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【清塚信也さんインタビュー】クラシックの最大の魅力とは「心から美を追求した芸術」

2021.10.24

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ピアノの音で、眠れない夜の孤独感がやわらげば
────清塚信也さん

清塚信也さん

超絶テクニックと端正なルックスだけでなく、トークも思わず聞き入ってしまうおもしろさで、本業にとどまらない(?)活躍を見せるピアニストの清塚信也さん。新作『眠るためのピアノアルバム』をリリースしたが、ご本人は忙しすぎて寝る暇もなさそうだ。

「僕はたぶんショートスリーパーでお恥ずかしいくらい元気ではあるのですが、入眠が苦手なんです。眠りに就く前、いろいろ考えてしまいますね。だから、以前にも眠りを題材にしたアルバムを出しているのですが、僕にとって“眠り”は大切なテーマ。コロナ禍で、僕のように寝つけない人が増えているかもしれないと思って、再びテーマに選びました。

眠れないときに、ふと孤独を感じてしまうことってないですか? ピアノ音楽で人の気配を感じると、それがやわらぐのではと。このアルバムで、穏やかに眠ってもらえるとうれしいです」

新作にはシューマン、パッヘルベルにオリジナル曲までバラエティに富むラインナップが並ぶ。自身のYouTubeチャンネルへのコメントも参考に選曲し、最近凝っているアレンジを施して収録した。

「和音にも流行があって、クラシックの曲も和音を変えると“今っぽく”聴こえるんですよ。これをリハーモナイズといいますが、1800年代に生きたシューマンの曲を今のハーモニーにアレンジすると、すっと現代人の心に入ってきやすい。ぜひ、気分に応じた音楽で空間を飾ってほしいです」

清塚さんの作品に引かれた人に、次にすすめたいクラシック作品や曲を尋ねると意外な答えが。

「クラシックに限らず、インストゥルメンタルですね。日本では歌が入った音楽の人気が高いのですが、日本には高い技術を持ったインストのミュージシャンが大勢います。聴き慣れるとその素晴らしさに感動するはず。そのほか、ジャズだったらビル・エヴァンスやキース・ジャレットのピアノもいいし、サウンドトラックも坂本龍一さん、久石譲さんをはじめ、素敵な作品がたくさんあります」

クラシックの最大の魅力とは何か、という質問の答えも興味深い。

「心から美を追求した芸術、という点だと思います。お金と知識と時間のある貴族たちが、競い合って希少価値の高い美しい音を求め、生み出された曲の数々。音楽家たちはパトロンのために、文字どおり、命をかけて音楽を奏でた。そうした営みを重ねて、今に残っている曲が美しくないわけがない。絵画や建築物は年月を経ると状態が変化していくけれど、クラシック音楽は当時のまま再現できる芸術だというのも、大きな魅力ですね」

5歳からピアノの英才教育を受けた清塚さんに、子どもの習い事に親はどうかかわればよいか、アドバイスをお願いすると、じっと考え込んでから、こう答えてくれた。

「やるからには、それを職業にまでするかはさておき、ある程度コアな部分まで行けたほうがいいと思うんです。そのためには、つまらないことも必要。例えば語学なら、すらすらとしゃべれると楽しくて充実感を味わえますよね。でも、それには単語を覚えるという退屈な行程を踏まなくてはいけない。

怒る必要はないですが、子どもがつまらなく感じることも含めてやらせないともったいない、と僕は思います。楽しい瞬間は楽しくない瞬間とセットだと学ぶ機会にもなりますから」

ずしんと心に響く返答に、いつもキラキラしていて楽しい清塚さんの真摯な素顔が垣間見えた。

Profile

きよづか・しんや●1982年、東京生まれ。5歳よりピアノを始める。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を首席で卒業後、モスクワ音楽院に留学。2000年、第1回ショパン国際ピアノコンクール in ASIA第1位ほか、数々の賞を受賞。ドラマ『のだめカンタービレ』や映画『神童』での吹き替え演奏をはじめ、映画、ドラマ、バラエティ番組でも活躍。’19年にはクラシックピアニスト初の日本武道館公演を成功させた。

『眠るためのピアノアルバム ~beautiful sleep~』

『眠るためのピアノアルバム ~beautiful sleep~』

聴く人を安らかな眠りに誘うためのアレンジを施した、癒しの作品。シューマンやパッヘルベルの名曲と、『たゆたう燈』『つながる心』『Baby, God Bless You』など自身のオリジナル曲を収録。ジャケットのイラストはドラマの音楽を担当した『コウノドリ』の原作者・鈴ノ木ユウ。限定盤には昨年、オーチャードホールで行われた公演を収録したDVDが付属。(ユニバーサル ミュージック)


撮影/渡辺邦斗 取材・文/中沢明子

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