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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

藤原季節さん「曖昧なままでいいんじゃないか」。映画『くれなずめ』インタビュー

  • 折田千鶴子

2021.05.11

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注目俳優が勢揃いの『くれなずめ』

まさに破竹の勢い、飛ぶ鳥を落とす勢い。なんて言うと、ご本人が嫌がりそうですが、今、益々注目が集まる俳優・藤原季節さんにご登場いただきました。

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●藤原季節
1993年1月18日、北海道生まれ。主な映画出演作に『ライチ☆光クラブ』(15)、『ケンとカズ』(16)、『全員死刑』(17)、『止められるか、俺たちを』(18)など。『his』(20)、『佐々木、イン、マイマイン』(20)にて第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。現在、『明日の食卓』が5月28日に、主演映画『のさりの島』が5月29日に公開予定。

私が藤原さんを初めて認識したのは『ケンとカズ』という、乱暴に分類すると“チンピラ映画”でした。かなり男くさくて衝撃的な作品ですが、これがどうしてヒリッとかなり突き刺さる系の忘れ難い作品で……。その後、どんどん存在感を増していった藤原さんに、思わず“ヤラれた~”とノックアウトされたのは、宮沢氷魚さんの恋人役を演じた、映画『his』。その繊細な演技に、全身に鳥肌が立って震えました(公開時の氷魚さん×今泉力哉監督の対談はこちらhttps://lee.hpplus.jp/column/1562789/)。

その後も、『佐々木、イン、マイマイン』という、これまた代表作に成り得るのでは?という作品に主演し、そして本作『くれなずめ』に出演している藤原さんは、もはや“注目作に必ずコノ人あり”な存在に。しかもこの『くれなずめ』には、同じ匂いを放つ若手役者たちがズラリ! “映画に愛されている、映画バカな俳優たち”が勢ぞろいしている、なんとも美味しくて嬉しくなるような作品です。

『くれなずめ』ってこんな映画

『くれなずめ』
©2020「くれなずめ」製作委員会
5/12(水) テアトル新宿ほかにて公開

監督は、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)などの松居大悟監督です。高校時代はヘタレ系だった帰宅部仲間6人が、友人の結婚式のため、5年ぶりに集まることに。優柔不断な吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)とその劇団で役者をする明石(若葉竜也)、いつの間にか既婚者になっていたソース(浜野謙太)、東京の会社に勤めるサラリーマンの大成(藤原季節)、そして地元の工場で働くネジ(目次立樹)。結婚式の余興で何をするか、決まったような決まってないようなまま当日を迎え、案の定、6人の出し物は盛大にスベッてしまいます。意気消沈しながら、二次会が始まるまでの3時間、行く当てもなく、ほっつき歩く6人でしたが……。

こんな楽しい現場は初めてだった

──ダラダラというかワチャワチャというか、6人の男たちの姿が観ていてすごく楽しかったです。作中の関係性と同様に、現場も相当、楽しかったそうですね。

「いつもあの“わちゃわちゃ感”のままで、それが楽しかったです。待ち時間と本番の境目がないような、そんな感じの現場でした。なんとなくいつも“いいムードを作ろう”みたいな緊張感で、気を遣って話をしたりしますが、今回は全くなくて。俳優それぞれみんな自分のムードを持っている方ばかりで、それが上手いこと一つに調和していました。しかもみなさん、僕の好きな俳優さんばかりで」

──こんな個性的な人たちが現場で一つに調和していたとは、ちょっとだけ意外です(笑)。

「同時に、カオスはカオスでした(笑)。カオスだったのは間違いないですが、それが不思議と上手いこと合わさった感じだったんです」

──本番との境界線がないと、役に入る瞬間や、役と自分の調整みたいなものが、逆に難しくなったりはしませんでしたか?

