押しも押されもせぬ宝塚トップスターから女優へ。望海風斗さんが実力を存分に発揮した『next to normal』
-
堀江純子
2022.04.27
“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.13:ミュージカル『next to normal』
シアタークリエ、兵庫公演を終え、ラスト愛知公演へと向かった『next to normal』。前回の安蘭けいさんのダイアナ率いるチームのレポートに続き、望海風斗さんチームの観劇レポとゲネプロ後に行われた会見の模様をお伝えします。
安蘭けいさんと望海風斗さんに想う、元宝塚トップスター魅惑の共通点
安蘭けいさんと並んで、今回Wキャストとしてダイアナを請け負ったのは望海風斗さん。
安蘭さんの時代も望海さんの時代も宝塚歌劇を観てきた私は、この二人には共通点を感じるところが多くあり、今“ダイアナ”という役を通して彼女たちが重なり合うのはすごく興味深いことでした。
お2人とも宝塚入団時から成績優秀、スター性と歌を武器にスターダムへと上がり、近年の宝塚男役としては比較的小柄なほうだと思いますが、観ていてそんなことは全く頭を過らないほどの圧倒的な男役美。かつ抜きん出た実力者! 宝塚の大劇場を包み込むようなパワーある歌唱力で、絶大な人気を得たトップスターであったお2人。安蘭さんのほうが先輩で、後輩である望海さんは2021年4月に宝塚を退団したばかり。
望海さんは退団後、『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』ではルイジ・ルキーニとトート役(宝塚在団中、本公演では実現しなかった)でも魅了し、今年1~2月は『INTO THE WOODS』で魔女役に。『next――』のあとは、6~7月『ガイズ&ドールズ』ミス・アデレイド、2023年2~3月は『DREAMGIRLS』でディーナ・ジョーンズと大作での大役が控えていますが、退団後、女性の役として舞台に立つのは『next――』が初!
誰一人被っていない。オールWキャストの見事な効果、醍醐味
先に安蘭さんチームを拝見したので、最初は少し、安蘭さんチームの記憶と重ねて観てしまうところがありました。そして結果得た感想は、キャスト誰一人被っていない。けれど、間違いなくどちらも『next to normal』! オールWキャストの見事な効果、醍醐味がありました。
登場シーンの、望海さんのダイアナは安蘭さんのダイアナよりも少しライトに感じました。というのも、どこにでもある朝の風景、どこにでもいる普通の主婦をより感じたのは望海さんチームのほうで、ストーリーを知らなければその風景には違和感が全くありません。それだけに、朝食用の食パンをいきなり床に並べ始めたダイアナの豹変が、余計にショッキング。
特に、私の中ではまだ男役としての望海さんのデータがほとんどを占めていた状態だったので、幕開けから女優としてダイアナを演じる望海さんの芝居の緩急とそこから得た衝撃は、少しニヤニヤしてしまうほど。ミュージカルファンとしての喜びを覚えました。“女優 望海風斗”、これは楽しみがまた増えたぞ!と。
渡辺大輔さんのダンは、同世代の夫の魅力
夫ダンとの夫婦としての並び、やり取りもお似合いで、ダイアナとダンは、ズレは生じるものの、互いに接点を探しながら共に病とトラウマに立ち向かう同志のようでした。共に泣き喚き憤り困惑する…大きな問題が夫婦に起きたとき、そんなふうに一緒に感情を揺さぶってくれる渡辺さんのダンは同世代の夫の魅力あり、頼もしく見えました。
夫婦で、家族で…長く暗い闇を抜けて、自己と向き合ったダイアナの笑顔は、照明もまるで朝陽のよう。彼女のこれからの人生に射す光に観客の胸のうちも晴れていくような清々しさがありました。
望海ダイアナと屋比久知奈さんのナタリー。向かい合って芝居したときに生まれるシンパシー、バランス
ダイアナの娘ナタリーと彼女に恋するヘンリー。まずナタリーについて申し上げると、安蘭さんダイアナの娘は昆さんナタリーだし、望海さんダイアナの娘は屋比久さんナタリーでしかない。どちらも入れ替え不可能と言いたいぐらい、母娘の相性がそれぞれピッタリ!
屋比久さんのナタリーは、拗ねちゃったティーンらしいクールなフリをする様子と、感情が爆発したときの熱さが、望海さんのダイアナの緩急と繋がり、勝手に「さすが母娘だなぁ」と思ってみたり。役者さん同士が、向かい合って芝居したときに生まれるシンパシー、バランスってこういうことなんだろうと。ダイアナとナタリー、本当にドラマティックな母娘です。
大久保祥太郎さんのヘンリーは“仏”!
