遺族厚生年金は少し前の常識に沿った制度
政府は今、年金制度の改正について議論を進めています。
中でも大きな話題になっているのが「遺族年金」。遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。
いずれも、死亡した人に生計を維持されていた遺族が受け取れるものですが、遺族基礎年金を配偶者が受け取るには18歳未満の子どもがいることが条件になります。
対して、遺族厚生年金は子がいない配偶者でも受け取れます。ただし、30歳未満の妻は5年間のみ。また、妻を亡くした夫の場合は55歳以上であることが条件で、かつ受給開始は60歳からとなります。
これらを整理すると、「子育てをしていない30歳未満の妻は、自立して働くことができるだろうから5年まで。夫は家計を支えられるだけの収入があるのだから、55歳まで遺族年金がなくても暮らしには困らないだろう」との考え方。つまり、夫が稼いで生計を維持し、妻はあくまで補助的な稼ぎ手に留まるもの」という少し前の常識に沿ったものなのです。
しかし、今や妻も正社員として働く共働き家庭が増え、夫と妻の双方が家計を支え合うのが当たり前になりました。
そのため、夫にだけ適用されてきた55歳以上という要件はなくす。そして、子どものない妻の場合、これまで終身で給付されてきた遺族年金を5年の有期給付にする。それが大きな改正の柱になりそうなのです(なお、18歳までの子どもがいる場合は、子が18歳に達する年度末まではずっと受け取れる)。
こうした改正案が「改悪ではないか」と波紋を呼んでいるのです。
「妻は夫の収入で扶養される立場」はいつまで続くのか
終身で受け取れたはずの遺族年金が5年までになるということは、夫を亡くした子のない妻が5年のうちに経済的な自立ができるかどうか、そこが議論の分かれ目になるでしょう。
配偶者亡き後も続く人生を考えた時、前を向けるように経済力をつけてほしい。しかし、それには社会環境もあります。都市部に住んでいると、女性が男性と肩を並べて活躍できる職場も多いですが、未だに補助的かつ低収入の仕事しか選べない地方もあると聞きます。
政府も、この改正案が実施されるとしても、かなりの時間をかける必要があると認識しており、段階的な変更になると予測されます。
その間に、女性が働く環境の整備や給与水準の引き上げが実現できるかが重要です。
もちろん個々の家庭の事情は様々で、就労が難しいケースもあるでしょう。「これなら正解」という唯一無二の答えを提示するのは至難の業。
だからこそ、今の制度のおかしいところは早急に正すべきだし、「妻は夫の収入で扶養される立場で、夫が亡くなったとしても経済的な自立は難しいだろう」との社会の前提がずっと続いていいとも思いません。
年金制度は複雑で改正案を読み込むのは難しいですが、自分事として関心を持ち続けたいですね。
松崎のり子 Noriko Matsuzaki
消費経済ジャーナリスト
消費経済ジャーナリスト。雑誌編集者として20年以上、貯まる家計・貯まらない家計を取材。「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。
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