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LIFE

飯田りえ

「子どもを見守る切なさに耐えるだけ」 ウーマン・リブのレジェンド 田中美津さんが語る子育てのこと

  • 飯田りえ

2019.10.20

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ウーマン・リブを強く牽引した、伝説的カリスマリーダーである田中美津さん。

10月26日より、彼女を密着したドキュメンタリー映画『この星は、私の星じゃない』が公開されます。前回記事では「なぜ、いまの時代に田中美津を残したかったのか」田中美津さんご本人と、自主製作で4年もの間密着し続けた監督の吉峯美和さんと一緒にお話を伺いました。昔の思い出話ではなく、今の世の中に通じるものがたくさんありました。

後編は田中さん自身の育った環境、そしてご自身の子育てについて。閉塞感いっぱいの今、親である私たちはどうやって子どもと対峙したら良いのか。悩み多き子育て世代を代表して、伺ってきました。

レジェンドを作ったのは、自分であり、母であり、家族だった

若かりし頃の田中さんと息子のらもん君 ©パンドラ+BEARSVILLE

__田中さんご自身はどの様な環境で育ちましたか?

田中美津さん(以下、田中):ほかでは運の悪いことが多いけど、唯一、私は家族に恵まれたの。まるで、”私”という人間を生み出すために存在したような家族だった。「お前のままでいいんだよ」ってことを言われ続けて育った。

母がよく言っていたのは、「人なんて悪ければ悪いで悪口を言い、良ければ良いで悪口を言うもんだから、気にするな」って(笑)。ある時、家に私服警官が来たのね。「お嬢さんがウーマンリブでは、ご家族が大変でしょう」って余計な事を言いに来たのよ。すると「あの子は損なことをしているが、間違ったことをしている訳ではない」って、私のビラ一枚読まない母がそう言い放ったのよ。女の問題って難しい本を読んで気がつくのではなくて、”自分”を真面目に生きていれば「これはおかしい」ってわかる問題なんだ、とその時思いました。

__素晴らしいお母様ですね。リブの後、第一回世界女性会議を機に田中さんはメキシコに渡られ、未婚でお子さんを出産されました。その理由も「結婚が面白そうじゃなかった」と。40年前に…ですよ! その頃のご家族の反応は?

田中:それがね、家族の誰からも文句を言われなかった。未婚でダブルの3歳児を抱えて帰国したのにね。息子の笑顔に魅了されたのか、みんな心から歓迎してくれた。考えたら私も、異国で未婚で生むということに、1秒足りとも悩まなかった。

__素晴らしい包容力!と、いうことは、今の私たちが「あなたのままでいいのよ」と育てれば、自分自身を生きる子が育つってことですね?

田中:そうだと思う。女の人が変わることが世の中変わる一番の近道かも。「お前のままでいいんだよ」と育てれば、自分の頭で考え行動する人が増えていきますから。

__良い指針になります。

田中:でも一方でね、社会に出て人との関係を作るのが大変だった。みんな私とは真反対のしつけを受けて大きくなるんですもの。いかに自分を偽って感じよく振る舞うかとか、周りを見て口を開くとかのしつけを受けて。「お前のままでいいよ」の私は、周りの人が本当はどう思っているのかわからなくて、またどこで他の人と重なったらいいのか、わからない。孤独な青春でしたね。

だから、女の本音100%のリブ運動の中で、私はやっと私のままで生きられる世界と出会うことができた。「女の生き難さ」という問題で、他の女性たちと、本音で重なることができて…救われましたよ、ホントに。他の女たちも世間がどう見るかを物差しにして生きなきゃならないことに、実は苦しんでたんだということも分かったので。

子どもに良かれと思うこと=自分に良かれと思っていること

__作品の中でも親子の関係について子どもにいいと思ってやろうとすることは、たいていそれは自分にいいことで、子どもを侵害してしまうことなんだ…と。そういう間違いを何回も繰り返して「やっと親の大事な役割は、見守る切なさに耐えていくことだと知った」とおっしゃっていましたね。胸が締め付けられる思いでした。

