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【書評】早見和真さん『ザ・ロイヤルファミリー』で考える、父親と子どもの絆。ほか3編

2020.01.10

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父親と子どもとの関係に思いを馳せてみたい、大河小説!
『ザ・ロイヤルファミリー』早見和真 ¥2000/新潮社

 

日々子育てに追われていると、子どもとの関係って、どうしても「自分と子ども(母子関係)」中心の目線になりがち。本著で、父親と子どもの絆について考えてみるのも、いい読書体験になるはず!

物語は、主人公の栗須(くりす) 栄治が29歳の頃からスタート。税理士の父親に男手ひとつで育てられた栗須は、やがて父親と同じ職へ。そしていつかは父親が経営する長野県の事務所で、一緒に働くのを夢見ていた。そんな矢先――。父親は急死してしまう。父親が「一緒に働かないか」と誘ってくれたときに、東京での暮らしが楽しく、すぐに父親の元へ戻らなかった自分を、激しく後悔した栗須。憔悴した彼の前に現れたのが、北海道で人材派遣業を経営し、馬主でもある山王耕造。亡き父親とは正反対の豪快な60代の男に栗須は戸惑うも、彼の秘書として働くことに。そして栗須自身は、亡き父親とは実現できなかった「尊敬できる男と働く」夢を、山王に重ね合わせていく――。

この小説がおもしろいのは、最初から最後まで、栗須が山王と、彼の一族に「お仕えする、執事の目線」で書かれていること。趣味の馬にのめり込む山王のワンマンな生き方についていけない彼の妻、息子、娘――。誤解を受けがちな山王と家族を、栗須はつなごうとし、彼の目を通してお金持ちの特殊な人間関係が浮き彫りになっていく。

疑似父子的な栗須と山王の関係を追うと、男同士の親子って一筋縄ではいかないし、関係を築くのに時間がかかるなあ、と思わされる。そして母&息子とは違う関係性を作るのだという発見も興味深い。

物語は、30歳手前の青年だった栗須が、なんと40代後半の立派な中年になるまで続く。その間に起こる、山王家の紆余曲折、事業の行方……と、ストーリーの展開は起伏に富んでいてスリリング。そしてラストに注目。ワンマンの限りを尽くした山王が、栗須と彼の周りの人々へ残していったものの大きさに、温かな感動を味わえるはず。500ページを超える長編から、ぜひ一味違う家族の愛を感じ取って!

 

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取材・原文/石井絵里

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