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折田千鶴子

初恋の鮮烈な眩さと痛みを放つ『Summer of 85』で鬼才フランソワ・オゾン監督に見出された2人の青年

  • 折田千鶴子

2021.08.17

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オーディションで発掘された輝ける原石

毎度次回作を、首を長~くして待ちわびる大好きな監督、フランソワ・オゾン監督。これまで何度かお会いした監督は、とってもオシャレでエレガント

日本でも大ヒットした『8人の女たち』をはじめ、『焼け石に水』『まぼろし』『スイミング・プール』『危険なプロット』『しあわせの雨傘』etc.…本当にゾクゾクッとさせてくれたり、たまらなく横っ腹をくすぐってくれる“コワ面白い”独特の世界観で、佳作を作り続ける鬼才です。どこか奇妙で、得体が知れない怖さがあり、挑発的でブラックユーモアたっぷりな作風は、近年は少し趣を変え、クラシック調や社会派などジャンルを超えた作品作りを通して円熟味を増しています。

そんなオゾン監督が、映画作りの原点とも言うべき17歳の頃に出会って深く影響を受けたという、エイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave」(邦題「おれの墓で踊れ」徳間書店)を映画化しました。それが、本作『Summer of 85』です。

16歳と18歳の少年の、ひと夏の出会いと、永遠の別れ――。

オゾン監督に見出された幸運な2人の若き新進俳優、フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザンに、リモートインタビューしました! 2人ともそれぞれ自宅からということもあり、とってもリラックスして、面白話が飛び出しました。

映画『Summer of 85』あらすじは?

1985年、夏のフランス、ノルマンディーの海辺の町。進路に悩む16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル:写真右)は、ヨットで一人沖に出ますが、ウトウトしている間に天候が急変し、転覆してしまいます。偶然通りかかった18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン:写真左)に救出されたアレックスは、すぐ近くに住むという彼の家に連れて行ってもらいました。2人は急速に惹かれ合い、アレックスは初めての恋に夢中になります。しかしそれから6週間後、バイク事故でダヴィドは命を落としてしまうのですが——。

原作小説に感銘を受けた10代の頃の監督自身の感情を投映しながら描いたという本作は、いわゆる“オゾン監督らしい毒っぽさ”は薄められ、初めての恋に溺れてしまう少年の狂おしい懊悩を焼き付けています。

純情かつ熱情一直線のアレックスと、そんな彼を次第に翻弄してゆく気まぐれなダヴィド。2人の若き俳優は、その役をどう捉えて演じたのでしょうか。

「巨匠だと知らなかった」「僕も(笑)!」

──2人ともオーディションで役を得たそうですが、元々フランソワ・オゾン監督のファンだったのですか?

フェリックス「実は……あんまり知らなかったんだ(笑)」

バンジャマン「(爆笑)僕も! ほぼ、全く知らなかった。僕もフェリックスも若く無名の俳優だから、監督を選り好みしてオーディションを受ける余裕なんてないんだよ。どんなオーディションでもスタンバイOKの状態で、片っ端から受けている状態だったんだよ。受かった後で巨匠だと聞いて、“うわ、そうなの!?”って驚いて。でも、今は天才監督だと思ってますよ(笑)!」

フェリックス「本当にその通り。僕は出演が決まってからオゾン監督の作品を観て、すごくクオリティの高い作品を撮っている人なんだな、と。それなのに僕らみたいな無名の俳優を主演に据えて作品を撮ろうとしたことに、すごく感動しちゃったよ!」

バンジャマン「僕は『危険なプロット』だけは観ていたよ。ただ、それがオゾン監督と結びついていなかっただけで(笑)。ただ、僕は毎度、監督について調べたりせず、前知識を入れずに現場に入ることにしているんだ。一緒に仕事をしながら、監督のスタイルや、こういう人なんだな、ということを発見することに快感を覚えるタイプだから。情報からではなく、自分でその人を知ることを大事にしているんだ」

フェリックス・ルフェーヴル

1999年、フランス生まれ。本作のオーディションで主役に大抜擢された期待の新星。ダヴィド役のバンジャマンと共に、第46回セザール賞では有望若手男優賞にノミネートされた。その他の出演作にTVドラマシリーズ「ル・シャレー 離された13人」(18/Netflix)、『スクールズ・アウト』(18)など。

──実際に、オーディションでは、どんなことをしましたか? どんな資質を見極められているな、と感じました?

