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演出家・錦織一清さんの世界観がダジャレで溢れている理由とは?著書で初めて明かされたユニークな演出論に注目!

2023.03.12

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「若い役者さんが迷ったときに、立ち戻れる場所を残しておきたかった」

故ジャニー喜多川氏をして「ジャニーズの最高傑作」と言わしめた逸材として知られる、ニッキこと錦織一清さん。

歌、踊り、芝居の実力をバランスよく兼ね備え、少年隊のリーダーとして長年愛されてきましたが、近年は気鋭の演出家としても一目置かれる存在です。

3月1日には初の自叙伝『少年タイムカプセル』を上梓し発売当日に重版、昨年末には演出について初めて綴った書籍『錦織一清 演出論』を発売し、「俳優にはダメ出しをしない」「登場人物の後ろに立って芝居を一緒に模索する」といったユニークな演出メソッドが話題を集めています。LEE世代の読者にとってはこの2冊を通じて、彼の半生、そして演劇への情熱に触れることで、ニッキという才能の核心部をより理解できるのでは……?という期待が膨らみます。

本記事では、演出家としてのニッキにフィーチャー。舞台への思い、劇作家・つかこうへい氏とのエピソードなどを存分に語っていただきました。

──なせ、演劇論をテーマに本を書くことに?

僕は80年代の若かりし頃にお芝居を始めたんですけど、いま振り返ると、随分遠回りしてきたなと思うことも多くて。当時は先に演劇を始めていた姉に、演劇の滑舌練習の定番でもある「外郎売(ういろううり)」の本を借りて独学で勉強したりしてたんですけど……

“演劇には見せかけだけの格好良さよりも大切なものがあるぞ”ってことに、もっと早く気づきたかったと、常々思っていました。

そこで、いつも稽古場で若い役者さんたちにお伝えしていることを、本にまとめてみることに。彼・彼女らが演技に迷ったときに立ち戻れる場所を、形として残しておきたいと強く思ったんです。僕もある程度自由がきく年齢になりましたから、いい頃合いかなと。

本つくりにあたっては、ジャニーさんやつかこうへいさんが、全盛期の少年隊のステージ脇で、はたまた演劇の公演中の舞台袖で、僕にしてくれたアドバイスも盛り込みました。

──発売後、手応えはいかがですか?

ともすれば一冊丸々、ダジャレ本になってしまう危険性は否めなかったと思います(笑)。しかし演劇論にテーマを絞ったことが功を奏し、そうはなっていません。ご一読いただければ、「ああ、錦織はダジャレだけじゃないんだな」ってことを、ご理解いただけると自負しております(笑)。

「生意気で空回りしていた若い頃、つかさんに鼻をポキッとへし折られた」

──若い頃の錦織さんは、どんな役者でしたか?

20代から30代前半にかけては、相当生意気だったと思いますよ。まあ若者ってみんな熱くなりがちですけど僕も例にもれず、礼儀知らずでめちゃくちゃで、いろんな人にご迷惑をかけたと思います。

そんな生意気ざかりの頃に、つかこうへいさんと出会い、高く伸びた鼻をポキッとへし折られました。自尊心や思い上がりを、本当にすべて剥ぎ取られたんです。

当時の僕は、演技に関して空回りばかりしていました。ロバート・デ・ニーロや、アル・パチーノらハリウッドの名優たちの演技にかぶれ、小手先のテクニックばかり追い求めて。

外国人の役が多かったこともあり、洋画を観まくっては、映画『シャイニング』でジャック・ニコルソンがワイングラスを格好良く回していたら、同じように回したり、グラスの置き方にこだわったてみたり……今思えばバカなことばっかりしてたな……と。

──当時のご自身に伝えたいことは?

演技って「上手に驚いた表情ができるか」みたいなきな“テクニックのこねくり回し”じゃないぞ、ということですかね。大切なのは「いかに自分の感情を動かし、表現する」か。

どんな役を演じても、結局のところ自分自身の心で表現するしかないんですよ。実は人間の本性って、日常生活よりも舞台の上の方がつまびらかになる。それはもう、恥ずかしいくらいに。だから役づくりや台詞を覚えることよりも、その前段階でしっかり自分の中で動機づけする方がよっぽど重要なんです。

残念ながら、若い頃はなかなかそのことが分からない。諸先輩方とご一緒するなかで、僕もようやく気付けましたから。

「ジャニーさんもつかこうへいさんも、シャイ。僕はシャイな人間にどうしても惹かれてしまう」

──つかこうへいさんは、錦織さんにとって「永遠の演劇の師匠」とのこと。厳しいことで知られるつかさんの演出を受けるなかで、一番つらかったことは何でしょう?

