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川上未映子さんと考える、新しい時代の“人としての美しさ”とは

川上未映子さんと考える、新しい時代の“人としての美しさ”とは

2020.04.09

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「女性だから」、きれいじゃなくちゃいけないと思う。「母親なのに」、きれいじゃいけないとも思う。

あれっ? ここにシミが、ここにシワが、と昨日と違う今日に焦るばかり……。日々「きれい」に翻弄され、心が揺れ動くのです。

川上未映子さん、教えてください。今、私たちに求められている美しさの本質って、何ですか?

若い頃、小さな違和感も大きなそれも、今と違ってうまく言葉にすることができませんでした。年を重ねて変わったことは無数にありますが、心からよかったと思えるのは、強くなれたこと。強さは、経済力や声の大きさに限ったことではなく、まずは自分自身としっかり対話できる知性なのだと思います。

社会にはさまざまな価値観があります。理想があります。母として、妻として、女性として。どれも魅力的だし焦るし気になる。けれど、すでに謳われている価値に自分を当てはめていく必要なんて、本当はないんです。あなたがあなたについて考えるとき、主語を社会的な役割や立場でなく、どこまでも固有名にしてみてください。自分は本当に何が好きで、何がしたいのか。何が心地よくて、何があなたを苦しめるのか。自分の目利きになるための知性を磨くこと。信頼できる人や書物の言葉に触れ、それを自分のものにしていくこと。そうして重ねた時間は、生涯にわたってあなたを勇気づける力になるのだと思います。

作家/川上未映子

1976年、大阪府生まれ。2007年、小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』でデビュー。以降 ’08年『乳と卵』で芥川賞のほか、数々の受賞作品を世に生み出す。 ’19年の最新刊『夏物語』は第73回毎日出版文化賞を受賞。

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Q もう若くはないと感じる日々。大人がきれいでいるためには、何が必要ですか?

A「何をどのくらい考えているか」に目を向けること

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私のまわりにいる美しい大人の女性はシワもあるし、シミだってある。でもなんだか堂々としてるんです。若さに寄せようとしない強さを持ってるというのかな? 自前を丁寧に手入れしている感じがするの。若さがなくなると「地金」が見える。地金を作っているものは何かというとそれは中身。「何をどのくらい考えてるか」だと思うんです。いよいよ、内面の美しさが大事になってくるってこと。見かけがどれだけ素敵でも、話して軽いと思った時点で気持ちがすっと冷めませんか。その人とまた会いたいとか、時間を重ねたいとか思わないはず。若くないと感じるときがすなわち、外見から解放されるとき。それはむしろ、いいことだと思います。

Q 夫へ異性としての意識が薄れる一方。きれいのモチベーションが知りたい!

A 自分を見ている 自分に触れている 自分のために

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考えたことがあるんです。無人島にいたら、メイクしないのか? スキンケアしないのか?って。私ね、たぶんすると思うんです。自分のために。女性にはいろいろな顔があります。相手の気を引く顔も、場に対して敬意を払う顔も。でも、女っぷりを上げるのだけが美容じゃないと思うんです。作家である私は、仕事場では誰にも会わないから、日焼け止めだけでもいいんだけど、ふと鏡に顔を見たとき、何これ! どんよりとした色も不均一な色ムラも牛蒡みたいって(笑)。それではやっぱりテンションが下がるんです。顔色がいいだけでモチベーションが生まれる、頑張ろうと思える。そういう自分への励ましも大事です。

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ひと塗りで肌色が冴えるのは、やっぱり赤リップ。お気に入りはこの2本。アルマーニの朱赤を塗って外出し、シャネルの色つきリップクリームでリタッチ。



Q 仕事や家事、子育てのストレスで押しつぶされ、きれいを手放してしまいそう…

A 自分だけの心の「ホームボタン」を持つこと

振り返ると私も「生きる」ので精いっぱいという時期がありました。自分のためなんて考えられない時期が。でも、ね。何かひとつ「スイッチ」を押すことで変わる気がするんです。私の場合はヨガでした。ヨガに行くと水をたくさん飲む、肌がきれいになる、体が変わるのがわかる……。すると、喜びや自信が生まれ、欲も湧いてくる。いい連鎖が生まれると思うんです。内面から出てくる「何か」が快感なんですよね。女だからきれいじゃなくちゃいけない、母なのにきれいじゃいけないみたいな負い目や呪縛からは解き放たれてほしい。自分が心地いいのはどこだろう、何だろうと考えてほしい。誰かと比べるのは、ナンセンスです。

Q 女だから、女性として、ということにとらわれない、子どもに伝えるべききれいは?

A 自分を解放することで子どもも解放してほしい

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「女の子なのに」や「男の子だから」など、ジェンダーに関することを言わないと決める。私は絶対に言いません。でも、確かに「女の子はフリルが好きだよね」とか「男の子は落ち着きがないよね」とか、耳にする機会がありますよね。その傾向はあるかもしれないけれど、ただそれは、あくまでその子、個人の好みなんだというふうに、意識して言うようにしているんです。親の常識が子どもの常識を作ります。まずは親が解放されて、自由にならなくちゃ。その上で、個人として見ること、相手を尊重すること。すると、自尊心を持てる……。誰もが尊厳されるべき人間なんだということを伝えてほしいですね。


撮影/柴田フミコ(モデル) ヘア&メイク/吉岡未江子 スタイリスト/酒井美方子(モデル) 今田 愛(プロップス) フラワーアレンジメント/田口一征(ŒUVRE) 取材・文/松本千登世 構成/中島 彩

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