現在発売中のLEE3月号の特集「子どもが英語を好きになる方法」で、自身の経験を語ってくださった薄井シンシアさんの連載がスタートします。
今、NYで活躍している娘さんは、ハーバード大学、イェール大学、プリンストン大学、ウィリアムズ大学と、錚々たる大学に合格した才媛。しかしシンシアさんは、勉強を無理強いしたことは一度もないそう。「じゃぁ、もともと出来がよかったのね……」と思ってしまいそうですが、そこには、シンシアさんなりの工夫がありました。
この連載では、子どもが無理なく楽しんで学べるさまざまなアイデアをお伝えしたいと思います。
キーワードは、連載タイトルの通り、「育児書(今は、スマホかもしれませんね)を捨てよ、子どもを見よ!」。
そう、万人に共通するメソッドなんてないのです。だから、「我が子の『育児書』は、自分にしか書けない!」という意気込みで、この連載をヒントに、我が子に合った方法を試行錯誤しながら見つけていってくださいね。
子育ては期間限定
こんにちは。薄井シンシアです。初回は、自己紹介も兼ねて、私がどんな思いで娘が巣立つまでの17年間を過ごしてきたかに触れ、私の子育ての基本になった3つのことについてお話ししたいと思います。
私の娘は現在30歳で、NYで仕事をしています。子育ては10年前に終え、娘も結婚しました。今はお互い、人生のよき相談相手となっています。
娘が生まれたときの感動は、忘れない!
娘が生まれたのは、1989年の秋です。彼女を初めて抱き上げたときの感情は、30年経った今でも忘れることができません。まるで啓示を受けたかのような輝きに満ちたその瞬間の記憶と、そのときにはっきりと自覚した責任――この子を一人の人間として育て上げていく――が、その後の子育ての土台となりました。
同時に、私はこんな想いも抱きました。それは、娘と一緒にいられるのはわずか17、8年だけ、つまり子育ては期間限定なのだということです。彼女の人生時計はすでに回り始めている。私の指を握りしめ、もぞもぞと動く娘との、このかけがえのない一瞬一瞬がまたたく間に過去のものになっていくのだと思うと、切なさとともに、どうあっても巻き戻しはできないこれからの17年間をできる限り楽しく、幸せな気持ちで過ごしたいと強く思いました。だから、怒ってばかりなんて絶対に嫌。彼女を一人の人間として尊重したいし、「〇〇しなさい!」なんて命令することはやめようと決意しました。もし、娘と意見が対立するなら、理由をきちんと丁寧に説明して、分かり合えるまで話し合うことを心がけました。私の子育ての根っこは、すべてここにあるのです。
子育ての基本 その1
子育ては、「手を替え品を替え」
それでは、冒頭でお話しした、私の子育ての基本である3つのことについてお話ししたいと思います。1つ目は、「子育ては、手を替え品を替え」ということです。
子育ては娘が生まれる前から始まっていた!
私の子育ては娘が生まれる前から始まっていました。日本とアメリカ、イギリスの定評のある育児本を買い、熟読して備えていたのです。1冊は子育てに関する考え方、もう1冊は実用的なスキルの本でしたが、どちらも大いに役立ち、実際、出産前に不安に駆られていた私を落ち着かせてくれました。
ただし、育児書には賞味期限があると思っています。スタートは、育児書に書かれている一般論でなんとか乗り切っても、子どもが物心ついていよいよ本格的な子育てが始まったときに、真正面から親の不安や疑問に答えてくれるテキストには、そうそう巡り会えるものではありません。戸惑いながらも、自分で答えを見つけ出すしかないのですね。
娘が3歳だったとき、こんなことがありました。幼稚園に行き始めたら一切喋らなくなってしまったのです。私は、困惑しました。どうしよう? 本を読んだり先生に相談したり、あれこれ悩んで出した結論は「そのまま見守る」ということでした。幸い、先生の話の内容は理解しているようだったし、家に帰ればよく喋っていたので、私は自分にこう言い聞かせました。まさか、このまま一生喋らない人にはならないでしょう、と(つまり、私は「我慢」という方法を選んだのです)。
1年後、彼女はあるきっかけでお喋べりする活発な子に戻りました。この経緯は、またどこかでご紹介するかもしれませんが、子育てはほぼ、こういう不測の事態と不安、ジレンマの連続です。その都度、親はよりベターだ(よりマシだ)と思う解を自分で導き出すしかないのですね。あらゆる経験を動員し、頭をフル回転させ、ときには先生や友人など周囲の人の知恵を借りながら。これがダメならあの方法でと、手を替え品を替えながら……。これが、私が子育て中に身をもって知り、学び取った方法の一つです。
子育ての基本 その2
子育ては、観察から始まる
2つ目は、「子どもをよく見る」ということです。どんな優れた育児書も、正解を教えてくれるわけではありません。なぜなら、それは我が子のためのテキストではないからです。子どもは一人一人違います。成長するに従って、その違いは親の意向に関係なくさらに際立っていきます。
100人の子には100の個性がある
