今、最も気になる女優・趣里さんが役を生きた映画 『生きてるだけで、愛。』が素晴らしい!
-
折田千鶴子
2018.11.06
存在感がハンパない女優・趣里さん!
今、一番、気になっている女優・趣里さんに会いに行ってきました!!
二宮和也さんが主演したドラマ「ブラックペアン」での、二宮さんの部下であり相棒でもある優秀でクールでキツ~い看護師・猫田麻里役で、“あの女優、誰?”とネットをざわつかせ、ガツンとその強~い存在感を一気に広めた趣里さん。ドラマ「リバース」の壊れた妻も怖かったですが、猫田役のインパクトはスゴかったですよね! 毎回、出てくるのが楽しみでしたもん。
でも私的にはやっぱり映画『勝手にふるえてろ』での、松岡茉優さん演じるヒロインが訪れる町のケーキ屋さんの、バレリーナのような、マネキン人形のような、金髪の店員さん役が可愛くて、すごい印象に強く残っています。
趣里さんの存在感がスゴイと思うのは、例えば “あ、映画『彼女の人生は間違いじゃない』にも出ていたのか” と知って思い返すと、「あのターミナルのトイレでヒロインと会話していた、あの人か。そうだ、あれ確かに趣里さんだった!!」と、役の大小にかかわらず思い出せるほどの爪痕を残しているっていうこと。
そんな、今、女優として最も気になる趣里さんが主演した『生きてるだけで、愛。』という映画が、スゴイんです! 素晴らしいんです! 何となく大好きなんです!
本谷有希子原作の映画化「生きてるだけで、愛。」
――06年に劇作家・小説家の本谷有希子さんが発表した同名小説の映画化です。原作は読まれましたか?
「本谷さんの舞台などを拝見して、いつか本谷さんの描く世界に入ってみたいと思っていました。出てくる人は針が振り切れていて胸が苦しくなるけれど、人間の芯である部分や大切なことが身体に深く刻まれる感覚がありました。他人と関わる事、人生の苦しさや美しさ、生きること、すべてがこの小説のタイトルに凝縮されているなと思いました」
趣里さんが演じるのは、鬱が招く過眠症のせいで、引きこもって寝てばかりいる寧子。出版社で働く津奈木(菅田将暉)と同棲、いやもはや居候状態で、食事も津奈木がコンビニで帰りに買ってくる生活。しかもそんな津奈木に対し、罵倒するように激しい言葉を投げつけ、“うわ~、どうなってるの、この女?”と最初はイラッとしたりするのですが……。
――寧子を見ているとイタいのに、段々と笑えるような可愛らしさと面白さを感じさせます。その匙加減は、難しかったですか?
「原作で私が寧子に惹かれた部分、“分かる”と共感した部分を、ずっと忘れないように努めました。寧子を通し自分が今までに経験した様々なことを思い出し、寧子を救いたいと思ったし、同時に自分も救われたいと思ったのかもしれません」
「なぜ寧子がこんな状態になっているか、そこには生まれた環境が作用しているかもしれないし、ちゃんと理由があるんだろうなと思いました。こんな状態になっているもどかしさ、自分に対し自己嫌悪になる部分も、すごく人間らしい。寧子は単に撒き散らしているだけではないとも思ったので、「なぜそうなったか」を忘れないようにしました。だから特に難しいとは感じなかったですね」
「でも誰しも生きていると色々な事があって、本当に紙一重だと思います。自分もこうなる可能性もあるし、現代を生きる人ならきっと分かるだろう、と思いました」
寧子はダメな自分を、すごく分かっている
――撮影に入るまでの半年間、寧子のことをたくさん考えていたそうですね。共感を強く覚えたというのは、具体的には寧子のどんな部分でしょうか。
「“どう演じよう”とかではなく、ただただ彼女のことを想っていました。分かるな、と思ったのは、変わりたいんだけれど、変われない自分。寧子って、ちゃんと、このままじゃいけないと思っているからこそ、津奈木の元カノの安堂に引っ張られてバイトもしてみちゃうし、津奈木とも関わろうともする。人が好きなんだな、と感じました。ダメな自分というのもすごく分かっていて、でも人も自分にも期待しちゃっているというのも、すごく分かるんです。諦めていないところも、すごく人間っぽいな、と思います」
――序盤に、津奈木との出会いの後、いきなり寧子が自販機にガンと頭を突っ込むシーンでは、つい「おい~っ!!」とツッコみつつ、思わずウケてしまいました。
「どうやったら自然に流血するくらいガンと思い切り行くように見えるか、向きやツッコみ具合を確認しながら撮っていました。でも、よくいますよね? 酔っぱらって何かにぶち当たっても気にしないみたいな面白い人。そんな寧子を見て、津奈木が自分と違うからびっくりして、そのまま寧子が走り出した時の、スカートがすごく綺麗だったから、寧子に惹かれていくというのも、何かすごく分かるような気がしました」
エキセントリックだけど、何か可笑しい!
