと料理を作りたいのに時間がない、だけど自分の好きなものを好きな味で食べたい。そんな気持ちを助けてくれるレシピが多いんです。時間はかかるけど、手数は少ないから作りやすいんですね。あと子どもがよく食べるんです」(『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』『今井真実のときめく梅しごと』編集担当・筒井菜央さん/左右社)
作りながら、もう頭の中では食べ始めてるんです(笑)
編集担当のお二人が声を揃えたのが、今井さんの書き手として魅力。noteに綴られた文章は、日常を淡々と描きながらも何気ない表現が個性的で、情感や味覚がよく伝わってきます。
「文章を読んでいると、“本当においしいんだろうな”と伝わってきます。普通の料理本は、ライターが著者から話を聞いて書くことが多いのですが、今井さんの文章は本人が書いているからオリジナリティがあって、食べてみたい! と思ってしまう。『フライパンファンタジア』は、リードを含むすべての文章を今井さんが書いています」(磯部さん)
「“わあ! と声を上げる蒸しぶり”とか、いい意味で独特の文体があるんですよね。聞いて書くだけじゃない、踏み込んだ表現というか。それが書けるのは著者本人だからこそです」(筒井さん)
取材中やインスタライブの時も、今井さんは料理を楽しそうに作ります。その理由を聞くと、「作りながら、もう頭の中では食べ始めてるんですよね(笑)。“このカリカリの衣からモッツアレラチーズがあふれ出したらおいしいだろうな”“これにブルーチーズを合わせたらおいしいかな”と、想像している時間から食べ始めてるんです。だから作る時間も楽しいんです」。
料理は不器用な人でもできる。逃げ道はいくらでもある
今井さんは「料理は不器用な方でもできます」と自信を持って言います。
「私も本当に不器用で……。でも、見た目がイマイチでも、味がおいしければいい。盛り付けるお皿が素敵なら、よりおいしそうに見える。逃げ道はいくらでもあります。自分が作る、自分が料理の中心にあることを忘れないでほしいです。もちろん、家族のために料理を作る人が多いと思いますが、まずは自分が楽しくてうれしいことを大切に。自分を置き去りにはしないでほしいと思います」
とはいえ、疲れて何も作りたくない時もあります。そんな時に活用したいのが、“自己肯定感を下げない”レシピやテイクアウト。「刺身を買って、お寿司大会」「お気に入りのレトルトカレーでカレーパーティー」。あとは、お気に入りのテイクアウトのお店を準備しておくのもおすすめだと言います。
「それでも外食やテイクアウトに抵抗があるなら、なるべく手のかからないもので揃える。ごはん、お刺身、味噌汁や卵スープなどの汁物、冷凍の枝豆。もずく酢でもいい。体が冷えそうなら、厚揚げを魚焼きグリルで焼くのもいいですね。ゼロベースで作ろうとすると大変になるので、ひと手間で仕上がるもの、手がかからないものを選ぶと楽です」
焼く、炒めるだけじゃない。フライパンって何でもできる
そんな日々のごはん作りに活用して欲しいのが、『フライパンファンタジア 毎日がちょっと変わる60のレシピ』です。フライパンだけで60のレシピが作れるこの本は、少ない食材と手数でごちそう感のある料理が簡単に作れると話題です。フライパン=焼く、炒めるイメージですが、煮る、茹でる、放っておくなどの調理が多いのも特徴です。
「キャンプでも必ず持っていきますが、フライパンって何でもできるんです。定番の料理でも工程や調理法でグッとおいしくなる。いつも自分がやっているフライパンとの向き合い方で、しつこく何度もやり直したレシピです。ぜひみなさんにも作ってみてほしいです」(今井さん)
「フライパンって、簡単な洋食しか作れないイメージですが、今井さんが作ると和食やセンスのあるおしゃれな料理を作れちゃうんですよ。“高見え”“テンションが上がる”料理が作れるのもポイントだと思います」(磯部さん)。
“アボカドとソーセージのオムレツ”“牛ステーキ ウしポンソース”“鶏胸肉のやみつき春巻き”など、手軽なのに手抜きに見えないごちそうに驚くはず。料理を作るのが辛い、面倒という人こそ試してほしい本です。
