『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
尊厳を求めて闘う女性たちの出した答えとは──
『死ぬまでにしたい10のこと』の主演などで知られるサラ・ポーリーは、『アウェイ・フロム・ハー君を想う』や『テイク・ディス・ワルツ』など、監督としても非常に高く評価されてきた。『物語る私たち』以来10年ぶりとなるこの脚本・監督作も、怒りつつも冷静さを失わず、繊細さと力強い意志に満ちた、心奪われる傑作だ。
一面の畑が広がるのどかな集落。朝起きると、見覚えのない体のアザや出血など、少女たちの身体に異変が起きていた。ある晩、忍び込んで来た男に気づいた一人の少女が叫んだことから連続性的暴行事件が発覚。それまで“作り話/悪魔の所業”と隠蔽されてきた事態が明るみに出て、男たちは逮捕される。保釈されるまでの2日間、女性たちは納屋に集合する。今こそどうすべきか。絶対に許されない恐ろしい悪夢を、子ども世代に引き継がないためには──。
この導入部でカーッと頭に血がのぼるが、ここから始まる話し合いが本題、かつ見どころだ。選択肢は3つ。赦(ゆる)すか。残って闘うか。ここを去るか。100人を超える投票の結果、闘うと去るが同数、赦すが少数。しかし赦す派リーダーの「破門の恐れ」などの訴えに揺れる者も。侃々諤々(かんかんがくがく)の話し合いに、こんなにも没入させられるのは、自分の意見を重ねて応援しつつ、全員の言動の源──恐怖や保身や消えないトラウマなど、どれもわかってしまうから。しかも遠い昔の話かと思いきや、十数年前に実際にボリビアで起きた、ある宗教団体の話がベースというから驚く。それを知るまでもなく、なるほど、今と容易につながる。
記録係として青年(ベン・ウィショー)が同席するように、敵は“男”ではなく、有害な“男性性”や暴力、家父長制的価値観や思い込み、弱者の声が封印される社会システムなのだ。容易に決裂せず、ギリギリまで意見の一致を目指して話し合う彼女たちの姿に、目指す未来が見える。感無量の涙が止まらないラスト、連帯の尊さを噛みしめるはずだ。フランシス・マクドーマンド、ルーニー・マーラなど女優たちの好演も光る!
・全国公開中
・公式サイト
『青いカフタンの仕立て屋』
伝統と古い価値観に生きる苦悩、真の愛と優しさに感動
デビュー作『モロッコ、彼女たちの朝』が高く評価されたマリヤム・トゥザニ監督の第2弾。モロッコの旧市街、母から娘に受け継がれる伝統衣装・カフタンドレスの仕立て屋を夫婦で営む店に、若い職人が雇われる。しかし彼の存在が、妻の心にさざ波を立て……。終盤、夫婦の関係性とその深い絆に驚き、感動がじわじわと心の襞(ひだ)に入り込む。3人が抱える葛藤と苦悩、相互理解や敬愛が胸に熱く迫る。カンヌ国際映画祭「ある視点部門」国際映画批評家連盟賞受賞。
・6月16日より全国公開
・公式サイト
『テノール!人生はハーモニー』
偶然の出会いがもたらす、感動のサクセスストーリー
パリのオペラ座に、スシの出前にやってきたラッパー兼アルバイト店員の青年が、売り言葉をオペラの歌まねで買って出る。意外にも伸びやかな美声に、オペラ教師が驚き──。地区対抗ラップバトルに熱くなってきた彼が、次第にオペラに開眼していく様子がユーモラスに綴られる。階層の違う人間関係や恋、家族や仲間に言えずラップとオペラの間で揺れる姿にハラハラしつつ祈るような気持ちに。『誰も寝てはならぬ』などオペラを彩る名曲の数々に聴き惚れる!
・6月9日より全国順次公開
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です
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