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“子育ての呪い”から自由になる!

犬山紙子さんと堀越英美さんによる対談【なぜ母親は罪悪感を感じてしまうのか?】

2020.05.05

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つい縛られてしまうのはなぜ? “子育ての呪いから”自由になる!

犬山紙子さん×堀越英美さん なぜ母親は罪悪感を感じてしまうのか?

鋭い切り口で知られる犬山さん、堀越さん。ともに女児の母でもあるお二人が、日本にはびこる子育ての呪いや母親の罪悪感の正体、その解き方まで語り尽くします!

犬山紙子さん

コラムニスト、エッセイスト。女性の本音に鋭く切り込むエッセイ、コメントが支持を集める。日本テレビ系『スッキリ』に出演中。『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ社)など著書多数。2歳女児の母。

『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』¥840(扶桑社)

“夫婦”という関係性を巡る危機や問題の対処法、折り合いをつけるための“100のヒント”を独自の視点と切り口で取材した最新刊。

堀越英美さん

ライター。ジェンダーや日本教育の弊害など、さまざまなテーマを深い論点で解説。『不道徳お母さん講座』、『女の子は本当にピンクが好きなのか』(ともに河出書房新社)など著書多数。12歳、8歳の2女の母。

(右)『不道徳お母さん講座』¥1550(河出書房新社)。(左)『スゴ母列伝 いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける』¥1500(大和書房)

右は母性や感動を強いる、日本の道徳教育の問題点をあぶり出す一冊。左は堀越さんの最新刊。

実は子育てだけじゃない女性にかけられる多くの呪い

堀越英美さんの著書『不道徳お母さん講座』では、母性幻想と自己犠牲に感動を強いる日本の「道徳教育」について、歴史をひもときながら解説されています。子育ての呪いのベースには、こんな社会の考え方、押しつけがあるとも。

犬山 子育てママが縛られている呪いを見ると、母親も子どもも人間扱いされていないなと感じます。だからつらくなってしまう。“いつもにこにこ”ってそれ人間にできますか?と。普通ではできないことを、なぜか母親ならできるだろうと押しつけられる。それにこたえられなくてもまったく問題ないと知っておくと、できなくても落ち込まないし、傷つかないで済むのかなと思います。

堀越 自分はもちろん、世間がいいと決めたからと子どもに押しつけるのは、子どももかわいそうですよね。

犬山 読み聞かせが1日10冊ノルマっていうのも、子どもが楽しめるかどうかですよね。子どもが本ごと嫌いにならないか心配です。

やっぱり、育児って不安なんですよね。だからこそ、世間の母親と子どもはこうあるべきという型に、ぎゅうぎゅう当てはめなきゃと思ってしまう。

堀越 本当に大事なのは自分と子どもですからね。その関係を壊してまでハマらなきゃいけない型なんて本当はないはず。

犬山 私は子どもを産んでから、あらゆるところで“やさしく愛にあふれた母性”のイメージを押しつけられて母性アレルギーぎみに。「母性で表情がやわらかくなったね」と言われても、産後に太っただけだから!と猛反発(笑)。堀越さんの『不道徳お母さん講座』を読んで、この母性って時代や社会の一方的な価値観で都合よく生まれたものなんだと知り、スーッと心が落ち着きました。

堀越 母性って本能的に刷り込まれているもののように思われがちですが、実は社会の都合に合わせて強調されてきた側面があります。生まれながらに持っている本能や普遍的な正義ではなくて、社会で作られたものだとわかれば、自分は距離をおけますよね。「それが何か?」と思えることも、振り回されないためには大事だなと。

