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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

『バッド・ジーニアス』『プアン/友だちと呼ばせて』制作のDGH 559最新作

話題のタイ映画『親友かよ』主演トニー&ジャンプに緊急インタビュー!「もしジョーが死ななかったら、きっと恋人同士になるんじゃないかな(笑)」

  • 折田千鶴子

2025.06.11

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親友かよ
6月13日(金)新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント、池袋HUMAX シネマズほか全国順次公開 ©2023 GDH 559 AND HOUSETON CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

24年の大阪アジアン映画祭で大きな話題を呼んだ、タイ映画『親友かよ』がいよいよ日本公開に。近年、BL作品にはじまり世界中から熱い視線が注がれているタイのエンタメ界ですが、中でも“アジアのA24”と称される映画スタジオ「GDH 559」は次々と秀作を生み出す気鋭の映画制作会社。

この『親友かよ』も、その「GDH 559」製作による一風変わった青春映画です。 主演のアンソニー・ブイサレートさんと、ピシットポン・エークポンピシットさんにオンラインでお話を聞きました。アンソニーことトニーさんは繊細で恥ずかしそうな風情で、ピシットポンことジャンプさんは、周りを華やがせるエネルギッシュな空気を放ちながら色々と答えてくれました。

アンソニー・ブイサレート

通称トニー

アンソニー・ブイサレート

Anthony Buisseret

2004年9月20日バンコク出身。『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』(23)で映画デビュー。『親友かよ』は映画出演2作目となるが、『ふたごのユーとミー』で共演したティティヤー・ジラポーンシンと再タッグを組んだ。ベルギー人の父とタイ人の母を持つ。

ピシットポン・エークポンピシット

通称ジャンプ

ピシットポン・エークポンピシット

Pisitpol Ekaphongpisit

2000年9月27日生まれ。20年にBLドラマ『ラブ・バイ・チャンス2/A Chance To Love』で俳優デビューし、一躍注目される。ファッションショー、ミュージック・ビデオの出演など活躍を広げる。BLドラマ『Why You… Y Me?』(22)で、実際に自身が務めるバンド「Evening Sunday」のリードボーカルを演じる。『親友かよ』で長編映画デビュー。

本作でお2人はそれぞれ高校3年生のペーとジョーを演じています。まずはご自分が演じたぺーとジョーの人となりについて、どんな風に思ったか教えてください。2人とも思わずついてしまった“嘘”が、後で悩みや大変なことになりますが……。

トニー 観客の中にはペーに対して、「そんなにいい奴じゃない」と言う人もいましたが(笑)、僕は彼がそれほどワガママだとも、悪意がある人間だとも思いません。彼は別れたガールフレンドといざこざを起こして、前の学校を追い出されてしまい、でも父親の工場で働きたくないから別の高校に転入します。そして大学進学に有利になるように、短編映画を撮ることになるんです。その際にちょっとした嘘をついてしまいますが、その判断は現実世界や彼の実人生に即したものだと僕は思います。ちょっとウザいところもあるけれど、でも可愛い奴だなと思います。それに本作の中でペーは、とても成長しますから。

ジャンプ ジョーはとても夢見がちな若者。やりたいことも色々あるし、色んなところに行ってみたい夢もあります。でも障害になるのは、いつもお金。ジョーの家は裕福ではないので、なかなか夢が実現できない。そんな時に彼は嘘をついてしまいますが、それも自分の夢を実現したいがため。ジョーが悪い奴だとは、僕も思いません。いい奴とも悪い奴とも言えないんじゃないかな。だって人間には誰でも2面性があり、どちらに転ぶかはその人のチョイス次第だから。ジョーは見ての通りとても明るく、友だちもたくさんいる。友人に対しても誠実です。ただ心の奥底には、お金があれば楽になれる、という気持ちがあるんです。

『親友かよ』ってこんな映画

高校3年生のペー(アンソニー)は、転校先でジョー(ピシットポン)と隣同士の席に。人懐っこいジョーに対し、ペーは若干引き気味だが、ある日いきなりジョーが不慮の事故で亡くなってしまう。そんな矢先、短編映画のコンテストに入賞すると試験免除で大学に進学できると知ったペーは、自分はジョーの“親友”だと偽り、彼を偲ぶ映画づくりを画策する。そうしてジョーの中学時代からの親友ボーケー(ティティヤー・ジラポーンシン)や映画オタクたちを巻き込んで、映画撮影がはじまる。その過程でペーは、予想していなかったジョーの“嘘”を知る。

先ほどジャンプさんがおっしゃった通り、ジョーには内面に抱えた気持ちを外には出さず、明るいイイ奴として生きてきました。それだけに感情表現の匙加減が難しかったと思います。監督とどんな風にその辺りのことを相談しましたか?

