『生者(せいじゃ)のポエトリー』
岩井圭也 ¥1870/集英社
読めば「私だけの言葉」を見つけたくなる短編集
SNSやブログで、簡単に文章を読み書きできる今だから、言葉が持つ力について考えるって大事かも。今月の作品は、詩の魅力と、言葉が人の心の支えにもなりうるということを教えてくれる短編集。
第一話「テレパスくそくらえ」の主人公・悠平は25歳のフリーターだ。幼い頃から、母親以外の人間としゃべるのに異常に時間がかかり、そのことが原因で、学生時代はいじめにもあってきた。大人になった今は、人と話す機会が少ない仕事を転々として生きている。彼はいつの頃からか、その日にあったことや感じた思いを、ノートへ詩として書くように。より自分らしい言葉を求めて小説や詩集を読み漁り、詩作は彼の表現ツールになっていく。寡黙な彼の豊かな言語能力に気づいたのが、バイト仲間でバンドマンのキュータだった――。
そのほかにも、交際相手に見切りをつけられずモヤモヤしている大学生女子、妻の死を昇華しきれない初老の男性などが登場する。登場人物たちは、割り切れない思いをポエムにし、声に出すことで、自分でも気づいていなかった感情に触れていく。
職場でも家庭でも、プライベートでも、膨大な数の言葉をやり取りし、メールで文章を打つ機会も多い私たち。具体的かつ相手に伝わりやすい表現を選ぶのがベストとされるのが、今の世の中だ。でも誰の心の中にも、理屈で割り切れない思いはあるし、その部分を丁寧に掬(すく)うことで、個性やオリジナリティなど、その人らしさが培われていくのかも。抽象的な思いを、長さに捉われずにリズムのついた文章にする詩作は、私たちが行っている言葉の使い方とは真逆。
難しそうだし、さらに書いたものを人前にさらけ出すのは、勇気と覚悟が必要だ……と思いつつ。その葛藤を超えた先に、新たなコミュニケーションが生まれるかも。詩という言葉が持つ、人々の心を柔らかく動かす力と、希望を感じさせてくれる。シリアスな話題も多い一冊ながら、読後は「私のモヤモヤとした思いも、自分だけの言葉にしようかな」と思えてくる!
『ははとははの往復書簡』
長島有里枝 山野アンダーソン陽子 ¥1870/晶文社
写真家の長島さんと、ガラス作家でスウェーデン在住の山野さん。母親であること、パートナーシップを含めた家族について、海外生活、仕事や生き方への思いを交わした一冊。住む場所も子育ての仕方も異なっている者同士の往復書簡で、意見の違いがおもしろく、かつ、どちらの考え方も参考になる! 巻末の対談は飾らない人の本音トーク全開で、こちらも読みごたえ十分。
『一汁一菜でよいと至るまで』
土井善晴 ¥902/新潮社
シンプルな「一汁一菜レシピ」で、TVのみならずネットでも大人気の土井さんの自伝本。料理研究家を両親に持った生い立ち、プロの腕前を磨くべく、フレンチと懐石料理の本場で修行をした日々、家庭料理という分野での挫折体験――。食に人生を捧げてきた人のストイックさに打たれつつ、料理をより手軽に、かつ楽しく作るためのモチベーションを上げてくれる一冊。
『ちびまる子ちゃんの友だちづき合い』
キャラクター原作:さくらももこ 監修:沼田晶弘 ¥935/集英社
「ちびまる子ちゃん」と楽しく学べる人気の『満点ゲットシリーズ』から、友だちとうまくやっていくコツが詰め込まれた最新作が登場。監修は子ども教育のスペシャリストである沼田晶弘先生。友だちの作り方、陰口や比べ合い、いじめ問題など、あるある悩みをケースバイケースな対応で乗り切る方法を漫画でわかりやすく伝授。大人が読んでも学ぶべきコツが満載!
取材・原文/石井絵里
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