田中:親はみんなね「子どもに良かれ」と思ってやるんですよね。でも、実はたいてい「自分に良かれ」のことなのよ。自分から見て「こういう風にすればこの子はいい人生になるだろう」って。でも「何がいいことになるか」なんてわかりませんよ。神さまじゃないんだから。

親って子どもの人生が滑らかに進んでほしいのよね。滑らかだと、とりあえず安心する、いい学校を出て、いい会社に就職して、安定した結婚をすれば親は、安心。

__田中さんもそう言う時があった?

田中:もちろんよ!それに気づいて愕然。どうすればそんな厭ったらしい自分を変えることができるのか。そう悩みながら、気が付くとまたまた「こうしたほうがいいわよ」と言ってる自分がいて…。息子が何かをやろうとするとすぐに「私からみた良いこと」の方向に行かせようとする。不安があったり、自分の中がスカスカしてると、一層「あーしなさい、こーしなさい」と言いたがる私にも気が付いた。悩んだ果てに、できる限り息子のやりたいようにさせよう。本人が失敗して学んでいくしか、真の学びはないのだから。私は腰を据えて彼を見守っていこう。そして、私は、私自身の問題にしっかり取り組もう、と。

__そこに気づく、きっかけがあったのですか?

田中:「あなたのためよ」「こうすることが良いことなのよ」って言っている自分の厭らしさに気づいてしまったということかしら。私が心配して口を出せば出すほど、子どもが元気が無くしていってね。どうしたらいいのだろうって悩んで、悩んで。やっと到達したのが「見守る切なさに耐える」ということだったの。親にできるのは、それだけなんだと腹をくくって、そして私は自分の不安としっかり付き合って行こうと決めたのね。

__本当ですね

田中:生きものはみな、失敗から学ぶ。だから、子どもが失敗することを恐れない覚悟を持つってことは、親として大事なこと。自分の失敗を他人のせいにしないで、そこから学んでいくことを、子どもが早くから身につけられるようにするには親が出しゃばらないことが一番よね。

とにかく親って自分が不安だと、「あーしたほうがいい」「こーしたほうがいい」って子どもに余計なアドバイスをする生きものなのよ。そういう自分に気づくことから、子育て免許皆伝の人になっていくしかないいような…。

__先回りした、余計なアドバイスをしていますね。

田中:その自分の厭らしさに気づくかどうかですよね。親である私たちが

子どもは親の言葉に圧倒されてしまうから、子どもの表情とか、体から発する元気さとかそう言うものに常に敏感でないと。

やらなかったことで起きる結果は、子どもが引き受ける

田中:結局は、子どもといかに信頼関係を作るかってこと。子ども自身の力があるのに、親が心配し過ぎて、ともすれば子どもが持っている力をダメにしてしまう。それだから子育てが難しくなるのだと思います。私だって、子どもが私と改めて信頼関係を作ってくれるようになるまで、結構時間がかかりました。

女の子は思春期になるとお母さんとぶつかるでしょう。すると、母親も対等な者同士として付き合っていかざるを得なくなる。でも多くの男の子は、沈黙することで親を拒絶。親と関係ないところで大人になろうとする。そうやって親離れしていくんでしょうが、そこで親も、もうコントロールはできないんだと知って、あーした方がいい、こーしなさいと言えば言うほど溝が深くなっていくことに気づけばいいんだけど…。

__良きことをしているって思っているあたりが傲慢ですね…。

田中:放っておく勇気が持てないのよね。放っておいて大丈夫かどうかはわからないけど、少なくとも首根っこを掴んで指図するよりはいいのよ。

__そうですよね、自分で選ばなかった道は、自分のモノにならないです。どんなに小さな子でも。

田中:ウチの場合、習い事でも宿題でもなんでも「やりたくないならやらなくていいけど、やらないことで起きる結果は、あなたが引き受けるんだよ」ってことだけは伝えてました。脅かす言い方ではなくね。

どんな理由であれ、本人が嫌がってることをやらせるのは大変。「あなたはどちらも選べるよ。お母さんはこう思うけど、あなたはあなたの希望や考えで生きていきたいならそれもいい。ただ、そっちを選ぶことで生じる事柄は、自分で担っていくのよ」と、其れだけは繰り返し伝えた。中学生になれば、それぐらいのことはわかるから。わかってももちろん、自分のお尻はなかなかちゃんとは拭けなかったけれど。