犬山 そもそも、こういった本を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

堀越 子どもを産んだ頃から、母親はいろいろと強要されるなと思い始めたんです。「乳腺炎になったらおっぱいにキャベツの葉をかぶせろ」とか、無痛分娩をしたいと言ったら「痛みを乗り越えてお母さんになるんだから」とか言われて。“お母さんは自然であらねばならぬ”という考え方に納得がいかなかった。出産前までは、ヒールを履け、ネイルをせよと着飾ることがよしとされていたのに。お母さんになった途端に、女子力がすべてNGになる、この違いは何だろうと不思議に感じて、掘り下げて考えてみようと思いました。お母さんになると、IT機器に触れることも気を使いませんか。仕事ではパソコンが使えないと話にならないのに、お母さんがスマホ見るのはダメなの?と、考えれば考えるほど疑問だらけです。

犬山 どれも納得です! 女性って年齢やステージでこうあるべきが定まっていますよね。学生のうちは「男女交際禁止」、大人になると急に女になって「結婚、出産をしよう」。産んだら「あれ、いつまで女でいるの?」。極めつけは「中年になってもそんなに短いスカートをはいて」と……。子育ての呪いなんてその最たるものだと思うから、従うことはないなと思えますね。

堀越 自然のものではない、作られたものだからこそ、年齢やステージで変わるんです。女性がそうであったほうが社会にとって都合がいいだけ。本にも書きましたが、今言われている意味での“母性”の歴史は意外に浅くて、大正時代から。それまで子どもも母親も家の仕事で忙しかったのが、国家に役立つ人材を育成するために、教育に力を注ぐことが母親に求められるようになったんです。

犬山 ここからどんどん“母親はこうあるべき”が地層のように積み重なっているんですよね。なぜか母親像に関しては「時代が変わったからこれはいらないよね」があまりない。母親の肩にずっしり重くのしかかるので、抜いていかないと、すべてを背負うなんて無理だということですね。

歴史的にひもとけば、「母性」は都合よく利用されてきたんです

知識で社会から自己防衛! 不道徳の共有もおすすめ

堀越 子育ての呪いに縛られるお母さんの中には、人目を気にして子どもを叱るお母さんも多いですよね。

犬山 これは一種の自虐のようなもの。「わかってますよ、きちんと叱っているんですよ」と言われる前にやっておく。周りにアピールすることで、自分を守っているんだと思います。でも、自己防衛のためのやり方が内面化してしまうと自分を苦しめる。ほかにも自分を守る方法を知っているといいですよね。それこそ堀越さんの本を読んだり、こういった記事から知識を身につけると、心はかなり楽になるはず!

堀越 大切なのは、自分の芯を持って、自分と他人との間にきちんと線を引くことだと思います。誰かが丁寧にだしをとったら自分も、近所の子が習い事を始めたらわが子もと、他人との線を引けないとしんどい。自分を保つためにも、趣味は持ち続けたほうがいいですよね。携帯のゲームとか漫画とか、世間が“母親なのに”と眉をひそめるような趣味も大歓迎!

犬山 それが自分だけだと感じるとまた不安になるので気を許せる友達と『不道徳グループ』を作って共有するのはどうでしょう?

堀越 いいですね。「今日の晩ごはんはカップラーメン」とか。

犬山 「でも子どもは大喜び〜」とか(笑)。孤立すると自分を追い詰めてしまうので、気持ちを共有できる仲間を持つことも大事。

堀越 呪いから解放されて、自分が楽しく育児ができる術を、いくつも持ってほしいなと思いますね。
子育ての呪いは母親像の押しつけだと知ることで、心がスーッと楽に

まとめ

  1. 良妻賢母を増やすべく“やさしく愛にあふれた母性”が確立したのは実は大正時代
  2. “母親はこうあるべき”は地層のように積み重なる。不必要だと知って従わないこと!
  3. 知識を持つこと、心を許せる友達と共有すること。自分の芯を持つことで呪縛から解かれる

次回は「子育ての呪いの手放し方とは? 心のモヤモヤ解消のコツや、スウェーデンの子育て事情もご紹介」をご紹介いたします! 詳しい内容は2020年LEE5月号(4/7発売)に掲載中です。
撮影/フルフォード 海 取材・原文/野々山 幸(TAPE)

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