『財布は踊る』
原田ひ香 ¥1540/新潮社
楽しみつつ、お金との付き合い方も学べる物語
今よりも、少しだけ豊かになりたい。誰もが願っているそんな思いと「お金のつくりかた」をテーマにして、話題を呼んでいる連作短編小説が今月の作品。
主人公は専業主婦の葉月みづほ。夫、息子と新築のマンションに住んでいるが、決して暮らしはラクではない。そんな彼女の夢は、家族3人で海外旅行へ行くことと、自分のためにブランド物の財布を買うこと。この2つを目標に、節約雑誌のコラムを参考にして、毎月2万円を貯金していた。夢を達成し、旅先で財布を購入したみづほ。ところがその後に、夫・雄太の200万円以上の借金が発覚する――。
みづほは借金返済のため、一度も使っていない財布をフリマアプリで売ることに。その財布を購入した水野文夫も、上向かない暮らしから脱出しようと、試行錯誤を繰り返す日々を送っていた――。
この文夫を次の持ち主として、少しでもよい未来を描こうともがく人々の間を、次々と渡り歩いていくみづほの財布。持ち主たちの行動により、財布は、欲望や見栄の象徴と化したり、ある場所では人との絆を深め、よりよく生きるためのアイテムになったり……。ひとつの財布を通して、人の心とお金への意識が、赤裸々に描かれていて読み込まずにはいられない! 主人公のみづほとともにキーパーソンになるのが、節約主婦の彼女が憧れていたお財布アドバイザーの善財夏実だ
「いい財布を買う」ことを提唱したのがきっかけで、ライターとしてブレイクし、読者のカリスマになっていた彼女だけれども、物書きとして行き詰まり「財布はどうやって持つものなのか?」と、自分にもう一度問いかける。それはお金や仕事のやり方について、向き合い直すきっかけに。そして最初にブランド物の財布を手放したみづほの、その後の生きざまには、目を奪われてしまうものが!
マネーリテラシーの大切さや、子どもへのお金教育の重要性が言われる昨今。お金の使い方、その先にある、“本当に豊かな暮らしとは何?”という考えを、深めさせてくれる物語。
『ポール・ヴァーゼンの植物標本』
著:ポール・ヴァーゼン 文:堀江敏幸 ¥2200/リトルモア
2017年夏に、日本人の骨董商が偶然見つけた紙箱。それは今から100年以上前に、ポール・ヴァーゼンという女性が作った草花の標本だった。驚くほど鮮やかな草花の写真と、コレクションに刺激を受けて書かれた、堀江敏幸さんの掌編の2つを味わえる一冊。時代と国を超えたロマンあふれる世界を堪能して!
『フリースタイル言語学』
川原繁人 ¥1980/大和書房
言語学・音声学の専門家が「ことば」をテーマに綴ったエッセイ。人間が音を使って行うコミュニケーションが気になる、という著者が、現代の日本語ラップの分析から、昔の人の発音方法まで幅広く考察する。かなり難しい内容も書かれているものの、ライトかつユーモアたっぷりな文章で読ませてくれる。普段何気なく発している言葉が、興味深いものに思えてきそう!
『いきものがすきだから(1)』
カレー沢 薫 ¥814/日本文芸社
昨年『ひとりでしにたい』が文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した著者による最新作。動物好きな一人暮らしの大学生が、ペットを飼う代わりに動物保護施設で働くことに。そこには思い描いていた動物と触れ合える活動とは真逆の過酷な現実が……。可愛いから、かわいそうだからという感情を超えて、いきものを飼うことについて深く考えさせられること必至。
取材・原文/石井絵里
こちらは2022年LEE11月号(10/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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