親は”自分”の問題に必死にならなくては、”自分”の物差しで生きていけない

今でも多くの患者さんを治療している ©パンドラ+BEARSVILLE

__子どもの問題というよりは、私の問題ですね。

田中:親は子どものことより、もっと自分のことに熱心にならないとダメよね。自分がイキイキしてないのに、子どもをイキイキさせようなんてやめたほうがいい。

子どもって親に自己嫌悪させてくれる存在。だって親って子どもには一番正直に、自分を出しちゃうでしょう? 子どもは親のいい鏡、親が自分自身を見る上での。「他の人にどう見えているか」なんてことを気にしてたら、そりゃ不安ですよ。自分を計る物差しを他人に預けてるいるのだから。子育てもそう。よそ様の目を気にしての子育てじゃ、努力が空回りして当たり前よね。

__肝に命じます

田中:あとね、私たちは小さな大したことのない、無力な生きものなんですよ。なんせ明日生きているかどうかもわからないで、生きているんですもの。草の陰で鳴いてる虫も、ウチの猫も、どんな美人も、社会的地位が高い人も、生きものはみな等しく、明日生きているかどうかはわからない。生きるとは、今日生きてる、今生きてるということがすべてなんです。

そういう意味で、いのちは皆ヨコ一列に存在している。「いのち」というものが孕むその絶対性から見れば、あなたは私かもしれないし、私はあなたかもしれないのです。いわば私たちは、許し合うことを宿命づけられてる生きもの。そしてまた無力であるのは、助け合うことを宿命づけられた生きものであるからです。そのことを知って、私は生きることや、他の人とつながることが、とても楽になりました。今息子といい関係なのも、そういった考えに目覚めたせいか、と。お互い明日は生きてないかもしれないのだと思うと、何を一番大事に考えたらいいか、自ずとわかりますものね。

__自分と社会を密接につなぐ考え方にもつながりますね。

田中:何年にもわたって、しつこく同じ問いを抱き続けるというのが私の唯一の才能。小さい頃から「この星は私の星じゃない」「明日は生きてないかもしれない」って思い続けてきました。そして何時かしら、あなたは私かもしれないし、私はあなたかもしれない…と思うようになったのです。それからは人間関係がごちゃごちゃしちゃっても、一歩引いて見ることができるようになりました。

__なるほど。映画でもその感覚はすごく伝わってきました。

田中:吉峯監督が、「ここにこんな素敵な人がいる」といった映画にしてくれなくてよかったと思うのね。特別強かったり、頭が良かったり、輝いているから76歳になっても患者を治療したり、沖縄の辺野古に駆けつけて「基地建設ハンタイ」の座り込みに参加するというような頑張りができるのではないのだから。明日は生きてないかもしれない、つまり今日が最後の日ならこういうふうに生きたいと思うことで出てくるエネルギーで、私は生きたいように生きられているのです。息子ともいい感じで。

__確かに。今日は人間・田中美津さんにエネルギーをたくさんもらえました。お忙しい中、ありがとうございました。

親である私が “自分”に正直に、”自分”と対峙させることが欠けていたんだ、と改めて気づかされました。そして子どもに対しては「ありのままでいいのよ」と見守る切なさに耐えるのみ。気づいた以上は、もう日々鍛錬ですね

一つの時代を切り開いた人の言葉は、とにかくシンプルで強く、容赦無く体の中の奥深くに刺るものがありました。これまでの田中美津さんの著書を改めて読み直してみたいと思います。映画の方は男性女性問わず、多くの世代の人に見て欲しいと思います。

『この星は、私の星じゃない』HP

10月26日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開、以後、横浜シネマリン、大阪シネ・ヌーヴォ、神戸元町映画館、京都みなみ会館、松本シネマセレクト、鹿児島・ガーデンズシネマ、沖縄・桜坂劇場、他にて公開予定

©パンドラ+BEARSVILLE

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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