ニューヨークでバイリンガル育て、現在10歳の娘と親子二人三脚の様子をお伝えします。
継承語としての日本語、ボキャブラリー不足の英語
幼稚園までは楽しく日本語と英語を両立させていましたが、小学校にあがるとそれまでとは違った「問題」にも直面しました。
小学校では、週に1度90分で国語の教科書を使って授業をする日本語クラスへ。大体2年かけて日本の1年を終えます。日本にいる小学生と同じペースで勉強を進める「補習校」に比べゆっくりなので、現在4年生ですが国語の教科書は「ニの下」が終わったところです。
海外子育てで最もハードルが高いのは、漢字の習得です。普段見慣れないこともあり、書き順を習っても、びっくりするような書き順で書いたり、音読み・訓読みの両方を覚えることも大変です。
漢字もどんどん難しくなるのに、現地校の勉強も難しくなっていきます。すると、家庭で英語を話す同年代の子に比べて「英語のボキャブラリー不足」になってきました。
学年が上がるとエッセイのような文章を書くことが増えていき、接続詞や言い回しで「英語ボキャ貧」を痛感するのです。毎年、現地校の担任の先生との面談では「ボキャブラリー不足はどうしたらいいですか?」と聞くぐらいです。
コロナ真っ只中だった3年生の担任の先生には、「声を出して本を読む」を勧められました。それ以来、家で本を読むときは、声に出すこともあります。
英語も勝手に覚えるのではなく、レベルアップしていくには努力が必要だと感じています。
在米日本人を悩ます「3年生の壁」
ここで在米日本人を悩ますのが「3年生の壁」といわれるものです。
アメリカの場合、多くの小学校は5年間なので3年生になると一気に勉強が難しくなってきます。ニューヨーク州では3年生からステートテスト(州統一学力テスト)が始まり、4年生時のステートテストの成績が、中学進学への指針となります。
(コロナ禍により、2020年はステートテストが中止に、2021年は実施されたものの、テストの成績は中学進学に影響はしない、という措置になりました)
3年生になると、音楽やスポーツなどの習い事も忙しくなる時期でもあり、日本語学校と現地校の両立が難しくなってくると言う意味で「3年生の壁」と言われています。娘の日本語クラスも3年生に進級する時、ガクンと人数が減りました。
日本に本帰国の予定がある場合は日本語を維持するのは大事ですが、本帰国の予定がない場合は、進学に備えて英語1本に絞るという選択肢も出てきます。
「Manga」は世界共通語
娘の場合、日本語を継続するのは「日本が好き。日本の漫画が大好き」というのが最大のモチベーションです。NY郊外の本屋さんでも「Manga」コーナーが充実するほど、今や日本の漫画・アニメは世界共通の人気文化です。
娘も「ハイキュー!!」(Haikyu)「僕のヒーローアカデミア」(My Hero Academia)「けいおん!」(K-On)「鬼滅の刃」(Demon Slayer)など日本のアニメが大好き。英語の吹き替えもありますが、「日本のアニメは日本語がいい」らしく日本語で聞いています。
漫画も読みますが、漢字の勉強に役立っているのは鬼滅。「鱗滝の鱗って、魚のウロコと一緒?」「禰豆子ってなんでマメの子なの?」など漢字の新たな見方をし、「大豆」も禰豆子のおかげで覚えました。
娘はゲームも好きで漫画を日英両方で読みますが、日本語を知っていると、例えばスプラトゥーンシリーズで「イカす4人組」と言う言葉が出てきたら、「イカす=格好いい、cool」とスプラトゥーンの元になっている海の生き物、イカとかけていることがわかるので、そこが面白いそうです。
コロナ禍で低下した日本語へのモチベーション
Mangaに助けられる一方、コロナ禍で日本語へのモチベーションが低下もしました。
昨年春からのパンデミックで、通い続けている日本語クラスもオンラインに。すると教室で完結していた授業が、「漢字テストはご家庭でお願いします」と私がサポートすることに。今までのように音読やプリントの宿題を見るだけでなく、漢字テストをやり丸つけをすると、どうしても書き順などできていないところに目がいきます。
私は日本で生まれ育ち、小学生の漢字ぐらいは自然と覚えたので、なんで書けないのか、なんですぐ忘れるのか、NY生まれの娘に共感できず、イライラしてしまうことも増えました。
さらに、「鬼滅の刃」など日本の漫画の多くは英訳されています。「英語の方がよく理解できるから」と英語バージョンを読むと、
「なんで日本語をやらなきゃいけないの?」と言うことが多々ありました。
私もイライラしていると、そのまま親子バトルに。。。確かに、紫式部だって英訳されているわけですから、日本語でしか読めないものってもう教科書ぐらいしかないですよね。コロナで大好きな日本に帰ることもできず、娘の中でどんどん「日本語を学ぶ意味」がわからなくなっていったようです。
今思えば、現地校のオンライン授業のストレスもあったのですが、今年に入り、「やだー」「やりたくなーい」と日本語の宿題中に鉛筆やポストイットを泣きながら投げたり、駄々をこねるように絨毯を蹴り上げたり、辞書をテーブルから落としたり・・・。私も娘も辛い時がありました。
でもやっぱり「日本が好き」
どんなに荒れても、娘の場合は、不思議なことに翌日には自分から日本語の宿題をしていました。現地校もそうですが、やらないことも嫌なんですよね。親としては、ストレスを感じるなら休んでもいいと思うのですが、授業を休んだり宿題をやらないのも嫌。真面目な子の場合、どうストレスを発散させるかに苦労しました。
泣いても日本語をやるのは、やっぱり「日本が好き」な気持ちのようです。日本のアニメや漫画、ゲームも好き。一時帰国での幼稚園・小学校への短期入学でも楽しい思い出しかない。次日本に帰ったら、ファミレスに行きたい、コンビニに行きたい、祖父母と話したい。やっぱり本人の気持ち次第だなーと改めて思っています。
山あり谷ありのバイリンガルへの道。10人の子供がいれば10通りのやり方があるように、何が正解かはわかりません。その都度親子で「これでいいんだ」と思って取り組んでいけば、それが正しいんだと思います。ただそう信じたい自分がいるのかもしれません。
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田辺幸恵 Sachie Tanabe
ライター/ライフコーチ
1979年、北海道生まれ。スポーツ紙記者を経て2006年にアメリカへ。2011年にニューヨークで長女を出産。イヤイヤ期と仕事の両立に悩みコーチングを学び、NPO法人マザーズコーチジャパン認定講師に。趣味は地ビール探しとスポーツ観戦。夫と娘(8歳)の3人家族。