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映画『在りし日の歌』’80年代から2010年代の中国激動期を背景にした人間ドラマ

2020.04.18

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喜びも悲しみもすべてひっくるめ
抱きしめたくなる人間ドラマ

『在りし日の歌』

©Dongchun Films Production

昔から秀逸な作品を多数産出してきたが、経済成長による豊かさを背景に、昨今さらに意欲的な中国(大陸)映画が次々と生まれている。ここ半年だけでも『帰れない二人』『象は静かに座っている』『巡礼の旅』のほか、同時期に『凱里ブルース』が公開されるなど、質の高いアート作品が次々公開。

本作は、’80年代から2010年代の中国激動期を背景に、ある夫婦が潜り抜けてきた30年――悲しみのほうが少し多いけれど、決して不幸なだけではない、人生の悲喜こもごもを描いた佳作だ。

国有企業の工場で働くヤオジュンとリーユン夫婦は、ひとり息子シンシンと幸せに暮らしている。だが親友夫婦の息子ハオと遊びに行った川で、シンシンが溺れてしまう。数年後、夫婦は寂れた町でひっそり暮らしていた。16歳のシンシンと。だが今の彼は、尖ったように反抗的だ。年頃だからか、それとも……。そしてシンシンが家出。嘆くリーユンに「似ていてもしょせんは別人。シンシンは死んだんだ」とヤオジュンが、自分にも言い聞かせるように言い放つ。時はさかのぼり、偶然同じ日に息子が生まれたヤオジュンとリーユンと親友夫婦が、互いの息子の義理の父母となり合う契りを交わし、同じ宿舎でワイワイ暮らしている、若々しく楽しげな様子が映し出される――。

30年の中で運命を決定づけた“その時”が、時を交錯させて織り込まれていく。時は一人っ子政策の真っただ中。2人目を妊娠したリーユンが隠れて産もうとしたのを、強制中絶させたのが“正しいことを全うする”親友夫婦の妻だったことなどが後からわかってくるにつけ、痛みが増幅し胸に渦巻く複雑な思いがどんどん大きくなっていく。別の場面では夫婦同士の友情の厚さが、また別の場面では親友夫婦の生涯消えぬ悔恨や懺悔や苦悩が、そしてシンシンの死を巡り少年ハオが背負ってきた十字架の重みが、我々の胸をかき乱す。

それなのにラスト、赦されたような温かさと優しさが胸を満たす。感動で涙があふれ出し、深い嘆息が漏れる。(Bunkamuraル・シネマほかにて公開中)

『在りし日の歌』公式サイト

 

大家族の強い愛情と別れの悲しみを
ユーモラスに綴る佳作

『フェアウェル』

©2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ニューヨークで暮らすアラサー女子ビリーの、中国の祖母が末期癌に。その知らせに、一族みなが一斉に帰省。“一人の結婚式を理由に”一同が顔を合わせる。

中国の伝統どおり本人には最期まで知らせないという一族の決定に、ビリーは猛反発するが。対応を巡り侃々諤々、家族や親戚同士が思い合う愛情や、そこに入り込む妬みや自己肯定のための口論など、人間臭さがユーモラス! 涙と笑いに満ちた人生讃歌。(4月10日より全国ロードショー)

『フェアウェル』公式サイト

※4月1日時点での情報です。公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子


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