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折田千鶴子

元気なチビッ子たちが大活躍! 映画『リトル・ワンダーズ』ウェストン・ラズーリ監督インタビュー

  • 折田千鶴子

2024.10.24

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今もどこか腕白坊主っぽい知的な監督

元気で腕白なチビッ子たちが、スクリーンから飛び出しそうなほど走り回る、ごっきげんな子ども映画『リトル・ワンダーズ』。“お仕置き上等!”とばかりに悪戯三昧、ママの目を盗んでゲーム三昧を決め込むハズが、ママの方が軽~く一枚上手で(笑)……。そんなちびっ子4人の奮闘が、まさかの大冒険に発展! ママ世代のLEE読者はハラハラドキドキ必至です。でも同時に子ども時代を思い出してワクワクせずにいられません!

来日したウェストン・ラズーリ監督は、185cmをゆうに超えそうな高身長ですが、イメージはまんま“腕白坊主”みたいな、どこか可愛い感じ(母親目線……)。でも実は、とても知的で多方面の芸術的センスに秀でた方なんです。それなのに佇まいが本当にフツーっぽい、まさに新世代特有の才能ある方々って、こうなんだよなぁ、と思わされたりして。そんな監督に、いろいろお聞きしました。

ウェストン・ラズーリ監督 
1990年生まれ。カリフォルニア美術大学でグラフィックデザイン、ファッションデザイン等を学んだ後、それらのスキルを駆使して映画製作を手掛けるように。2015年にアトリエ「ANAXIA」を設立し、映画、MVの製作、デザインなどの創作活動を行う。短編映画『Jolly Boy Friday(原題)』(16)、『ANAXIA(原題)』(18)を発表。長編初監督の本作は、脚本・製作・出演も務める。第76回カンヌ国際映画祭で監督週間に出品、カメラ・ドール部門にノミネートされる。

『リトル・ワンダーズ』ってこんな物語

アリス、ヘイゼル、ジョディの悪ガキ3人組は、大の仲良し。新しいゲーム機を手に入れて意気揚々と家に帰るが、ママは先回りしてパスワードを設定していた! パスワードを解除してもらうため、3人はママの大好きなブルーベリーパイを買いに出かけるが、あいにくお休み。仕方なく自分たちでパイを作ろうと、材料を買いにスーパーへ。ところが謎の男に卵を横取りされ、3人は男を追いかける。男が入っていったのは、怪しげな家。そこには、なんと魔女が率いる謎の一味が住んでいた! 3人は、魔女の娘ペタルを仲間に入れ、悪い大人に立ち向かおうとする。果たして、彼らはパイを手に入れ、ゲームをプレイできるのか!?

“究極の子ども映画を作りたい”という発想から始まったそうですが、どんな子供たちが頭の中に思い浮かんだのでしょう? 本作の冒頭で空気銃をしょってバイクに乗る腕白坊主の姿とか?

というよりも発想は、ゴブリン(日本では妖怪的なイメージが強いですが、そうではなく多くのファンタジー映画で主人公の脇にいる小さなキャラクターを指すそう)みたいな、ちょっと変わったキャラクターの視点から冒険譚を語りたいな、というものでした。大抵の冒険ものって、ヒーロー的な主人公が多いじゃないですか。そうではなくゴブリン的な存在――それが、この子どもたち、というわけです。それこそが究極の子ども映画、究極の冒険譚だな、と。だから彼らが望むようなもの――ダート型バイクや空気銃、いろんな食べ物、復讐相手となる楽しい悪役、そして自由など、子どもたちが好きなものを全部詰め込んでみました。

本作は監督の故郷で撮られていますが、ご自分の幼少期をかなり反映されていますか?

まさに、その通り! まんま自分がやってきたことを盛り込みました。僕は自然に囲まれた山間で育ち、3人兄弟の長男で、弟たちとダートバイクを乗り回し、空気銃で大戦争したりしていたんです。それでちょっとしたトラブルを起こして、親からかなり怒られたりもしましたが(笑)……。

目指した世界観は、あの作品たち!

