今秋2024年10月5日(土)から、印象派を代表する画家クロード・モネの大規模展覧会「モネ 睡蓮のとき」が開催されます(会場は国立西洋美術館、以後は京都市京セラ美術館、豊田市美術館に巡回)。
世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館から、日本初公開作品を含む厳選されたおよそ50点が来日。日本国内に所蔵される作品も加え、過去最大規模の「睡蓮」が集まる展覧会になります。モネが人生をかけたテーマであり、晩年に描き続けた「睡蓮」が集う貴重な機会です。
その記者発表が行われ、展覧会のアンバサダーを務める石田ゆり子さんが登壇しました。モネとの出会いから好きなモネの作品、自身の歌手名義であるlilyとして手掛けた展覧会のテーマソング制作での苦労を語ってくれました。またイベント後の取材では、アートやインテリアへの思い、大好きな照明へのこだわり、モネの作品を部屋に飾るとしたら? という質問にも答えてくれました。
19歳の時にパリで初めて出会ったモネ、心を奪われる初めての体験
―――「モネ 睡蓮のとき」の展覧会アンバサダー、就任おめでとうございます。就任した今の感想を教えてください。
「驚きましたが、夢のように嬉しかったです。いつか展覧会のアンバサダーをやるのが夢でしたし、心の底から好きだったモネの展覧会だったので、こんな“ご褒美”のような仕事はないと思いました」
―――モネの作品を初めて見たのはいつですか。その時の印象を教えてください。
「初めて見たのは19歳の時です。当時、美術関連のテレビ番組の収録でパリのオランジュリー美術館を訪れた時のことです。ふと『睡蓮の間』の横を通ったのですが、あまりの美しさに心を奪われました。その時は違う作品が目的だったため、じっくり見ることはできませんでしたが、あの美しい光景は今でも忘れられません。心を奪われるという経験が初めてだったので、私にとってモネは特別な存在です」
クロード・モネ《睡蓮》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet
展覧会のテーマソング『私のモネ』
―――今回、展覧会のテーマソングも手掛けられていますね。タイトルは『私のモネ』、プロデュースを大橋トリオさん、歌詞と歌唱を石田さんが担当しています。
「歌を歌ったり歌詞を書いたりする活動は、ひっそりとやっているので、このような形で声をかけていただきびっくりしています。もう2度とこんなチャンスはないだろう、生きているうちに経験できないだろうと思ってお受けしました」
―――モネという偉大なる芸術家の歌を作る・詞を書くのには、どんな苦労がありましたか。
「できる限り、モネのありとあらゆる資料、文献や映像を見て、自分の中で理解してなんとか詞に落とし込みました。作曲は尊敬している大橋トリオさん。大橋さんはとても厳しく指導してくださいます。私が歌うことに慣れていないので、とてもこまやかに指導していただきました。俳優と歌手は同じ表現者ではありますが、音楽は当然ながら音階とリズムがある。そして、トリオさんの曲は、たくさんのこだわりがあり、歌うととっても難しいのです! でも、楽しんで歌うことができました」
モネも石田さんも“光フェチ” 美しく見せるための照明のこだわり
―――19歳の時に初めてモネの作品を見たそうですが、これまで見たモネの作品で最も好きな作品は何ですか。もし、モネの作品を家に飾れるとしたら、どこに飾りますか。
「本展には出品されませんが、『印象・日の出』という作品が好きです。空と水面の光の反射がとても美しいんですよね。今回出品される中では、横長の大きな作品ですが『藤』も好きです。モネは、日本美術から影響を受けていて、それがよく出ている作品でかっこいいんですよ。うーん、もしモネの絵と一緒に暮らせるなら、リビングに『藤』…とか…悩みます(笑)」
―――モネは“光の魔術師”と言われ、さまざまな時間帯の光を描いてきました。先ほど、モネの作品で『印象・日の出』が好きとおっしゃいましたが、石田さん自身は、1日の中でどの時間帯が好きですか。