「確かに自分自身と演じた役は全然違いますが、大事なポイントさえ守っていれば脱線することはないので、そこは大丈夫でした。例えば台本を読んだ時に、大成はいつもスマホを片手に持っているとか、リュックをこうやって背負っているとか、そういう設定を僕自身で勝手に作っていくんです。サラリーマンにプラスして“営業”という職種を設定し、営業職の僕の友人をモデルにして、携帯でゲームをやっている感じ、SNSをやっている感じ、6人で集まってみんなでワーッとはしゃいでいる時も、大成はみんなのことを動画で録っているというような」

リュックを背負ったサラリーマンの大成。結婚式場で、本番の余興について入念に打ち合わせをしているかのように見えつつ、全然まとまらないのが笑えます。

──大成の人物像として、昔の仲間たちに“忙しいアピール”をしている風なのが、ちょっと微笑ましかったです。大人になって変化した立場や境遇の差を思い知らされるのは、ちょっと身に覚えのある痛さでもあります。

「他の5人の中には劇団員など、まだ夢を追いかけている人たちがいる。そんな中、大成は夢やロマンより前に、生活をしなければならないという現実があったので、“当然のことを俺はしているんだ!”というアピールが入っちゃうんですよね。夢を追っている人を、羨ましい気持ちがあるからこそ」

──藤原さんが自分で生み出した人物設定と、監督の演出の絡み合いは、どんな具合でしたか?

「例えば僕の解釈では、大成はここまで(しかやらない)だろう、と思っていたことも、監督が“もっとやっていい、もっと行っちゃっていい”と、可能性を広げて下さる感じでした。それによって、自分の知らなかった大成が出来上がっていきました」



白黒を強要しない優しい物語

──“チーム男子”の下らないお喋りやじゃれ合いに笑っていると、後半で物語がクルリとひっくり返ります。まさか、こんな切ない物語だったのか……と。

「僕も台本を読んだとき、途中で“こんな展開になるとは!!”と驚きました。でも同時に、優しい物語だなぁ、と思いました。監督の“曖昧でいいだろう”という気持ちというか、それに救われる部分があったというか。今って、何でも白黒つけて前に進んでいかなければならない、というような、まるで追われるような生活をしているけれど、なにも無理して明確に白黒つけないでいいんじゃないか、と。別に曖昧なままヘラヘラしていてもいいんじゃないか、って。そんな監督のメッセージを感じました」

──だから思わず、“(そんなこと)ハッキリさせるなよ!!”と、堂々と大声で言うセリフに、思わず吹き出してしまいました。

「ですよね(笑)。なんか時代のムードに対して、抵抗している感じがありますよね。そもそも『くれなずめ』ってタイトル自体、抵抗していますから。“夕陽が落ちないままにしていろ”と、夜になる自然に反抗してる(笑)。でも、そういう優しい時間があってもいいじゃないか。悲しいことや認めたくないことがあったら、別に白黒つけずに立ち止まっている時間があってもいいんじゃないか、って。“切り替えて前に進もう”とか色んな言葉が横行していますが、別に切り替えなくても、乗り越えなくてもいいよって、この映画からそんな勇気をもらえました」

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──前半にも後半にも登場する、下北沢の小劇場から出てくる一連のシーンは、すごく肝となるシーンだと思いますし、とても切なかったですね。

「演者としては、切ないというよりも必死でした。というのも、僕は結末を変えられる、結末を変えてやると思って臨んでいたんです。そこを信じて、変えるぞと思って演じないと、物語に負けてしまうので……。だから負けまいと必死でした」

──台本で先の展開を当然知っていても、そこは信じ抜いて演じる必要があるんですね。

「例えばもし自分が死ぬ物語であった場合でも、絶対に死ぬ展開にはさせないぞ、生きてやるという思いで演じないと、逆算になってしまうので」

──6人全員が揃い、かつ2度も登場する肝のシーンだけに、相当こだわって撮りましたか?

「一連のワンカットで撮っていますが、あまり時間をかけず、一発、二発で終えました。肝こそ高速で、一瞬を逃さない撮り方でした。そこも松居監督、カッコ良かったです。もちろん粘るところはめちゃくちゃ粘るんですよ。個々人のシーンは時間をかけてじっくり撮る、という印象を僕は持ちました」

終盤、物語はぶっ飛んだ方向に!!