個人的な感覚ですが、観ているうちに、なぜか「長靴下のピッピ」と同じようなワクワク感を抱きました。ちょっと懐かしくて、楽しくなってきて。

うわ、ありがとう!! 嬉しい! 実は僕も「ピッピ」シリーズが大好きで、本作もピッピのような世界観を思い描いていたんです。特に(魔女の娘)ペタルがこの作品における、ある種のピッピでもあるんですよ。 “アメリカの労働者階級の家族版”ピッピというのかな。彼女が歌を歌うシーンがありますが、そこも“すごいピッピっぽいな”と思いながら撮っていたんです。彼女はピッピのように3人の子どもを率いていくでしょ。物語的には、「ハーメルンの笛吹き」っぽくもあるけどね。

その他にも、グリム童話「赤ずきんちゃん」や「ヘンゼルとグレーテル」もイメージしました。特に「ヘンゼルとグレーテル」が持つ、あの空気を本作で再現したかったんです。僕が子ども時代によく遊んだ美しい絵のボードゲーム「ザーガランド(原題:エンチャント・フォレスト)」も、英国の民間伝承やロシアのお伽話などの要素も入っていると思います。宮崎駿作品の「未来少年コナン」や「もののけ姫」の要素もあるかな。僕の頭の中には、大好きな作品がストックされていて、そういうものすべてが本作に影響を与えているんです。

今、ボードゲームとおっしゃいましたが、まさに展開のさせ方がボードゲーム的だと思いました。1歩進んで2歩戻る、変なカードを引いて1回休み的な、何が出るか分からない面白さ。脚本の構成もボードゲームを意識されませんでしたか?

アプローチとしてはありましたね。例えばペタルがライターを見つけ、ヘイゼルら3人にも使わせますが、マスを焼く時にも使うし、相手に火傷をさせる形でも使う。色んなアイテムをゲットし、それを色んな形で使うというアイディアも、いかにもボードゲーム感覚ですよね。

もちろんそれは、今の時代のクエスト系RPGにも繋がっています。メインのクエストは「パイを作る」で、サブ・クエストとして「そのためのレシピや具材、特に卵などのアイテムをゲットできるかどうか」というのもゲーム的ですよね。

思わず笑ってしまったのは、ヘイゼルが焚火のそばでお酒を飲んで、酔っ払うシーンです。小さな男の子が、あんな上手に酔っ払い演技が出来るとは(笑)。どんな演出を?

あれ、大した演出はしていないんですよ(笑)! ただ「身体がフラフラ横に揺れて、倒れそうになった瞬間に、アッと戻すように体重を乗せて」程度のことしか伝えてなくて。でも子どもが酔っ払うなんて、普通の子ども映画には絶対に出てこないので、それも僕が目指していた世界観だったんです。だってそれこそが、子どもにとって究極の冒険じゃない? 最近は、危険な部分やダークな部分を描かないけれど、僕はエッジーな作品にしたかったので、あのシーンを撮るのはメチャクチャ楽しかったです(笑)!

対照的な2人のママとメッセージ

ペタルと母親の魔女まわりの物語のオチが、意外に現実的でシリアスなことに驚きました。

本作は、すべてを決め込んだり、すべてに説明がついたりする作品ではないんです。ペタルにはグリム童話の「ラプンツェル」的な、邪悪な魔女によって塔に閉じ込められていた、という面もあります。でも彼女は普通の子どもでいたいし、友達も作りたい。そして自由も得たい。それはある意味、母親から言われた「自分の運命は自分でコントロールしなさい!」というアドバイスに従ったわけでもあって。つまり、“いい魔女か、悪い魔女か”のごとく、(ヘイゼルたちの)いい母親と(ペタルの)悪い母親が登場して、最後には、いい家族の一員に迎えられるわけです。「じゃ、家族ね!」みたいな、いい意味でのアバウトな終わらせ方をしても大丈夫かな!?とも思いましたが、先に宮崎駿監督が『崖の上のポニョ』でやってくれているので(笑)、よし、その方式で行けるぞと、それを使わせてもらいました!

ペタルの母である魔女と、その一味。なんと監督も一味の一人(後ろ)を演じています。

ヘイゼルたちのお母さんって、メチャクチャ大らかですよね。あまり子どもたちのすることに口出しをせず、自由にやらせてくれる。それは監督が考える母親の理想像ですか?

それも、お伽噺における「いい魔女、悪い魔女」「いい女王、悪い女王」と同じように、対比として描くためのキャラクター造形によって生まれたものですが、自然と僕の母親像もそこに入り込んでいます。僕の母も、すごく優しくて、大きなハートの持ち主なので。もちろんゲームのプレイ時間などには、ヘイゼルの母もメチャクチャ厳しいでしょ(笑)!?