若い人にも梅仕事を楽しんでほしい
そして、自らを「“梅の人”と呼ばれたい」、「“今井ウメ”に改名してもいい」と言うほど、梅好きを自負する今井さんが満を辞して作った一冊が『今井真実のときめく梅しごと』(左右社)です。今井さんが昨年LEEwebに寄稿した梅仕事の記事はたくさんの人に読まれ、多くのLEE100人隊がレポートしてくれました。梅には並々ならぬ思いがあるそうです。
「元々小さい頃から梅が大好きで、親戚の家に梅の木があって、母が梅酒や梅シロップを漬けていました。もちろん梅干しも大好きです。私も気づいたら梅仕事をしていました。若い人にも梅仕事を楽しんでほしい、簡単にできるよ、とこの本で伝えたいんです。レシピのポイントは200gや100g単位で作るものが多く、ガラス瓶でなくプラスチック容器や密閉袋を使っています。少量からお試しで作れるようにして、気に入ったらまた作ればいい。あとは、青梅以外に完熟梅や小梅を使ったレシピも紹介しています。梅が傷ついていた時の救済レシピもあるので、あますところなく使えます」
定番の梅シロップ、梅酒に加えて、“完熟梅のスパイス漬け”“梅ダージリン”“小梅とオリーブのピクルス”など新しいレシピも満載です。“梅アチャール”“梅パクチー”などの超個性派レシピや、仕込んだ当日に食べられるものも。毎年同じ梅仕事をしている人も、改めて新しい梅レシピを試したくなる一冊です。
梅仕事本を持って「梅の海外進出」を目指す!?
念願の梅仕事本を出した今井さんが、次に考えているのは梅の海外進出です。
「色々調べてみると、梅をしょっぱくして干して食べる文化って日本独自なんですよね。先日はメキシコの梅をいただいたのですが、品種が違うこともあって、実がそれほど厚くない。日本の南高梅は、種が小さく皮が薄くて果肉が厚い。アメリカでも日本の梅干しを売っていますが、1粒500円くらいで、かなり高級なんだそうです。
先日鎌倉のカフェで、作家で写真家のクレイグ・モドさんに偶然会ったんです。彼はニューヨーク・タイムズで“今年行くべき52か所”として、盛岡を推薦し有名になった方ですが、彼に『梅干しって、どうですか。世界で流行りますか?』と聞くと、『僕は好きだよ。LAとブルックリンならいけると思う』と言ってくれて。編集の筒井さんと、これは梅の本を持ってアメリカに行きましょう!なんて話をしています 」
後半では、今井さんが料理家になるまでの半生を聞きます。神戸での暮らしや幼少期の料理体験、いくつかの困難を乗り越えてたどり着いた料理家の仕事、梅仕事に使命感を持って取り組む理由とは。
今井真実さんの年表
1981年 | 兵庫県神戸市で生まれる |
---|---|
19歳 | 映像を学ぶため大学に進学。1回生で辞め、テレビ局のADとして働き始める |
24歳 | 東京に引っ越す。営業事務の仕事に就く |
26歳 | 写真家の今井裕治さんと結婚 |
27歳 | 長女を出産 |
29歳 | 料理教室『nanamidori』を始める |
34歳 | 長男を出産 |
39歳 | noteで日記とレシピの執筆をスタート |
2022年 (41歳) |
『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』(KADOKAWA)、『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』(左右社)を出版 |
2023年 (41歳) |
『料理と毎日 12か月のキッチンメモ』(CCCメディアハウス)、『フライパンファンタジア 毎日がちょっと変わる60のレシピ』(家の光協会)、『今井真実のときめく梅しごと』(左右社)を出版 |
今井真実さんの「梅仕事」寄稿記事はこちら!
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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