フェリックス「それが、ストーリーも知らされないまま演技をさせられた感じで、自分でもよく分からなかったんだ。映画の冒頭、アレックスのモノローグから始まるでしょ? そのナレーションを最初に読まされたんだけど……。脚本を読んでいない状態で、あの不穏なモノローグを言わされたから、“これはシリアルキラーの話かもしれないぞ”とか思って(笑)。怖さを感じさせるように演じた方がいいのかな、なんて思いながらやったんだ。結果、予測は大外れだったわけだけど(笑)、受かったから結果オーライってことで。あのモノローグはとても複雑で、大変なチャレンジだったよ」

バンジャマン「僕もアレックス役でオーディションを受けたから、フェリックスと同じことをやらされた。その上で、“君にアレックスの役は難しい”、でも別の役があるから次の日にまた来て、と言われて。今度はダヴィド役として、本当に色んなことをやらされました。“先に死んだ方の墓の上で踊る”って、アレックスとダヴィドが契約を結ぶ重要なシーンをはじめ、オーディションで全ての大切なシーンを演じさせられた、って思うほど。撮影が始まる前に、すべて演じ切った気がしたくらいだった。それでダヴィドに決まったから、いいんだけどね(笑)」

バンジャマンは「監督から、君には難しいと言われた」と発言しましたが、映画を観る限り、きっとオゾン監督は一目で、“ダヴィド役は彼しかいない”と確信したのではないでしょうか。それくらい、次第に顔を覗かせるダヴィドの美しき悪魔っぽさ、みたいなものをバンジャマンが見事に漂わせるのです!

こんなことまでさせられるの!?って思った(笑)

──アレックスがダヴィドの家に連れて行かれる最初の頃のシーンが、驚きと戸惑いが詰まっていて大好きでした。ダヴィドの母親に浴室に案内されて、いきなり……。あの辺りは、オゾン監督っぽい“得体の知れなさ”が漂っていて、笑っちゃうくらい度肝を抜かれました。

フェリックス「実はあのくだりは原作にもあるのですが、オゾン監督がすごく気に入っていて、絶対に映像化したいと思ったところだったみたい。それで色々とプラスαされたと思うのだけど(笑)……。ひょっとしたら(ダヴィドの母親役の女優)ヴァレリア(・ブルーニ・テデスキ)が、あんなシーンを監督に提案したのかもしれないな(笑)。僕はもうひたすら、“役者って、こんなこともしなければいけないのか!?”と頭の中で叫びながら演じていたよ!

バンジャマン「いやぁ、あの時のフェリックスは、本当に幸せそうだったなぁ(笑)。人ってこんな幸せな表情をするのかってほど、満面の笑みで演じていたよね(笑)」

フェリックス「絶対に嘘!! 本当に気詰まりな撮影だったんだから!! でも本作は意外にも、割に原作に忠実に作られているんですよ」

──そのシーンの不穏なドキドキにはじまり、案の定、アレックスはダヴィドに夢中になってズブズブとハマっていきます。彼の初恋はセクシャリティの認識も含め、ダヴィドと出会うことで初めてハッキリしたのでしょうか?