そんなドラマを歌に注入してパッションの限りを尽くす屋比久さんのナタリーに、大久保さんヘンリーはひだまりのよう。橋本良亮さんのヘンリーが理想の彼氏であるならば、大久保さんのヘンリーは“仏”! こんな常時まろやかで優しい彼氏って、仏でしかない(笑)。
歌声もとにかく優しくて人間味溢れる歌を聴かせてくれました。ナタリーに何があっても、彼女がどんなに憤っていても、ヘンリーは動じない穏やかさ。理想の彼氏と、仏のような彼氏。どちらもナタリーを包む最高の彼氏でした。
2人の担当医ドクター・マッデン/ドクター・ファインは藤田玲さん。映像で舞台で、ファンタジーな世界観も人間味も併せて表現できる藤田さんですが、冷徹なほどに非常にクールな精神科医の一面を見せるからこそ、ドクター・マッデンとダイアナ・ダン夫妻との、のちの関係性を想像させるエンディングにあたたかい何かが。
藤田さんマッデンと渡辺さんのダンが向かい合うときの眼力対決……素敵でした(笑)。
激動の甲斐翔真さんのゲイブ、赤い炎を燃やす
そして…ダイアナとは別サイドで家族に衝撃を与えるゲイブ。私はこの役はいろんな観点からのさまざまな解釈があっていい役だと思うのですが、甲斐ゲイブは“激動の人”でした。
ダイアナを揺さぶり、ダンを揺さぶり、海宝直人さんのゲイブの少年性とはまた違った、押えようのないやんちゃさがゲイブのナンバーと一致して情熱的。海宝さんにより強く青い炎が見えたとするなら、甲斐さんゲイブには赤い炎が燃え盛っていた…と言ったところでしょうか。青と赤、2色を混ぜれば紫に……。青、赤、紫のカラーを纏って、ゲイブの色をそれぞれが作っていきます。
ダイアナだけでなく、キャラクター全員が必死に懸命に生きていく姿が強く美しい物語『next to normal』。自分の大事な人に起きたらどうなるか…どうするか。答えは見つけようがないけれど、ひとりの女性、ひとつの家族の生き方として、非常に生きていく勇気をもらえた作品でした。
おそらく、自分が今、どういう状況か。何を経験してきたか、していないか。どんな自分が観劇するかで、作品からもらえるものは違ってくると思います。何度再演しても、その時の自分で向き合ってみたい『next to normal』。自分のなかにある“普通”というものも、もう一度よく考えてみたいと思います。
ではここからは、望海チーム公開ゲネプロのあとに行われたフォトセッション&会見の模様をお届けします。役からちょっと離れて、俳優の皆さんが素の表情を見せてくれました。お楽しみください!!
next to normalのWキャスト勢ぞろいのフォトセッション&会見!安蘭けいさん「私の中はダイアナで燃えたぎっています」
「私は2013年の初演、初日から出演していて、その時からこの作品が大好きで、いつか再演できないかなと願っていました。9年越しにこうしてできて本当に幸せに思っています。私の中はダイアナで燃えたぎっています。
初演は演出家の方が向こうからいらして作ったんですが、今回はオリジナルの日本版ということで、初演のときに感じていたこととは若干違うんですね。時代も違いますし、双極性障害というものを多くの方が理解してくださるようになって、私たちもその世界に入り込みやすくなりました。
初演よりもより役に近くに、自分を近づけて考えられることができたかな、と思っています。初演とはセットも変わり、違う世界がありますね」
望海風斗さん「人間が違うと、同じ台詞、同じ音楽でもまたちょっと違うものができる」
「最初にこのお話を伺ったときは、自分の中でもどういう挑戦になるのかわかりませんでした。制作の方々の“この作品を再演するんだ”って熱意、熱い想いを受けて…今に至ります。やればやるほどこの作品が大好きになって、その気持ちを大切に、お客様にはその日お届けできる目いっぱいのものを、お届けしたいと思っています。
(安蘭チームゲネプロを)昨日拝見したんですが、人間が違うと違う世界と言いますか。同じ台詞、同じ音楽でもまたちょっと違うものができるんだなと感じました」
海宝直人さん「ゲイブとして生きていきたい」
「僕は2018年『TENTH』でのダイジェスト版でゲイブを演じました。この作品の持つエネルギー、パワー、音楽の力と…もう虜になりまして、この経験は僕にとって大きなものになり、いつかフルサイズで関わりたいとずっと思っていました。
今、本当に幸せですし、稽古しながら改めて、音楽、芝居…いろいろなピースがハマって、すごい作品だなと。エネルギーを出してパワフルに、ゲイブとして生きていきたいと思います」
甲斐翔真さん「海宝直人さんとWキャストなのがとても嬉しい」
「トニー賞で見たこの作品の映像が大好きで、昨日も今日も見て、この舞台に立つための活力にしています。海宝さんもおっしゃったように音楽の力が強くて、皆さんと『next to normal』の空気を共有できるのが楽しみです。ミュージカルが好きな僕としては海宝直人さんとWキャストなのがとても嬉しいです(笑)」
