お話を伺ったのは
テレビ東京ドラマプロデューサー 祖父江里奈さん
1984年、岐阜県生まれ。テレビ東京所属プロデューサー。バラエティ番組の担当を経て、2018年よりドラマ制作へ。『来世ではちゃんとします』シリーズ、『共演NG』『声優探偵』『運命警察』など担当作多数。
Twitter:RSobby
キャスティングや脚本作りに、作品への思いを込めています
『生きるとか死ぬとか父親とか』では40代の独身女性、『来世ではちゃんとします』では性に奔放なヒロインなど、等身大から少しタブーにも思える部分まで、女性の多様な生き方をテーマに、ドラマ制作を続ける祖父江里奈さん。あらためて、ドラマプロデューサーとはどんな仕事なのでしょうか?
「まず最初に企画を考えることから始まります。テレビ東京では各時間帯のドラマ枠で企画募集をすることが多く、プロデューサーは自分がやりたい企画を考えて応募します。制作が決まると、監督や脚本家、出演してほしい俳優さんなどに依頼していく。ドラマは1人ではできないので、作品に合った人集めが重要なんですね。また、脚本作りもプロデューサーの大事な仕事。原作ものなら長い原作のどこを抜粋するか、オリジナルだったらゼロから設定やストーリーをすべて決めていく。
監督、脚本家、プロデューサーなどが何度も集まり、ああでもないこうでもないと意見を出しながら“本打ち”と呼ばれる脚本の打ち合わせを行います。ほかにも、いかにおもしろい方法で多くの人に作品を知ってもらうかといった宣伝の方法を考えたり、最近は放送後に配信サービスでの二次利用が一般的なので、その対応もしています」(祖父江里奈さん)
驚くほど多岐にわたるプロデューサーの仕事。中でも、キャスティングには力が入るのだそう。
BA役に神崎恵。メイクの魅力を伝える
『だから私はメイクする』
「マリー・アントワネットになりたい」「もう自虐したくない」などメイクをする理由から女性の生き様を描く。舞台となる化粧品売り場は、西武百貨店で撮影されたことも話題に。
●神崎恵さんが素敵でした! メイクは自分のためにしていいんだと励まされました。(LEEメンバー アズさん)
●“自分が好きな自分であること”を肯定してくれるセリフに、勇気が出る!(LEEメンバー ichiさん)
●最後のほうではコロナ禍も描いていたのが、とてもリアルでした。(LEE100人隊No.038 さとささん)
「やさしい印象の人にあえて悪役をやってもらうとか、普段はドラマに出ない芸人さんを起用したりとか。『だから私はメイクする』では、制作が決まったときから主人公は神崎恵さんにお願いしたいと思っていました。神崎さんに密着したドキュメンタリー番組を見たときに『眉を1ミリ外に描く勇気』と話していたのが印象的で。この言葉に、恥ずかしいと躊躇していた多くの人が励まされていて、女性の背中を押せる方だなと。
実際に役柄にぴったりハマって、神崎さんの美容家としての背景があるからこそ、演技を超えた説得力がありました。キャスティングは、意外にクリエイティブな作業だなと感じますね」(祖父江里奈さん)
──『だから私はメイクする』より
「神崎恵さん演じるBAの熊谷すみれは、どんなお客さんも肯定して、メイクで背中を押してくれる。ドラマの世界を象徴するセリフです」
また、スタッフと話し合いながら進めていく脚本作りに、やりがいを感じるとも。
「特に『生きるとか死ぬとか父親とか』の脚本は、じっくり時間をかけて作りました。原作はもちろん『ジェーン・スー 相談は踊る』などのジェーン・スーさんのほかの本もたくさん読み漁って。あらためて、さまざまな世代に寄り添っているなと感じたし、女性の悩みに対するヒントがたくさんありました。」(祖父江里奈さん)
40半ばの娘と70代の父親の普遍的な家族の物語
『生きるとか死ぬとか父親とか』
ジェーン・スーによるエッセイをドラマ化。ラジオパーソナリティ・コラムニストとして働く蒲原トキコと、愛嬌はあるが破天荒な70代の父。親子の愛憎や表裏を描く家族の物語。
●家族の関係性や独身女性の生き方が丁寧に描かれていて最後には涙が……。(LEEメンバー あやさん)
●いろいろあった父親との時間を大事にするって、簡単なことではないと思う。(LEE100人隊No.097 たかなさん)
●親子の日常会話があまりにも自然で、どんどん感情移入してしまう。(LEEメンバー るんさん)
「感銘を受けた言葉や要素は全部、主人公の蒲原トキコがパーソナリティを務めるラジオのシーンに詰め込んでいます。あのお悩み相談のセリフは、どれも心に刺さるものばかり。『独身って麻薬だと思う。それくらい楽しいから。でもね、独身の“楽しさ”って“寂しさ”と天秤にかかってる』というトキコのセリフは、中年女性の心の声だなと。まるで自分のことを言っているみたいだと、私自身深く共感しました」(祖父江里奈さん)
──『生きるとか死ぬとか父親とか』より
「独身女性の本音が詰まっている! 蒲原トキコを演じる吉田羊さんが本当にジェーン・スーさんのようで、その語り口が心にしみます」
女性だって“性”を楽しんでいい。ニューヒロインが誕生!
