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「なんで、自分だけ?」と思うとき、「人生最後のドレス」を巡る感動作に触れてみては? 他、湊かなえさんなど3編紹介中

2018.09.02

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「人生最後のドレス」を巡る物語に胸が熱くなる感動作

『エンディングドレス』蛭田亜紗子 ¥1500/ポプラ社

何もかもうまくいかないとき、SNSを見ると、自分以外の誰もが皆、幸せそうに思えてしまうこともあるだろう。本書の主人公・麻緒も、久しぶりに開いたFacebookに並ぶ知人たちの「幸せ自慢」に、「なんでわたしだけ」と深く傷つく。彼女は32歳で夫に先立たれ、自分も後を追って死のうとしていたのだ。

ところが、自殺に使うロープを買いに行った店で、麻緒は奇妙な張り紙を目にする。「終末の洋裁教室」と書かれた白い紙には、手書きでこんな文章が記されていた。「春ははじまりの季節。さあ、死に支度をはじめましょう。あなただけの死に装束を、手作りで」

思わずドキリとした麻緒は、その不思議な洋裁教室へと足を運ぶ。指定されたマンションの一室に集まっていた生徒は、死に装束を縫いに来たというのにどこか明るさを漂わせた3 人の老女たち。そして、黒い服を身にまとった年齢不詳の先生から手渡された白い封筒には、「はたちのときにいちばん気に入っていた服はなんですか?」とセピア色のインクで書かれた「課題」が入っていた。

それから毎月、麻緒たちは「死に装束」を縫う前のさまざまな課題に取り組んでいく。15歳の頃に憧れていた服、思い出の服のリメイク、自分以外の誰かのための服、自己紹介代わりの一着……記憶をたどり、自分の想いを確かめながら、自らの手を動かして服を作る作業を続けるうち、死ぬことしか考えられなかった麻緒の心に小さな変化が生まれていく。そんなある日、亡くなった夫の妹が出産するという知らせが届き、麻緒は駆けつけようとするが……。

「死に装束」を意味する「エンディングドレス」をタイトルにしたこの小説に描かれているのは、傷ついた心に寄り添う人の優しさ、絶望を乗り越えて生きる人の強さだ。読めばきっと、涙を流さずにはいられない。そしてその涙は、「なんで、自分だけ」とわが身の不幸を嘆きたくなるとき、心からの笑顔を取り戻させてくれるはずだ。

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『未来』
湊 かなえ ¥1680/双葉社
父を喪った10歳の章子のもとに、ある日、「未来の自分からの手紙」が届く。精神的に不安定な母とのふたり暮らしにさまざまな困難が降りかかる中、不思議な「手紙」に支えられて章子は生き抜いていくが、中学卒業を目前に衝撃の事実が明らかになり……。著者の新たな境地を感じさせる展開にファンならずとも胸が躍る、デビュー10周年記念の書き下ろし作品。


『六月の雪』
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『わたしのフランス菓子AtoZ』
若村曜子 ¥1500/産業編集センター
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取材・原文/加藤裕子

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