ただ面白いのは、実は2人の母親はまったく同じことを言っている、ということです。ヘイゼルたちの母親は、「外の世界は、あなたたちの庭。だから自由に外で遊んでらっしゃいよ」と言います。一方でペタルの母親も、「自分の運命は自分で切り開いていくものだ」と言いますよね。僕からすると、2人はまったく同じメッセージを発信しているんです。同じ内容なのに、“いい言い方”と“悪い言い方”というものがあって、伝わり方が全然違ってくるんだな、と。その辺りも、ちょっと掘り下げてみたつもりなんです。



懐かしい手触りの映像の作り方は?

ノスタルジックな映像の手触りが大きな魅力です。この色味って、後から加工していますよね?

はい、かなりカラーグレーディング(色味調整)を行いました。今回は16ミリフィルムで撮ったのですが、そのネガを見た時に、どうしても少し平面的に感じたんです。そこで、少し明るくする色彩設計をしていきました。同時に、ノスタルジックな絵画のような雰囲気を映像に持たせたかったので、ボードゲーム「ザーガランド(エンチャント・フォレスト)」のファーストバージョンみたいな、ちょっとかすれた緑や黄色っぽい色味に調整していきました。 もちろん、そういう色味はデジタルでも近づけることは出来たとは思いますが、この空気感、ヒーリング、マジック、スピリット、懐かしいような感触などは、やっぱりデジタルでは無理だったんじゃないかな、と思います。

それにしても、子供たちが逃げ回るシーンなど、ドタバタと大勢が追いかけっこをするようなアクションシーンを16㎜フィルムで撮るのは、かなり大変だったのでは?

いやぁ、本当に本当にタフな撮影でしたよ!! もちろんカメラは1台。でも最も大変だったのは、森のキャンプファイアーのシーン。あそこでは僕自身も演者として出ていたので、さらに大変でした。ただ僕はビジュアルにこだわるタイプなので、頭の中で画的に何が必要か、どんなアングルが必要かなど、最初からすべてハッキリ見えていました。撮影は大変だったけれど、自分では割とすべてが上手く撮れたんじゃないかな、と自負しています。

監督は大学でファッションやデザインを学んでいらっしゃいますが、絵コンテなども描いてスタッフに共有するのですか?

絵コンテを描くのが大好きなので、なるべく描くようにはしています。でも今回はやることが多くて、残念ながらオープニングの一連のシーンしか描けませんでした。ただカメラマンとは、何をどのアングルでどんな風に撮るのか、どの作品も、いわゆるショットリストを作ってすべて前もって決めているんです。だから、絵コンテはいらないと言えばいらなくて。僕はイラストも描くので、脚本執筆中からコンセプト・アート、キャラクターのイメージや、どんな場面になるか、たくさん絵を描いて、それを前もってスタッフに共有しているんです。

どの時点で、映画監督になろうと思ったのですか? 映画は独学ですか?

映画監督になろうというのは、本当にものすごく若い時から決めていました。元々読書好きな子供で、物語を書きたい気持ちもありました。でも、『インディ・ジョーンズ』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズを観て、もう絶対に映画を作りたいって思ったんです。 10歳の時にビデオカメラをもらって、友達とショートフィルム――実写もクレイ・アニメーションもたくさん作り始めました。だから独学とも言えますが、高校生になった時、僕が住んでいたユタ州ソルトレイクシティにある映画制作会社――ハリウッドなどから撮影に来たときにサポートする会社でバイトを始めたんです。放課後、毎日そこに通って、そこで映像制作を学びました。

色んなことに興味津々で、その興味に素直に突き進む、少年がそのまま大人になったような印象のウェストン・ラズーリ監督。本作では音楽も手掛けるなど、芸術方面全般に才能を発揮する、まさに才人。これから、どんな作品を作り続けるのか、本当に楽しみです。

映画『リトル・ワンダーズ』は、もちろんお子さんと一緒に観て欲しい作品でもありますが、大人だけで観ても、子ども時代に戻ったかのようなワクワクを存分に味わわせてくれます。是非、子どもたちの元気でパワフルでユニークな、どこまでも広がる可能性を胸いっぱいに吸い込んでください!

映画『リトル・ワンダーズ

10月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

脚本・監督・製作:ウェストン・ラズーリ

出演:リオ・ティプトン、チャールズ・ハルフォード、スカイラー・ピーターズ、フィービー・フェロ、ローレライ・モート、チャーリー・ストーバー

2023年/アメリカ//114分/配給:クロックワークス

©RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC

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写真:菅原有希子

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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