昆夏美さん「毎日ナタリーを理解しようとしても時間が足りないぐらい複雑」
「2012年に韓国で観劇していまして。韓国語で内容はあまりわからなかったんですけど作品のパワーと皆さんの歌唱力に衝撃を受けて。日本で上演されることがあればぜひ出演したいと思っていました。
10年後……こうして作品に関わることができて本当に嬉しく思っています。実際、稽古をしていくと内容的にはとっても繊細な心を描いていて、毎日ナタリーを理解しようとしても時間が足りないぐらい複雑で、抱きしめてあげたくなるような役です。9年ぶりの再演、ご期待に沿えるよう努めていきたいと思っています」
岡田浩暉さん「すべての方に前に進む光を届ける作品になるんじゃないかな」
「2018年『TENTH』ダイジェスト版に参加させていただきました。終わってすぐプロデューサーさんに『絶対に再演してください。絶対! 絶対に!!』『絶対にもう一度やらせてください』と何度もお願いしましたが、叶えていただきありがとうございます(笑)。
初演の頃はまだ…双極性障害のような精神の病は遠く感じていたのかな? 『TENTH』のときは近くなってきて、今はかなりピタッと時代と合っているんじゃないでしょうか。いろんな障害を持つ方に寄り添いつつ、また共に歩んでいる方にも同様に…すべての方に前に進む光を届ける作品になるんじゃないかなと」
橋本良亮さん「ジャニーズに入ったばかりのジャニーズJr.が『YOU明日、デビューだよ』って言われるほどの緊張感がありました」
「このお仕事が決まって、以前に共演したことがある新納さんから早々に連絡をいただきまして。『一緒に頑張ろうね』と喜びあうところから始まりました。新納さんに、『この作品はやっぱり難しいですよね。何かアドバイスはありますか』と相談したんですね。そうしたら新納さん、『難しいから頑張って!』って(笑)。……頑張りました(笑)。
音楽劇はやってきましたが、ここまでのがっつりミュージカルとなると初めてだったので、すごく不安だったんです。ジャニーズに入ったばかりのジャニーズJr.が『YOU明日、デビューだよ』って言われるほどの緊張感がありました。この素晴らしいキャストの面々の中に僕がいること自体、すごいことです。昆ちゃんが演じるナタリーを1ヵ月ガッツリ愛したいと思います」
新納慎也さん「センシティブなテーマを大大的にできるようになったなと」
「この場で2時間語りたいぐらい、僕は『next to normal』オタクでして(笑)。まだオンに乗ってない頃、オフブロードウェイで、たしか8回ぐらいこの作品を見たんです…好き過ぎて。ミュージカルの歴史を振り返ると『RENT』で一歩変わったなと思ったんですが、その後この作品でまた一歩変わったなと。
日本初演、当時は連日満席というわけにはいかなかったんですね。双極性障害をテーマにした作品は日本ではまだ早いのかなと思ったんですけど、『TENTH』を挟んで今、2022年。コロナ禍の中、この作品が再演できることが嬉しく、センシティブなテーマを大大的にできるようになったなと。腫れ物に触るようなことではなく、隣りにいる人が双極性障害かもしれない。まさしく『next to normal』な時代になったなと思います」
お稽古は最初2チーム一緒に、後に別れての稽古だったそう。初演からの絆、作品を通して出会った縁…2チーム併せて、非常にあたたかく豊かなチームワークが感じられた会見でした。
このキャストの皆さんを通して、『next to normal』を感じ、考えた日々を私も大事にしていこうと思っています。
●こちらの記事もぜひお読みください
『next to normal』
【愛知公演】
■会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■日程:2022年4月29日(金・祝)
■料金:全席指定:12,000円(税込)
『next to normal』公式サイト
撮影/富田一也
この連載コラムの新着記事
-
【神戸】2泊3日の家族旅行へ行ってきました!ネイチャーライブ六甲、神戸須磨シーワールド…おすすめスポットをご紹介【2024年】
2024.11.17
-
【40代ママライターが試して実感】汗冷え・ムレ・におい…冬の汗悩みは、あったかインナー「ファイヤーアセドロン」で解消!
2024.11.08
-
【無印良品】話題の美容液、化粧水…マニアが選ぶ「使ってよかった!」スキンケアアイテム5選【2024年秋冬】
2024.11.01
-
車の香りどうしてる?話題の「TAMBURINS(タンバリンズ)」カーディフューザーを使ってみた!
2024.10.23
-
【ユニクロ×マリメッコ】2024秋冬を40代ライターが試着!ヒートテックやキッズなど注目アイテムが目白押し
2024.10.22
堀江純子 Junko Horie
ライター
東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。