映画『花椒（ホアジャオ）の味』落涙必至！自分を見つめ直していく感動作

2021.11.11

『花椒（ホアジャオ）の味』

異母三姉妹が絆を感じながら、自分を見つめ直していく感動作

アジア映画がますます熱い！　控えめながらしっとりした感情表現やその味わいは、なんとも日本人の味覚にマッチする。本作も然り。3人の異母姉妹が協力し、亡き父の火鍋店を継ごうと奮闘する物語は、まるで郷愁を胸に吸い込んだように切なく深く心の琴線に触れる。

香港の旅行代理店で働くユーシューは、「父が倒れた」と連絡を受け、駆けつける。しかしすでに父は息を引き取った後。父の遺品を整理していた彼女は、2人の異母姉妹がいることを知る。かつて母と自分を置いて出ていった父にわだかまりを抱えるユーシューだったが、葬式にやってきた台北に住む次女ルージー、重慶に暮らす三女ルーグオとなぜかすぐに打ち解け、ともに父の思い出を語り合う。ほどなくユーシューは父の火鍋店を継ぐことを決意。ルージーとルーグオの助けを借りて、“父の秘伝の味”を再現しようと奮闘しはじめる――。

厨房のかまど、香料入れの引き出し、香りが漂ってきそうな大鍋での麻辣（マーラー）スープ作り。3人でわいわい言い合いながら、味を模索する姿がにぎやかで楽しい。葬式で女の闘い勃発かと思いきや、すぐに打ち解ける展開には驚くが、母親たちはいざ知らず、確かにいがみ合う必要なんて皆無。父の思い出を教え合い、悲しみや喪失感を共有する姿がなんとも優しく、旧来の価値観を越えた感性と可能性を感じもする。今、世界に必要なのは、この歩み寄りと共感と連帯！

実は3人それぞれ、家族に問題を抱えているというのもミソ。香港ではユーシューが父の深い愛に気づかされ、台北ではルージーが厳格な実母との確執を乗り越える。重慶ではルーグオが、愛ゆえにすれ違ってしまう育ての親・祖母とあらためて向かい合う。3人がそれぞれ、亡き父、母、祖母の“ずっと欲しかった愛の実感”に抱かれる瞬間は、胸がギュッと締めつけられて落涙必至！　なんとユーシューを演じるサミー・チェンと何度も恋人役を演じてきた、アンディ・ラウが元婚約者役など、目配せのきいた配役も魅力的！

・新宿武蔵野館ほかで公開中
・公式サイト

『皮膚を売った男』

自身が“アート作品”になることを選んだ男の運命は――

あるひと言で国家反逆罪に問われたサムは、シリアからレバノンへ逃亡。そこで著名な芸術家からオファーを受ける。自身が作品となる契約をした彼は、背中に“査証”のタトゥーを施され、美術館の展示台に座り続ける。背中の作品に目を奪われつつ、人間の一部が作品として視線を浴び続け、さらに売買されるグロテスクさに、なんともいえぬ心持ちに。

果たして彼の運命は。ラストまで目が離せない！

・11月12日よりBunkamuraル・シネマほかにて公開
・公式サイト