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【書評】自身のメールマガジンで長時間をかけて完成させた、村上龍の新作小説。主人公の内面の世界に引きずり込まれる快感を!

2020.05.25

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読むと心が揺さぶられる“異世界”が詰まった
村上龍の最新小説

『MISSING』村上 龍 ¥1500/新潮社

大学生のときに書いた小説『限りなく透明に近いブルー』で、群像新人文学賞と芥川賞を受賞して以来、44年近くも一線の小説家として活躍している著者。日頃あまり本を読まない、という人でも名前を聞いたことはあるのでは。

躍動感あふれる青春物語、時代を先取りしたシリアスな作品と、多作で知られる著者が、自身のメールマガジンで長い時間をかけて完成させたのが今回の新作。村上龍作品に触れたことがない人は、この作品から入ってみてもおもしろいかもしれない!

主人公は、どこか著者自身を思わせるベテランの小説家。何年か前から現実と妄想の境目がわからなくなり、そんな自分自身に対して密かに不安を抱えている。そして彼の前に登場する、謎の女・真理子。彼女の存在をきっかけに、主人公は心の中で自らの過去について思い巡らすようになる。しかしそれは果たして現実にあったことなのか、それとも小説家の自分が作り上げた妄想か――。

目の前のことに忙殺されがちな私たちは、「自分の心が奥深いところで何を考えているか」なんて、ほとんど意識することはない。けれどもこの小説の主人公は、真理子や、どこかから聴こえてくる母親の声に耳を澄まし、自身の奥底に潜んでいた不安や恐れといったディープな感情を徹底的に掘り下げていく。

物語の中盤から、あらすじらしいものはほとんど失われ、「このお話、一体どうなっちゃうの!?」という展開が延々と続いていく。読んでいて楽しめる、いわゆるエンタメ小説とはまったく異なる作品だけれども、主人公の内面の世界にずるずると引きずり込まれ、そして妙な興奮を味わえてしまうのはさすが!

60代後半になってここまで不思議な世界を作り出せる著者に、驚きを感じるかも。そしてラストをハッピーエンドと取るかバッドエンドと感じるかは読み手次第。それでいて読んだ後になぜか爽快感が残るのが、村上龍小説の醍醐味。“普通の小説じゃ物足りない”“文学の世界に触れて心を揺さぶられたい”という人には、ぜひおすすめ!

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『女神のサラダ』

瀧羽麻子 ¥1700/光文社
女神のサラダ
レタス、ジャガイモ、アスパラガス、トマトなど、サラダに入っている具をモチーフに、農業や食べ物に携わる女性たちの姿を描いた短編集。

各章で登場する主人公は、働くこと、人とのかかわり、夫婦の関係などに葛藤しながら、それぞれの着地点を見つけていく。その過程を追いながら、読んでいる自分自身も、現実の生活を頑張ろうと前向きな気持ちに。

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『ぱらぱらきせかえべんとう』

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料理家・野口真紀さんが考案する「のっけべん」スタイルのお弁当で日々の献立悩みを解消!

「野菜系」「肉・魚系」「卵・煮物系」に分割された3種類のカードがリング綴じに。カードをぱらぱら組み合わせ、バランスの取れたおかずがアレンジ可能。手間のかからないレシピが各15種類あるので、日替わりでおいしく、栄養たっぷりなお弁当作りの参考に!


取材・原文/石井絵里


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