――長い疾走シーンが序盤と終盤にあって、身も心も存分に使った撮影になりましたね。
「本当に、何度もたくさん走りました(笑)! 寄り、引き、2ショット、引っ張り(カメラを台車に乗せて引く前を走る)、ドン引き、俯瞰など、何度も撮るので体力的には大変でしたが、段々と慣れていきました。初日が一番大変でしたが、最後の走りなどはもう、爽快に走っていました。本当にスタッフのみなさんがケアしてくれたので、乗り切れました」
――元カノ・安堂(仲里依紗)との遣り取りも本当に面白かったです。絶妙でしたね!
「安堂との場面は、特に演出はなかったんですよね。ガンガン来る安堂に対して受けのお芝居が多かったですね。映画を観て、“あ、私こんな顔していたんだ”って自分でも思いました。目が合わせられないみたいな、何か変な感じが、完全にコメディですよね。まさに本谷さんの描かれる、エキセントリックだけれど、どこかすごく面白くて、すごく近く感じちゃうような世界観。あのシーンでも、本谷さんの持っていらっしゃる力ってやっぱりすごいなぁ、って思いました」
人と関わるのって難しい
――いつか来るぞと思っていたら、終盤、寧子が遂に爆発します! やっちゃった~、というのと、同時にどんどん胸も痛くなっていき、それが沁みました。
「ラストの屋上のシーンなどは、彼女の感情に沿って演じていくので、やはり辛かったですね。でも同時に彼女が求める、人と向き合えているという感覚もありました。菅田さん演じる津奈木との、それまでの積み重ねであのシーンがあったので、すごく不思議な感覚でした。あのシーンは監督もとても大事なシーンだとおっしゃっていました。撮影後、監督が“いける!”とおっしゃったので、安心しました」
――寧子のような役は、さすがに消耗したというか、役に引っ張られませんでしたか?
「自分でも意外でしたが、すごく健康的な雰囲気で撮影中を過ごし、全く引っ張られることもなかったんです。辛いことは全くなかったです。私、普段からカットが掛かるとすぐ役からパッと離れるタイプですが、寧子に関してもそんな感じでした」
――監督は“人と人が深く繋がり合えるか”ということにもポイントを据えたそうです。
「人と関わらないと生きていけないのに、深く人と関わることって難しいですよね。やっぱり一期一会だから、出会った人のことをもっとたくさん知りたいな、と最近思います。本作に触れて色々なことを考えました。男女って何だろう、とか。人を100%理解することも、自分のことも100%分かってもらえるわけもない。だから面白いのかな、とか。私は、誰かに土足で踏み込んで来られるとパッと引いてしまうんです。仲良くなったら土足もアリですが、親しき中にも礼儀ありということには常に気をつけていますね」
おひとりさまのプロ!?
――津奈木を演じた菅田将暉さんの、役者として、そして普段の菅田さんの様子を教えてください!
「最初に“自然な会話の流れの中で、僕は受け止めるだけだから”と言ってくれました。普通っぽい役も、普通じゃない役もできる演技のバリエーションは、やはり彼が確固たるものを持ち合わせ、彼自身の中で色んな面があるからこそなんだなと改めて感じました」
「すごくナチュラルな方で、音楽の話やファッションの話、“普段どんな服着るの?”みたいな普通の会話もしました。私はあまり買い物にも出かけないので、“こういうお店が出来てさ”とか、情報を教えてもらいました。すごく感度の高い人だと思いました」
――趣里さん自身はミステリアスという印象があります。
「それ、よく言われますが全く違います。お休みには、肩こりが酷いのでマッサージで一日が終わっちゃうし(笑)。友達と美味しいものを食べに行くのも好きですが、バーベキューしよう、的なアウトドアとは遠い存在にいます。家にこもって映画やドラマを見まくるタイプ。だから買い物もネットでしちゃうし、一人でラーメンも、お寿司も、焼肉も行っちゃいます」
――映画では、さすがバレエ経験者と唸らせる趣里さんのプロポーションの素晴らしさも実感できました! 何か、はしているハズですよね?
「確かにストレッチは癖になっています。今年28歳を迎えましたが、急激に衰えを感じて。ヨガマットを敷きっぱなしにし、ここ2ヶ月は気が向いたら軽いヨガや筋トレを心がけています。実は私、中学の時は体が硬く、毎日コツコツやって柔らかくなった身体なので、日々の積み重ねを実感しているのですが、そこに向かう精神力が要るわけですよ(笑)! “毎日やるのがコツ”を実現するには、習慣にするしかない。歯磨き中にスクワットするとか、小さなことを習慣に組み入れるのが一番です!」
趣里さんの“声”も大きな魅力の一つだと実感させられた今回のインタビュー。とっても気さくで可愛らしい趣里さんが、えらくヒネくれ、自意識過剰で、イタイけど何か笑っちゃう寧子として魅力を燦燦と輝かせスパークさせた『生きてるだけで、愛。』。現代を生きる女性には、どこか絶対に分かっちゃう、そして愛しくなる映画です。ぜひ劇場で寧子を、ひいては自分を応援しましょう!!
折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。