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ドキュメンタリー映画『オードリー・ヘプバーン』、ヘレナ・コーン監督インタビュー「彼女は闘い続けた“強い”女性でした」

オードリーは「歯を矯正しろ、眉毛を抜けと言われても拒否し、自分らしさを貫きました」

オードリー・ヘプバーンと言えば、『ローマの休日』『ティファニーで朝食を』などの代表作に加えて、サブリナパンツを流行らせたファッション・アイコン、晩年のユニセフ親善大使などの印象が強いと思います。63歳という若さで亡くなったオードリーの人生を描く初のドキュメンタリー映画『オードリー・ヘプバーン』が5/6(金)に公開されます。

オードリー・ヘプバーン
©️PictureLux / The Hollywood Archive / Alamy Stock Photo

本作を通じて知るオードリーの姿は、これまでの華やかな女優イメージ一新するような姿でした。幼少期に経験したナチス占領下のオランダでの貧困、父親の裏切り、バレエダンサーの夢を諦めた思春期、2度の結婚と離婚。それらを乗り越え、強く自立していく姿は、今を生きる私たちと同じ一人の女性でした。

本作の公開を記念し、ヘレナ・コーン監督にインタビュー。なぜ今オードリーのドキュメンタリーを作ろうと思ったのか、監督が感じた彼女の魅力について話を聞きました。監督は1994年生まれ、オードリーが亡くなったのは1993年。リアルタイムを知らないオードリーにどうアプローチし、どのように描こうと思ったのでしょうか。

オードリー逝去後に生まれた28歳のコーン監督。これまで語られることのなかった側面を描きたい

オードリー・ヘプバーンが急逝して30年。ハリウッドの黄金期を代表するスター、永遠のファッションアイコンとして今もなお愛され続けています。今回の映画作りのきっかけになったのが、2019年にヨーロッパで開催された展覧会『Intimate  Audrey』でした。そこではオードリーを一人の人間として表現し、展覧会のカタログとして絵本『Little Audrey’s Daydream』が制作されました。その次のプロジェクトになるのが本ドキュメンタリー映画です。監督は、脚本家・ミュージシャンとしても活躍するヘレナ・コーンです。

ヘレナ・コーン監督
ヘレナ・コーン:脚本家、監督、ミュージシャン。短編劇映画『Keepsake(原題)』は、2018年、アンダーワイヤー映画祭で初公開され、脚本賞にノミネートされた。3本目の長編ドキュメンタリー作品『Lioness: The Nicola Adams Story』をサロン・ピクチャーズと製作し、2020年にイギリスで公開されている。彼女の長編初監督作品であるドキュメンタリー『Chasing Perfect(原題)』(2019年)は、サロン・ピクチャーズが製作、ライオンズゲートによって配給された。ミュージシャンでもあり、以前Dios Mioというバンドのフロントウーマンをしていた。今ではソロでのキャリアをスタートさせ、ファーストシングルである「BAPTISE(原題)」は、BBCのRadio1で初放送された

―まず、なぜ今オードリー・ヘプバーンの映画を作ろうと思ったのか。きっかけを教えてください。

コーン監督:これまでのオードリーは、美しい神話の人物のような一面的な描かれ方しかされてきませんでした。私はドキュメンタリーを作る時もフィクションを作る時も、何かしら新しい要素を入れたいと思っています。オードリーのように誰もがよく知っているようで実はあまり知らない人物にこそ、「もっと知りたい」と想像力が掻き立てられます。それは皆さんも同じでしょうから、そんな気持ちが今回の作品作りのきっかけになっています。

―監督は94年生まれで、リアルタイムでオードリーの作品や活動に触れてはいなかったそうですね。初めてオードリーを知ったのはいつだったのでしょうか。

コーン監督:母親がオードリーのファンで、幼少期から映画は観ていました。しかし女優だから興味を持ったわけではなく、彼女には小さい頃から「バレエダンサーになりたい」という夢がありました。また死ぬまでの10年は、人道的な活動に身を捧げてきました。女優としての活躍ではなく、まだ知られていない側面をもっと追求したいと思ったんです。映画の中でも描かれていますが、オードリーは『GIVENCHY』のミューズとして有名でした。自分自身でドレスのスケッチを描き、自分から「こんなデザインのドレスが作りたい」と提案していたそうです。今までのイメージにある“天使”的な存在ではなく、意志の強い女性という部分を深掘りして、皆さんに見せたいと思いました。

 

―オードリーの女優としての姿は、作品を通じて多くの人が知っていると思いますが、プライベートはほとんど知られていません。公の場でプライベートを話すことや見せることは、なかったのでしょうか。

コーン監督:映画に出て女優として活躍していた時期は、ほとんどプライベートを語りませんでした。晩年、人生を振り返ることができるようになった時に、やっと心を開いて過去を語るようになったようです。最後はユニセフの活動としてトークショーに登壇し、戦争や父親について語ったりすることもありました。

彼女がプライベートを語らなかった理由は、子供を守るためでした。ローマに暮らしていた頃、常にパパラッチに追われて苦しんでいたようです。しかし、晩年の人道的な活動を通じて、自身の経験を語ることが自分の義務だと感じるようになったようです。これは私の推測ですが、最後のパートナー、ロバート・ウォルダースが彼女の人生を変えたというのが大きいと思います。彼が彼女に心の平穏を与えたことで、安心して過去を振り返ることができたのだと思います。

繊細で美しい女優イメージとは異なり、闘い続けた強い女性。ありのままの自分を大切にし、シワの修正も拒否した

本作では過去のアーカイブ映像に加えて、オードリーの最初の夫との息子ショーン・ヘプバーン・ファーラー、その娘でありオードリーの孫にあたるエマ・キャスリーン・ファーラー、ユニセフの写真家ジョン・アイザック、監督のピーター・ボグダノヴィッチらをはじめ、友人やオードリーをよく知る庭師などがインタビューに協力し、コメントを寄せています。