「『印象・日の出』と同じように、夜明けが好きなんです。夜から朝に変わるその一瞬、空が紫から白っぽくなっていく瞬間ですね。それと同じくらい、夕焼け、日没の空も好きです。モネはありとあらゆる時間の光を描いていますから、光のオタクだったんだと思います。同じ睡蓮の絵を何枚も描いて、とても大きな作品もありますから。とにかく光を描きたかったんですよね。私も光や明かりが好きなので共感する部分はあります」
クロード・モネ《藤》1919-1920年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet
―――“光が好き”というのは、家の中での照明でしょうか。どんな光、照明にこだわりがありますか。
「職業柄だと思いますが、どんな照明が自分をきれいに見せてくれるか自然と分かるようになって。“この明るさは美しくない”と選ぶようになりました。自分はもちろん、目の前にいる人が一番美しい状態でいてほしいからというのもあります。私もモネと同じで光フェチなんです。家には蛍光灯がひとつもなくて、上から下に照らす照明も苦手でありません。照明のタイプとしては間接照明が好きです。暗い感じの部屋が好きで、お風呂に入る時もバスルームの灯りを消して、一筋の光が差し込むくらいの明るさで入ることも。明るすぎるのがとにかく苦手ですね」
―――なるほど。家の中に照明を置くときのコツ、ポイントはありますか。
「ペンダントライトは食卓のテーブルの上にだけあって、間接照明が中心です。工夫としては、小さな照明をいっぱい置くこと。ふんわりと優しく灯る明かりを、本棚の中、部屋の隅に置く。壁に向けて照らすのも好きです。私たち俳優は照明さんがいることで美しくしてもらっているので、実は“照明命”なんですよ。照明さんにいつも救われています。いつか、ちゃんと照明の勉強をして、照明のお店をやりたいという野望もあります」
アート作品は同居人。“一緒に暮らそうか”という気持ちで連れて帰ってくる
―――アート好きでインテリアにもこだわりがあり、おしゃれな暮らしが人気の石田さん。家にたくさんのアートを飾っていますが、どんな作品が多いですか。
「私の部屋にあるアートは、現代のアートですね。まだ誰も知らないような若い人を発掘するのが好きで、ギャラリーを訪れたら必ず一作品買うようにしています。私はアートが好きだし、いつもアーティストのパトロンになった気持ちです。パトロンって、あまりいい響きではないのですが、私の中では“支えたい”“応援したい”という気持ち。いろいろなアーティストの作品が家にありますが、どれも“好きな人は好き”、だけど興味がない人には“なんなんだろう”と思うようなものかもしれないです」
―――アートが家にあること、暮らしにアートを取り入れることはどんな楽しさがありますか。心に何か影響を与えていますか。
「アートって、何をもってアートと言うか難しいですよね。写真も彫刻も絵画も、音楽もアートと言われればアート。ただ、ちょっと思うのは“アート”とカテゴライズをした瞬間に、うさんくさくなるというか“言葉にしなくていいのに”と思ってしまう自分もいます。アートって、向き合った時に自分が映し出されるようなものだと思います。アートがなくても生きていけると言う人もいますが、私にとってはなくてはならないもの。あると本当に幸せな気持ちになります」
クロード・モネ《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》1897年 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ(エフリュシ・ド・ロチルド邸、サン=ジャン=キャップ=フェラより寄託) © musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB
―――最近、生活の中で、「これはアートだ」と感じたものは?