ジャンプ 僕もアッター・ヘムワディー監督に確認しましたが、監督からは「ジョーは真面目であることは確か。但し自分の選択によって、誠実であり続けるか欲望を選ぶかで、良し悪しが変わってくる」とだけ言われました。そして現場では、細かな指示を出しませんでした。ジョーを演じることに、とても大きな自由が与えられていたんです。

トニー 確かにそうでした。アッター監督は「こう演じて欲しい、ああして欲しい」とは言わず、僕たちに色んなアイディアを試させようとしました。それを見ながら「もう十分だ」とか「もう少し(強めに打ち出せ)」と言う程度でした。監督は役者に凝り固まって欲しくなかったそうです。だからラフなアドバイスに留め、僕らが持ってるもの、つまり才能を自ら出して欲しがっていました。役者が自然に演じること、自然に役になり切ることを望んでいました。

ジャンプ 僕らはまだ新人俳優ですが、パワーは100%フル充電状態。監督が僕らに間違ったことでも試す機会をくれたことに、とても感謝しています。すごく自由に演じさせてもらえたので、現場がとっても楽しかったです。



実はアドリブ満載!

逆にホン(脚本)読みに時間をかけたりしたのですか? リハーサルに時間をかける監督もいれば、何テイクも撮る、あるいは最初の一発勝負を狙うなど、色んな監督がいますが……。

トニー 撮影現場に入る前に基本的に全ての準備が、ワークショップを通してしっかり出来ていました。プロデューサーのワンルディー・ポンシッティサックさんが「準備をきちんとしたい」とおっしゃって、そこでキッチリ確かめてから現場に入りました。一度だけ途中でワークショップが追加されましたが、アッター監督はあくまでも現場では“マジック・モーメント”が生まれる瞬間を待っていた、という感じでした。

ジャンプ それに僕の場合、アドリブのシーンが多かったんですよ。

トニー 僕も結構アドリブで演じた覚えがあります。

アンソニー・ブイサレート
ペー役のトニー(アンソニーブイサレート)

それは演じる醍醐味にも繋がりますね。上手くいったぞ、と思ったアドリブシーンを教えていただけますか。

ジャンプ 本当に数多くあります。そして、どれも誇りに思っていますよ! だって全部、難しかったから。ただ編集でカットされることも多々あって(笑)。使われた時は「やった、ここは使われたのか!」と嬉しかったです。そんな中で自分でも上手くいったと感じたのは、とても些細なシーンですが、話をしていて何気なく振り返るシーンや、食事シーンでの食べる量や食べ方など。またボーケーがジョーを本で殴るシーンがあるのですが、そこでジョーが上手い具合に避けたシーンも記憶に残っています。そういう細かいアドリブが、思ってもいないシーンで使われていましたね。

トニー 僕が一番覚えているのは、引き出しを開けるシーン。開けながら叫ぶのですが、監督から「どんな鳴き声でもいいよ」と言われたので、色々と思いつくものを全部やってみました(笑)。豚の鳴き声から猫、コケーコッコというニワトリの鳴き声まで。でも採用されたのは、やっぱり最初のテイクでした(笑)。どんな叫び声かは、映画を観て確かめてくださいね!

親友ってなんだろう?

この映画を見ると観客は、必ず「親友ってなんだろう!?」と考えてしまいます。お2人にとって、親友と呼べる最低条件は何ですか?

ジャンプ 長所も欠点も受け入れられること。互いが互いに対して期待感があることかな。もし相手の欠点が露になっても、それを認めて一緒に成長していければいい。それこそが親友になる始まりだと思います。でもやっぱり、たくさん会うことも大事かな。親友であると証明するには時間がかかるし、共に過ごす時間がとても大切だと思うから。色んなことを一緒に一生懸命やること、一緒に経験することも親友の条件だと思います。

トニー 確かにそうだよね、ほぼ賛成です。それに付け足すと、やっぱり一緒にいて落ち着く存在であること、信用できるかも大事だと思います。僕はなかなか人を簡単には信用できないタイプですが、一旦信用できたら、すごく仲良くなります。かなり慎重なんです。もちろん誰かに話しかけられて、ツンツンして逃げるということではないですよ!

ジャンプさん、今回の現場でもトニーはなかなか信用してくれないな、と感じました?

親友かよ

ジャンプ アハハハ(笑)! でも確かに、トニーはあまり簡単に人に心を開かないと思いました。見た感じからして、彼はすごくセンシティブでしょ? もちろん気取っているわけじゃないし、ちゃんと話はする。でも新たに知り合う人に対して心を開くのはなかなか難しそうでしたね。

さらに本作を観て考えずにいられないのは、「あの時、もしジョーが死ななかったら、2人は親友になったんだろうか」ということです。2人の見解はどうですか?

トニー そうだなぁ、きっと恋人同士になるんじゃないかな(笑)。

ジャンプ アホか(笑)!!