―亡き人物、一度も会ったことのない人物をドキュメンタリーとして描くことについて、どんな苦労がありましたか。会ったことがない人だからこそ、より明確に分かったことはありますか。

コーン監督:オードリーのアーカイブ映像を使うにあたり、予算や法的な面から、お金がかかりすぎてしまうため、いくつもカットしなければいけないシーンがありました。それが一番苦労した点ですね。ただ、利点もあったと思います。もしオードリーが生きていたら、このドキュメンタリーの制作を了承するかどうか、またプライベートなことを語ってくれたかといえば、おそらく語ってくれなかったんじゃないかと。今回オードリーの息子や孫、友人たちにインタビューができたことで、よりパーソナルな映画になったと思います。

―プロデューサーや写真家、ジャーナリスト。それに加え家族や友人の声が加わり、彼女が口にしなかった内面に触れられたような気がします。

コーン監督:オードリーと、普通にカフェやレストランで会ったり、病院の待合室で一緒になることもあったかもしれない。ごく普通の女性であることが感じられたと思います。彼女がいかに繊細で、私たちと同じように不安を抱えて生きていたか。一方で、愛情に溢れた人物だったという、全く知らなかった側面を映画を通じて知ることができたのではないかと思います。

一番の印象の変化は、彼女が“強い”女性だったというところですね。歴史上の美しい女性といえば、弱い・繊細というイメージでしたが、常に彼女は闘い続けていました。五カ国語を話す知的な女性でもあったんです。映画を作る前と後で、彼女の印象がガラリと変わりました。

―当時「キャサリン・ヘプバーンと名前が似ているから名前を変えたほうがいい」とか「歯並びが悪いから矯正したほうがいい」「濃い眉を抜いたほうがいい」などと指示された際も「私を採用するなら名前も採用してほしい」「ありのままの自分を大事にしたい」と、きっぱりとした態度で譲らなかったというエピソードが印象的でした。

コーン監督:彼女は自分の個性、ありのままの自分を大切にしていました。世の中から不完全と思われたとしても、自分らしさを貫いた女性でした。ユニセフの写真家ジョン・アイザックが彼女の写真を撮っているんですけど、オードリーが気に入っている写真を出版社に提出すると、「皺(しわ)をエアブラシで修正するように」と指示が入ったそうです。彼女が60代の頃に撮った写真でした。その時オードリーが言った言葉は、「その皺(しわ)は私が人生を重ねてきた結果で、それが私自身なの。絶対にそんなことをしないで」と断ったそうです。彼女は、自分が欲しいもの、目指すものを明確にイメージできていたんですよね。

―広告や雑誌では、今もなお画像の修正が普通に行われています。それを断るというのは、とても強い意志を感じますね。

コーン監督:最近は、修正を拒む女性も増えていると思います。オードリーは、それを何年も前からやっていたということですね。

苦労やトラウマを抱えながらも愛に満ちた人生を送った。美しい女性こそ、より複雑な内面を持っている

ハリウッドでの成功を収めた後も、オードリーにつきまとっていたのは幼少期に経験した戦争化での貧困、父親による裏切り、夫との不和でした。生涯求めていたのは、家庭の大切さ、愛と思いやりです。慈愛に満ちた、本当の意味での豊かな人生です。

―女優という仕事で得た名声を使い、自分が経験した苦しみを人助けに役立てる。謙虚で慈愛に満ちたオードリーの人生から、私たちは多くのものを得られるのではないかと思います。

コーン監督:映画からそれを受け取ってくれたのは、とても嬉しいですね。この映画を通じて私が伝えたいのは、愛と思いやりを持って生きることです。オードリー自身もさまざまな苦労とトラウマを抱えて生きていました。それを愛で乗り越えてきました。映画を見てくださった方が、何か一つでも考えたり、感じてくれれば、私の目標は達成できたのかなと思います。あと美しい女性というのは、ただ見た目だけで評価されるのではなく、より複雑な内面を持っていることを知ってもらえたら嬉しいですね。

©️Pictorial Press Ltd / Alamy Stock Photo

 

―世界情勢はオードリーが生きていた頃と変わらず、厳しさを増しています。彼女が生きていたら、2019年には90歳を迎えるはずでした。もしオードリーが生きていたら、今のどんな行動を起こすと思いますか。

コーン監督:ウクライナ情勢もそうですが、みんなの先頭に立って取材を受け、各地を巡り、認識を高める活動を行なっていたと思います。食料不足やその苦しみ、さらに愛情に飢えること。それは彼女が幼い頃に経験し、よく知っていることですから、いかに思いやることが大切かを人々に伝えているのではないかと思います。私自身この映画を作り終えて何年か経っているのですが、今でも彼女のことを考えます。もしオードリーがいたら、どうしただろうと。きっと人々に安らぎを与えていたんじゃないかと思います。彼女が今ここにいないことが、とても残念です。

 

『オードリー・ヘプバーン』

監督:ヘレナ・コーン

出演:キャスト:オードリー・ヘプバーン、ショーン・ヘプバーン・ファーラー(オードリーの長男)、エマ・キャスリーン・ヘプバーン・ファーラー(オードリーの孫)、クレア・ワイト・ケラー(ジバンシィの元アーティスティックディレクター)、ピーター・ボクダノヴィッチ(アカデミー監督賞ノミネート)、リチャード・ドレイファス: アカデミー賞受賞俳優 (『アメリカン・グラフィティ』、『ジョーズ』)他

5月6日(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー

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