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【書評】思春期のもどかしい感情を思い出させてくれる一冊『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介

2022.07.29

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Books Culture Navi

『パパイヤ・ママイヤ』
乗代雄介 ¥1760/小学館

17歳のフレッシュ&ビターな記憶を追体験!

『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介 ¥1760/小学館

鮮明に覚えているようで、今やすっかり遠くなってしまった思春期の記憶。あの頃のもどかしい感情を思い出させてくれるのが、今月の一冊。

主人公は17歳の女の子、パパイヤとママイヤの二人だ。彼女たちはSNSがきっかけで知り合う。少し不思議なハンドルネームの由来は「ママがイヤ」と「パパがイヤ」だから。そして彼女たちは偶然にも、お互いが近所に住んでいると知り、地元にある干潟で待ち合わせをして会うことに。運動が得意でスマホゲームが好きなパパイヤと、運動は苦手でいつもカメラを手放さないママイヤ。

「親がムカつく」以外は共通点の少ない二人だったけれども、リアルでつながった日から意気投合し、週に一度は必ず会うように。彼女たちがくつろいで過ごすゴミだらけの干潟には、絵を描くのが好きな少年、路上生活を続ける老人などが登場し、二人と交流を結んでいく。

17歳同士の貴重な日々がみずみずしく描かれる中で、パパイヤとママイヤは、それぞれの思いを分かち合う。パパイヤの悩みはお酒に溺れている父親。そしてそんな父親を見捨てきれない母親も含めて、家族へ違和感を持たずにはいられない。一方、ママイヤの母親は、世界中で仕事をしているアーティスト。公私ともに自由かつパワフルなシングルマザーのもとで育てられたがゆえに、ママイヤは「母親に比べて、私には何の芸術的な才能もないんじゃないか」と、萎縮している。大人へのモヤモヤと、未知数すぎる自分たちの未来への不安を抱えて、二人はある冒険をすることに――。

パパイヤとママイヤのように、自分について悩んだり、もがいたりすることは、年齢を重ねた大人たちにもあるはず。思春期の少女二人の感性に刺激を受けながらも、「じゃあ今の私はどうだろう?」と、あらためて己と向き合うきっかけにもなりそう。また、思春期を間近に控えた子どもを持つ人にとっても、親がどう見られているのかを知る手がかりに。繊細かつ生命力あふれる時期に「どう寄り添うか?」と考えさせてくれる。

『#真相をお話しします』
結城真一郎 ¥1705/新潮社

『#真相をお話しします』結城真一郎 ¥1705/新潮社

両親が移住した離島で育ってきたチョモ。幼なじみの一人がスマホを持ち始めたのをきっかけに、彼はYouTuberに憧れを抱くも、その日を境に島の人の態度が急変し――。第74回日本推理作家協会賞を受賞した『#拡散希望』をはじめとする短編ミステリー集。中学受験、婚活、妊活など、現代の世相が物語の軸になっており、そのリアルさと巧みなトリックに引き込まれる!

『地球、この複雑なる惑星に暮らすこと』
養老孟司 ヤマザキマリ ¥1650/文藝春秋

『地球、この複雑なる惑星に暮らすこと』養老孟司 ヤマザキマリ ¥1650/文藝春秋

解剖学者の養老孟司さんと漫画家のヤマザキマリさんが、お二人が好きな昆虫の話から文学、映画、経済や環境問題に至るまでを語りつくした、コロナ禍前から4年間にわたる対談集。世界中の過去の歴史や創作物、さらには昆虫や動物から紡ぎだされる日本人の考え方や価値観、そして人間という知的生物が地球上でこれからどうすればいいかを教えてくれる一冊に。



『夜の大人、朝の子ども』
今日マチ子 ¥1320/幻冬舎

『夜の大人、朝の子ども』今日マチ子 ¥1320/幻冬舎

離婚して息子の親権を手放したのち、今は一人暮らしをしているアラフォーのゆい。現実に疲れた彼女が夜ごと夢に見るのは、無邪気だった子どものころ、仲よしだった親友、ケンカしつつも気になっていたクラスメイト。“夢”をキーワードに、大人の女性が癒され、立ち上がっていく姿を優しく描いたコミック。頑張りすぎて息切れしたときに読むと、心にしみ込みそう。


取材・原文/石井絵里


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