つかさんは役者に対してよく「いやしいことをするな」とおしゃっていた。僕は地味にそれが一番こたえましたね。アドリブで少しでも前に出ようものなら、「お前、漫才じゃねぇんだから、いやしいことするなよ」とチクリ。舞台袖から堂々と歩いて登場すれば「宝塚じゃねぇんだから」とまたチクリ。

そんなつかさんのお嬢さんが無事、宝塚に合格されたときはしっかりと電話で祝辞を述べさせていただきました(笑)。僕だけじゃなく、つかさんの洗礼を一度でも受けた役者さんの頭の斜め上には、常につかさんがいるんじゃないかな。

ジャニーさんもつかさんも、相当にシャイなんですよね。ジャニーさんが僕に対して素直にありがとうと言ったことは一度もないし、つかさんがいつも憎まれ口を叩いているのは、シャイの裏返しなんですよ。でも僕は天真爛漫な人よりも、シャイな人間に惹かれてしまう。シャイに悪い人はいませんから。

──ジャニーさんとつかさん、二人の恩師が錦織さんの演劇論を読んだら、どんな感想を言うと思いますか?

ジャニーさんはきっと「お前が書いたことは、お前が生まれる前からやっていたよ」って言うでしょうね。最近偶然、動画配信サイトで初代ジャニーズが紅白歌合戦に初出場したときのモノクロ映像を視聴して、それが僕が生まれた1965年頃のもので。ジャニーさんの凄さを改めて実感したところです。

つかさんは……シンプルに「お前、何言ってんだ? バカかよ」かな(笑)。



錦織ワールドが、ダジャレで溢れている理由

──なるほど(笑)。『錦織一清 演出論』の中には「俳優にダメ出しはしない」「いい役者は顔が大きく見える」「舞台上では鼻呼吸」「芝居はキャッチボールと言った奴はA級戦犯」などパワーワードが数多く登場します。特に「いぶし銀」の教えが印象的でした。

若いときって、みんな「いぶし銀」になろうとしがちなんですよね。でも残念ながら、なろうとしてなれないのが「いぶし銀」。だから「最初は思い切り銀色に輝こうぜ」というのが僕から若者へのメッセージです。本当は「いぶし銀」よりもピカピカに光った銀色の方が断然カッコいいんですよ。光った銀も年を重ねれば、自然と渋くなりますから。

え、僕自身? まだまだ「いぶし銀」にはなれていませんね。精進あるのみです。

──錦織さんが演出される舞台には、ダジャレが多かったりと、独特の世界観がありますよね。改めて、演出家としての「錦織ワールド」とは?

楽しさの裏側の寂しさとか、喜びの裏の怒りとか、僕は常に裏返しのことを考えているような人間でもあります。

舞台のお芝居って、きっと言いたいコトは一つか二つで、そこを遠回りしながらラストシーン向かっていくものなんですけど、僕はその道のりをできるだけ面白くしたい。テレビや映像に比べれば制限も少ないからこそ、別にやらなくてもいいこと、心の底からくだらないと思うことで埋め尽くされてる作品が僕は好きなんです。

なぜって、心の底からくだらないものが一番人を傷つけないから。つかさんの舞台も本当にダジャレというか、冗談ばっかりですけど、ラストには登場人物全員が、勇敢に立ち向かうようになるんですよ。くだらないダジャレで和ませつつ、真髄は違うところに連れていく。僕もその影響を少なからず受けていますね。

錦織一清 演出論

『錦織一清 演出論』2,200円/日経BP

 

『少年タイムカプセル』1980円/新潮社 錦織一清

『少年タイムカプセル』1980円/新潮社

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錦織一清公式サイト「Uncle Cinnamon」

撮影/山崎ユミ 取材・文/城リユア

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