祖父江さんの作品では、性に対してオープンな女性が描かれることも特徴的です。
「もともと学生時代から『女が下ネタなんて言うんじゃない』などと非難されることに納得がいかなくて。女性が性について閉じなければいけない風潮はなんだかおかしいなと感じていたし、男性だけがおもしろがっていいなんて、ちょっとずるいと思っていたんです。だってセックスは男女どちらにとっても楽しいもののはずだから。
そんな思いを持ちながら仕事を始めた頃に、湯山玲子さんの『ビッチの触り方』という本に出会いました。ビッチという単語を再定義しようという内容なのですが、女性が性に奔放だとふしだらとか、だらしないとか言われてきたけれど、そうじゃないんだと。女の人が自ら能動的に性を楽しむのは素敵なことだと謳っていて、なんてかっこいいんだ!と思いました。私の中で革命的でしたね」(祖父江里奈さん)
湯山玲子『ビッチの触り方』
「ビッチという言葉を再定義しようという本。この本を読んだ入社当時は、まだまだ“女性が能動的に性を楽しむなんて”と眉をひそめられていた時代。斬新な考え方は私の原点であり、とても革命的でした。好きすぎて’13年に『ビッチ』という映画を撮って、映画祭にも出品しました!」 『ビッチの触り方』(絶版)/飛鳥新社
この思いが原点となり、これまでになかった、新しいヒロインが生まれることに。
「複数のセフレがいる女の子が主人公の『来世ではちゃんとします』は、エロのシーンはなるべく笑いに包んで、生々しくなりすぎないよう、女性に抵抗を持たれないように意識しました。今年パート3を放送したのですが、正直ここまで広く受け入れられるとは思っていませんでしたね。動画配信サービスだと視聴されたデバイスのデータもわかるのですが、“来世ちゃん”は約8割がスマートフォンでの視聴だったんです。1人でこっそり見てくれていた人が多いことがわかり、やっぱり女性だって性的なことに興味あるよねと。
『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』は、30代女性がマッチングアプリを使ったらどうなるのか、のぞき見できるような内容。セックス目当ても多いけれど、年下イケメンとのいい出会いもあったりする。『ドラマを見てアプリを使ったら、彼氏ができました!』という視聴者の声が届いたのも画期的だったなと。私の作ったドラマがきっかけで一歩を踏み出して、誰かの人生がちょっとでも開けたなら、そんなうれしいことはないですね」(祖父江里奈さん)
マッチングアプリで遅咲きの青春を謳歌!
『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』
友達のすすめで恐る恐るマッチングアプリを始めた、38歳バツイチの千秋。年下イケメンからモテまくり、どっぷりハマってしまう……。主人公の戸惑いを山口紗弥加が好演。
●自分や友達と重なる部分があり、共感で心を揺さぶられた。(LEEメンバー たくわんさん)
●タブーなテーマを積極的に描く攻めの姿勢がとても好きです!(LEEメンバー カナミさん)
これまで約10作品を手がけて、自身の伝えたいことをドラマに込めてきたという祖父江さん。「40代を目前に人生の棚卸しをして、今後描きたいテーマと向き合いたい」と話します。
「作りたいものがだんだんと変わってきていると感じるので、一度立ち止まって考えたいんですよね。なかなかまとまった休みが取れず難しいのですが(笑)。今思うのは、恋愛は描きたいけど若い世代の描き方とは違ってくるだろうなとか、東京だけでなく地方で生きている人たちの生活も気になるなとか。私自身にも当てはまることですが、独身女性が最後まで楽しく生きる方法も、ドラマで探っていきたいなと思います。
あとは不幸な状況にあるはずなのに、あまり気にしていない女性には興味がありますね。究極のたとえですけど、ホストにハマって借金を抱えているとか(笑)。周りから見たら悲惨で、一般的な幸せのセオリーからは外れているけれど、それを楽しんでいる姿を伝えたいです。生き方っていろいろで構わないと思うし、ドラマでその様子を描くことで、少しでも女性の生きづらさがなくなればいいなと思っています」(祖父江里奈さん)
NEWS
祖父江さんプロデュースの新作ドラマが放送中!
『弁護士ソドム』
福士蒼汰が初の弁護士役に。詐欺加害者専門の弁護士・小田切は、だまされた弱者ではなく加害者に味方する。彼の真の目的とは? 毎週金曜夜8時〜テレビ東京系で放送中。
【特集】共感を生み出すクリエイターに聞く“今描きたいもの”
撮影/名和真紀子 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
こちらは2023年LEE6月号(5/6発売)「共感を生み出すクリエイターに聞く“今描きたいもの”」に掲載の記事です。
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