ひと口にスポーツ好きと言っても、走るのが好きな子もいれば、ボールゲームを好む子もいる。自然の中に連れ出しても、虫にハマる子もいれば山登りに夢中になる子もいるし、興味を示さない子だっていますね。性格に至ってはなおさらで、おしゃべり好きな子、引っ込み思案な子、ちょっとわんぱくな子……と、100人の子には100の個性がある。おそらく誰もが頭ではわかっているこの当たり前のことを、しかし、我が子の子育てとなるとなぜだか忘れてしまうんです。そして、比べてしまうんです。よくできる隣のAちゃんや、巷で話題の子育て論や最新情報と。
比べてしまうのは、人間の性(さが)だから仕方ないことですし、それが必要な場面も確かにあります。でも、比べる前に、私は親として意識的にできることがあると思っていました。それは、我が子をよく観察するということです。
娘はどんな瞬間に目を輝かせたり、浮かない顔をするのか。何を欲しがり、何を嫌がるのか。どんな遊びが好きで、どんな場所に行きたがるのか。どんな子どもも、日頃の表情や声の調子、そしておしゃべりや行動で、私はこんな子だよと親に一生懸命伝えようとしています。
子どもが幼くて、まだ十分に表現しきれずにいるその思い、欲求や好奇心や潜在能力を、親が自分の目と耳で察知し理解していくことは、親の仕事としてとても大切なことだと思い、努めて意識していました。
やがて娘は、とてもおしゃべりな子どもになりました。学校からの帰る道々、その日の出来事を一から順にどんなエピソードも漏らさず話すのが日課でした。私が途中で口を挟むと、「ちょっと待って! 私は最初から順番に話したいの」と。娘は、とても真面目で頑張り屋さん。だから私は、彼女があまり根を詰め過ぎないように、リラックスできる環境を整えることを心がけました。
もしここで、もっとハードルを上げて、いろいろな習い事を増やそうとしたら、娘にとってはストレスになります。伸びる力も伸ばせなくなります。むしろ、ストレスをためないように、くつろげる時間を確保することに専念しました。
子育ての基本 その3
一人の人間として尊重する
最後にもう1つ、私が常に心に留めていたのは、「子どもを一人の人間として尊重する」ということでした。でも、これは本当に「言うは易し行うは難し」なんですね。人間として尊重するということの意味は底知れず深くて、ときに親として子によかれと思うことが「〜しなさい」という命令や「親のいうことは聞きなさい」という高飛車な態度となって表れてしまう。けれども、それはやっぱり親の押し付けなんだと思います。
幼いからといって、子どもが道理を理解できないわけではありません。同じことでも、命令するのではなく、子どもと目線を合わせて我慢強く説明するというプロセスを踏む。それが、一人の人間として尊重することの実践なのだと、私は自分に言って聞かせました。
といっても、私も未熟な生身の人間です。腹が立って、怒ったり、命令口調になったりしたことはたくさんありました。そういうときはもう、ただただ謝るんです(笑)。「ごめんね、ママが悪かった、許してね」って、必ず。
これが子育てで大切にしてきたことです。この基本を守っていたので、娘は、私から強制されることなく、自ら「学ぶ」子になったと思います。すべて順風満帆だったわけではなく、もちろん、娘が気乗りしないこともありました。そういうときこそ、この基本に立ち返るんです。何が彼女の「学ぶ」意欲を妨げているのか、わが子をよく見る。この観察をもとに、学ぶことが楽しくなる工夫をしてきました。それを大変と思う人もいるかもしれませんが、私はそれがとても楽しかった。
自分の中に子育ての「基本」を持つ
繰り返しになりますが、万人に合った子育ての方法、学びの方法はないと思います。だからこそ、自分の中に子育ての「基本」を持つこと。そうすれば、巷に溢れるさまざまな情報に惑わされることなく、我が子に合った方法を見つけることができます。
今日が人生で一番若い日です。今日からでも遅くはありません。あなたが大切にしたい子育ての「基本」は何か、考えてみてはいかがでしょうか。その過程で、きっとお子さんの持ち味や、接し方が見えてくるのではないかと思います。
大丈夫、自信を持って! 冒頭でお話したように、子育ては期間限定。落ち込んでいる暇はありません。かけがえのない時間を楽しんでくださいね!
【質問募集】
子育てのお悩みについて、シンシアさんへの質問を受け付けています。どんな些細なことでも構いません。ぜひお寄せください。採用された方には、図書カード(500円)をプレゼント致します。
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薄井シンシア Cynthia Usui
17年間の専業主婦生活の後、「給食のおばちゃん」からラグジュアリーホテル勤務を経て、現在は大手外資系企業で働きながら、講演活動や出版活動も行う。著書に『ハーバード、イエール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたかママ・シンシアの自力のつく子育て術33』(KADOKAWA)、『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)がある。
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