──前半で笑って、後半に入って切なくなり、終盤になるといきなりブッ飛んだ展開が待ち受けます。あれには、“おったまげた”という感じでした(笑)。

「どんどんぶっ飛んでいきますが、あれこそ映画にしか出来ない表現ですよね。監督に“どういうことですか?”なんて聞く人はいなかったです。みんなよく分からないまま、それぞれの解釈の中で演じていましたね。一番の先輩である高良さんが先頭を切ってふざけてくれたので、僕たちも、思い切って好きなことができました」

──リーダーが高良さんだとすると、ムードメーカーは誰でしたか?

「完全に若葉さん。ムードメーカーの帝王で、気づいたら全員、笑っている感じになるのですが、その会話の発端が、いつも若葉さんなんです。人をいじったりするのも、すごく愛情があって上手い。サッといじったら、あとは周りがワ~ッとなるので、その時点で若葉さんは黙ってみているみたいな、いじりの舞台監督というか、裏番長というか(笑)。表のリーダーが高良さんで、裏番が若葉さん、それをちょうどよくまとめていたのが成田さんでした。成田さんが一番、大人な感じでした」

──本作は松居監督ご自身の経験をベースにされた物語ということですが、現場で監督との距離感は、どんな感じでしたか?

「結構、放っておく感じの演出でした。実際には熱い監督ですが、距離感が非常に適切というか。カッコいいタイプです。“ちゃんとやっていけよ”と演者に預けるし、自分のエピソードを無理に強要しないので、実はこの物語が監督の友人の話だってことも、僕は撮影が終わるまで知らないくらいでした。『くれなずめ』を地で行くような人なので、“お前にはお前のやり方があるから、ちゃんとやれよ。大事なところでは言うから”というスタンスで、現場でもすべてにおいて白黒つけない。本当に楽しい現場でした」

──ハチャメチャなところも含めて、不思議な魅力に満ちた映画です。LEEの読者にどんな風に楽しんで欲しいですか。

「普通に生きているだけで悩みいっぱいの僕でさえ(笑)、そんなこと忘れて楽しいと思わせてくれた映画だったので、“楽しみに観に来て”と堂々と言いたいです。解釈は自由ですし、そこにルールなんてないのが本作の魅力。いつも線引きをハッキリさせて生きようとされている方にも、その線を“もやもやっ”とさせて、温かい気持ちを持って帰路についてもらえると嬉しいです」

──最後に、本作同様、“青春時代に喉に刺さったままの骨”みたいなものは、藤原さんにもあったりしますか?

「いまだ骨は刺さり続け、僕のハートはやられてますよ(笑)。でも以前は、それを一本一本抜いてキレイなハートで生きていかなければ、という強迫観念にとらわれ、変わりたいと葛藤がありましたが、今はないです。本作を経て、わざわざ棘を抜く必要がそもそもあるのか、っていう気持ちになったし、むしろ一つ一つ刺さっていくことが面白味や味になるんじゃないかな、と思っています。でも同時に、変わりたいという抵抗が、表現という活動でもありますし、何やら矛盾した感情を抱えたまま生きていくことを、今、やり始めている気がします。矛盾してますよね(笑)。だから高良さんの“生きるだけだろ”という台詞に、深く納得したりしました」

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映画『くれなずめ』は、これから人生の岐路に分け入っていく若い世代にも、既に大人になっていて高校生時代を思い返す観客にも、身に覚えのある痛みと愛情がこぼれるような切なさを覚えさせてくれる映画です。

藤原季節さんをはじめ、今をときめく味ある若手俳優たちの躍動を、そして本作が放ってくれる優しさと表現の自由を浴びて、ぜひ明日の活力にしてください。

映画『くれなずめ』

  • 監督・脚本:松居大悟
  • 出演:成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
  • 主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
  • 配給・宣伝:東京テアトル
  • 公式サイト:kurenazume.com
  • 公式Twitter:@kurenazume
  • 公式インスタグラム:@kurenazume

撮影/平郡 政宏 ヘアメイク/TOMOYA NAKAMURA(Maison de Noche) スタイリスト/HIRONORI YAGI

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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