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桜木紫乃さんインタビュー「好きになった夫と、夫婦でもっとドキドキしましょうよ!」

2020.11.12

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直木賞授賞式で、大ファンのゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんが愛用するタミヤのロゴTを着用し、「文壇の壇蜜でーす」と挨拶(審査員の“壇蜜のような文章”という評を受け)するなど、ユニークなキャラクターも注目を浴びた作家・桜木紫乃さん。しかし現れた桜木さんは楚々とした佇まいの、控えめで物静かな方だった!

桜木紫乃さん
「好きになった夫と、夫婦でもっとドキドキしましょうよ!」

累計100万部を超える直木賞受賞作の映画化『ホテルローヤル』を観て、「裸にされているような心持ち」と語るが、なるほど、『百円の恋』『全裸監督』で知られる武正晴監督は、桜木さんの全著作を読んでから着手したという徹底ぶりだ。

「例えばローヤルの事務所にある釣りのルアーやトロフィーも、エッセイまで読んでいなければわからないこと。そういうものが随所にあって愕然としました(笑)。この小説は自伝的といわれていますが、私がローヤルの娘という以外は虚構で書いたもの。けれど私自身の“こうだったかもしれない姿”を見せられ、武監督には書き手を脱がせる意図もあったのか、さすが『全裸監督』と思いました(笑)」

波瑠さん扮するローヤルの娘・雅代は、“私を巻き込まないで”と言いつつ、家業を継ぐことに。

「私は“こんな商売は嫌だ”と一度も言いませんでしたが、雅代はそれを言ったがために父との距離が縮まり、継ぐ羽目になったのかな、と思いました。私は黙々と手伝い、ある日突然“好きな人ができたから結婚します”と離れましたから」

雅代を軸に、ホテル関係者や訪れる客の“ひと時”が映し出される。中でも、僧侶に法事をすっぽかされ浮いた5千円で2時間の非日常体験にきた中年夫婦のエピソード――夫は仕事、妻は子どもや親の世話に疲れきっていた2人が新婚当時の幸せな気持ちを取り戻す姿には、思わずウルウルしてしまう!

「あのエピソード、すごくよかったですよね。皆さんももっとホテルに行ったらいいのに。好きで一緒になった人と手をつないだり、お風呂に入ったりして、自分だけじゃなく相手も年をとったとわかるのも“なんかそれも悪くない”と思えるというか。互いを受け入れる時間として、たとえ2時間もたなくてもいいじゃないか、 と(笑)」

優しい声音で大胆なことを語るギャップこそ、ユニークな魅力!

「直木賞受賞の大騒ぎが終わった年の暮れ。コンサート帰りにすすきののホテルを通りがかって、夫に“ちょっと寄っていかない?”と言ったら“いいよ”とノッてくれて。ドッキドキだぜ、と初の今どきホテルは入り方すらわからず、どうにか部屋にたどり着いたものの、ホッとしてお風呂に入って帰ってきちゃった。でも、あのドキドキはなかなか得られるものじゃない。好きになった人の、好きだったところを思い出そうよ、と。夫婦でもっとドキドキしましょうよ!」

新作『家族じまい』も好評発売中だ。LEE世代にとっても人ごとではない“親の介護や終活”のあれこれが、グイと入り込ませる筆力により、リアルに身にしみる。

「家族というくくりでいろんな年代、いろんな立場の人を、背中を切り開いて背骨も内臓も全部見せる気持ちで書きました。今年は映画『ホテルローヤル』があり、この『家族じまい』でいい花火も上がったので、ノリにのっています(笑)。ぜひ、私の家を覗き見る気持ちで読んでいただけたらうれしいです」

PROFILE

さくらぎ・しの●1965年、北海道生まれ。2020年『雪虫』でオール讀物新人賞受賞、’07年『氷平線』で単行本デビュー。’13年『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞受賞。映像化作品に映画『起終点駅 ターミナル』(’15年)ほか。6月に5編の連作短編集『家族じまい』(集英社)を発売。認知症の母、横暴な父、両親の老いに戸惑う姉妹の、別れの手前にあるかすかな希望を見つめる。

映画『ホテルローヤル』

ⓒ桜木紫乃/集英社 ⓒ2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

釧路湿原を望むラブホテル"ホテルローヤル"に、今日も孤独や秘密を抱えた人々が非日常を求めてやってくる。美大受験に失敗したローヤルの娘・雅代(波瑠)は、渋々家業を手伝うことになるが――。雅代の目を通して、両親や従業員、いろんな事情を抱えた客たちの、悲喜こもごもな人生が描かれる。共演に松山ケンイチほか。11月13日より全国ロードショー。



桜木紫乃さん注目の2冊 


撮影/フルフォード 海 取材・文/折田千鶴子

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