「魅力を感じるものは、海の漂流物やウニの殻、ペットボトルのキャップ。キャップもただのプラスチックに見えますが、これが何年も知らない海を漂流してきたりすると、アートになる。たまたま出会ったもの、その人の思いが入るとアートになるのかなと思います。苦手なのは、“アートだから買いなさい”と言われること。“かっこいいから”“飾るために”というのも違っていて、好きなものが集まって気づいたら飾っている。飾るかどうかを決めるのは自分なんですよね。ギャラリーで作品をひとつ持ち帰る時も、同居人みたいな感じで“一緒に暮らそうか”と連れて帰ってくる気持ちなんです」
―――インテリアとアートの関係について。アートを部屋のどこに置くか、石田さんのルールを教えてください。
「私はつい“ろうそく立て”を集めてしまうんですが、ろうそく立てを買ってきた時にどこに置くべきか毎回考えます。普通はキャビネットに入れたり、テーブルの上に置くと思いますが、私の場合、いろいろな場所に置いてみて、“ここじゃないな”“あそこかな”と何時間も動かし続ける時もあります。しっくりくる場所が意外な場所、ポンと適当に置いたところがかわいかったりするんですよね。何かの途中みたいな状態が好きで、“なんでそこに?”というのに惹かれます。その工房みたいな状態、後で動かしちゃうかもという状態が好きです」
感覚で作品を見る まっさらな気持ちでモネの世界に浸ってほしい
―――モネは、晩年に暮らしていたジヴェルニー(フランス北部、ノルマンディー地方)の自邸に作った庭をきっかけに、睡蓮を描くようになりました。石田さんが庭を作るとしたら、どんな庭を作りたいですか。
「庭にはすごく憧れがあるんです。今はテラスに鉢植えで庭を作るしかないのですが、自動換水機を回して水をあげられなくても植物がどんどん育つようにしています。本当に植物がむくむくと茂っていて、その様子にとても癒されています。ハーブやスナップエンドウなどの野菜を育てたり、もらった花束が枯れたら挿し木しておくと、また新しい芽が出てきたり。最近グリーンに興味がある私にとって、モネの庭はすごく魅力的で羨ましいです」
―――モネといえばフランス。石田さんもパリ好きで、これからパリに行くご予定もあるそうですが、パリの好きなところ・パリジェンヌに共感するところを教えてください。
「パリは着いた途端、これ以上幸せなところはない! と思えるような憧れの街です。なぜこんなにもパリが好きなのかと言えば、人が人らしく生きているから。一人一人に自分の軸があって、人目を気にせずやりたいようにやっている感じがあります。フランスではみんなが対等で自分軸があって、うらやましいなと思います。あとマダムがとにかく素敵。歳を重ねた女性が、みんなかっこいいんですよ。年齢を重ねることが美しいことだと思えることは希望だと思います」
クロード・モネ《睡蓮の池》1917-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet
―――最後にアンバサダーとして展覧会へのメッセージをお願いします。
「アートや芸術を見るとき、私は知識や事前情報を入れずに感覚で見るようにしています。モネの作品は予備知識があった方がいいのかな? と思うかもしれませんが、芸術ってもともとそういうものじゃないと思っていて。作品の受け入れ方は千差万別なので、それぞれの見方や感じ方で、まっさらな気持ちでモネの世界に浸ってもらいたいと思います。モネは日本人からとても愛されています。日本に初めて来る作品もあるので、どんな展覧会になるのかとても楽しみです。一緒にモネを楽しみましょう」
石田ゆり子さん Profile●’88年ドラマ『海の群星』でデビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、執筆などで幅広く活躍。2024年連続テレビ小説『虎に翼』では主人公の母親はる役で出演。lily名義で音楽活動も行っている。作詞も担当した展覧会テーマソング『私のモネ』のデジタルシングルをリリース。『私のモネ』の配信はこちらから。lily公式Instagram lily__yuriko 、 lily__yuriko__official.staff
「モネ 睡蓮のとき」
会期:2024年10月5日(土)~2025年2月11日(火・祝)
会場:国立西洋美術館 東京都台東区上野公園7番7号
休館日:月曜日、それ以外に閉館日あり
時間:9:30-17:30(金・土曜日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
料金:当日一般 2,300円ほか / 前売一般 2,100円ほか (前売券は、10/4まで販売)
Staff Credit
撮影/山崎ユミ ヘア&メイク/岡野瑞恵 スタイリスト/岡部美穂 取材・文/武田由紀子
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