フェリックス「原作では初恋という設定ではなく、アレックスには既に、もっと色んな経験があった。ただ映画化に当たっては、性的にも初めての経験ということにしたんだ。“初めて尽くし”の方が、気持ちも体験も鮮烈なものになるから。だからこそアレックスにとってダヴィドは、まさに全能の神のような理想化された存在になったんだ。

アレックス役で僕が大事にしたのは、彼のビフォア/アフター。彼が進化していく姿をどう見せるか、ということでした。段々と自信を持つようになってきたアレックスは、最初と最後では、見た目も立ち姿も、他人を見る視線も発言も、全く違う。そこを丁寧に演じたつもりです。その他の基本的な役作りとしては、タイプライターを打つ練習をしたり、それこそ80年代の音楽を聴いたり、映画を観たりしました」

──対してダヴィドは、最初は優しく爽やかな好青年でしたが、少しずつ気まぐれで気が多いなどの本性が出てきますね。

バンジャマン「後半でダヴィドはバイク事故を起こして命を落とすんだけど、今回の役は、そこからさかのぼっていく役作りをしました。観ている人がダヴィドの死を、誰も想像できないような、本当に小出しにしていく演技を積み重ねていった感じです」

バンジャマン・ヴォワザン

1996年、フランス・パリ生まれ。フランス国立高等演劇学校出身。俳優だけでなく脚本家としても活動する若手注目株。主な出演作に『ホテル・ファデットへようこそ』(17)、『さすらいの人 オスカー・ワイルド』(18)など。今後の主演待機作にグザヴィエ・ジャノリ監督の『Comédie humaine』(21)がある。

──ダヴィドの気性や性質には、エキセントリックな母親の影響が多大にあると思いましたか?

バンジャマン「ダヴィドには父親がいないだけに、常に母親がい過ぎるというか、母親の存在感があり過ぎるな、と思いました。ちょっとクレイジーでエキセントリック、且つ陽気な母親とダヴィドの関係がすごく重要で、その母・息子関係に信ぴょう性を持たせられるかが勝負だな、と感じました。でもヴァレリアが現場に現れた瞬間、完璧だ!と思ったんだ。この女優さんとなら少し奇妙な親子関係を演じきれるな、と自信が持てたんだ」



監督と3人で呼吸をしていた感覚

──オゾン監督の演出法について教えてください。今回の現場では、オゾン監督はどの位置で、どんな指示を出してくる感じだったのでしょう?

フェリックス「彼の演出の素晴らしいところは、構図づくりというか。常にカメラの脇で、モニターを見ているんだけれど、僕ら俳優とすごく近い距離感にいるんだ。隣で演技をしてみせたりすることはないけれど、常に一緒に現場に立っている感覚というか。僕らに自由に演じさせてくれた後、とても正確で短いダメ出しをしてくれる。だから修正もしやすいし、すごくやりやすかったよ! 監督自身がカメラを覗いている時もあった。アレックスとダヴィドの2人のシーンを撮っているときは、2人のシーンではなく、僕らと監督とトリオで呼吸をしているような、そんな感覚に陥りました

バンジャマン「そうそう、何をやっても受け入れてくれるし、すごい安心感をくれるんだ。常に寄り添ってくれるから、僕も役から逸脱することなく、居場所を見失うことなく演じ切れたのは、すごくクールな体験だったな。僕がどうしてそう演じるかを理解してくれるから、とても気分よく現場に居られたんだ!」

果たして、ダヴィドがアレックスに約束させた“後に残った方が、先に死んだ方の墓の上で踊る”とは――。初恋だからこその眩いほどの輝きと衝動、それが失われたときの永遠に消えることのない傷――。それは、私たちの記憶をいまだに疼かせるのです。

さらに本作の魅力は、フランスの美しい港町や海岸を映した、どこか懐かしさを覚える映像美にもあります。ちょっとザラついた肌触りがするのは、80年代の質感を出すために、全編フィルムでの撮影が行われたことに拠るものでしょう。

そんなノスタルジーをより引き立てるのが、懐かしの音楽。1975年にロッド・スチュワートがリリースした「Sailing」や、1985年にリリースされたTHE CUREの代表曲「In Between Days」などに乗って、是非、この世界観に浸ってください。

まずは下記より予告編を。それだけでも、ちょっと胸がギュッと掴まれますよ!

映画『Summer of 85』

© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

監督・脚本:フランソワ・オゾン

出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー

【配給】フラッグ、クロックワークス

【公式HP】http://summer85.jp/

8月20日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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