トニー でも真面目な話、高校を卒業するまでには、すっごく仲良くなっていたと思いますよ。きっと一生忘れられないくらいの友達に。だってジョーは唯一、誰とも話したくなかったペーに最初に話しかけて、ペーの心を開いた人間だから。きっと、2人の間には美しい感情や友情が芽生えるんじゃないかなと思います。

ジャンプ 確かにそうだよね。基本的には僕もトニーに賛成。最低限、ジョーにも信用できる友達が1人増えたと思います。そして2人で楽しいことをたくさん一緒にしたと思うな。それこそもう、地球から飛び出すくらいの楽しいことをね(笑)!

ジョー役のジャンプ(ピシットポン・エークポンピシット)

本作はタイトルから想像するような「友情物語」ではなく、親友になれなかった2人の物語です。だから観客は何をどう受け止めていいのか微妙に迷うところがあるかもしれません。お2人が本作を通して心に響いたこと、深く受け取ったものを教えてください。

ジャンプ この映画を通して僕は、“目の前のチャンスや現実を見逃さないで!”ということに気付きました。例えば、誰かと今日会っていたとしても、次にいつ会えるか本当に分からない。自分がいつ死ぬかなんて、誰にも分からないから。先のことは誰にも何も保証されてないんです。明日があるかも分からない。でも人は、自分のことばかりを考えがちですよね。今、自分は何に集中しているのか、何かを見逃してはいないか、そういうことに気づかされました。それは、本作から受け取った忘れられないメッセージです。

トニー 僕が本作を通して、まず何でも経験だということを学びました。また、この仕事をしていく上で本当の友達を持つのは難しいと思っていましたが、そうではない、ということ。これまでは仕事仲間としてだけ見てきたけれど、真剣に出会い、お互いに友達になれば、実はもっと仕事もやりやすくなるんだ、と学びました。そのことを大切にしていきたいです。ごめん、僕の答え、ジャンプほど素敵じゃないかもしれない。

ジャンプ そんなことないよ! いい答えとか正解とか、そんなものは存在しない。大切なのは、自分が何を感じたのか、何を言いたかってことだけなんだから。

映画が自分を成長させてくれる

最後にトニーさんには、ペーが仲間を集めて映画作りをする作り手側を演じることで、映画の面白さを改めてどう感じましたか?

親友かよ

トニー 映画を作る難しさを感じました。僕にとって映画作りは、すごいプレッシャーなんです。というのも僕は子供の頃から「GDH 559」という制作会社の作品に出てみたいと夢見て来たんです。だからGDHの名にふさわしい素晴らしい作品にしなければ、とずっと思っていました。一方で、そういうシーンを演じてみて映画作りの楽しさにも気がついて、だからこそ現場に行くのが毎日とても楽しくて仕方ありませんでした。スタッフの方々全員が本作をとても愛していて、精一杯、頑張っていることが分かりました。僕ら役者も100%の力を出し、スタッフの誰一人としてガッカリさせたくないと思っていました。

最後にジャンプさんには、「演技をすることは自分を理解することだ」とおっしゃっていますが、今回なにか新たに発見した自分はありますか?

ジャンプ 本当にたくさんありますよ! 僕もジョーと似た要素を持っていると思いますが、ジョーの方が僕よりずっとスゴイ。莫大なポジティブなエネルギーを他の人に与えようとしていると思いました。しかも彼は、見返りを求めずにやっている。ジョーのポジティブなエネルギーは、他の人から見ると“馬鹿か”と思われがちですが、それってそんなに酷いことでもないな、とも思いました。僕はこれまで人に対して心を開くことに臆病な面がありましたが、そんなに怖いことじゃないとジョーに教えられました。それが、自分自身を理解する最初のステップになったと思っています。

親友かよ

DGH 559と言えば、『バーッド・ジーニアス 危険な天才たち』(17)のみならず、『ホームステイ ボクと僕の100日間』(18)、『ハッピー・オールド・イヤー』(19)など、日本でヒットした作品も少なくありません。

また本コーナーで以前、『プアン/友だちと呼ばせて』(22)のバズ・プーンピリヤ監督にインタビューしましたが、彼は本作のプロデューサーの一人を務めています。さらにタイの昨年の興収2位を記録した『おばあちゃんと僕の約束』(24)もDGH 559の作品で、もうすぐ日本でも公開されます。ドラマも映画も今、タイが文字通り熱い!

まずは24年の米・アカデミー賞国際長編映画賞のタイ映画代表にも選ばれた本作で、タイ独特の素朴で優しい世界観をとくと味わってください。

『親友かよ』

2023年/タイ/タイ語/130分/©2023 GDH 559 AND HOUSETON CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED/配給:インターフィルム

監督・脚本:アッター・ヘムワディー
出演:アントニー・ブイサレート、ピシットポン・エークポンピシット、ティティヤー・ジラポーンシンほか


Staff Credit

通訳/高杉美和

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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