LIFE

CULTURE NAVI「BOOKS」

月吹文香、トミヤマユキコ、シゲリカツヒコ

【今月おすすめの本】中島京子『うらはぐさ風土記』他3編

2024.07.03

この記事をクリップする

Culture Navi

BOOKS

今月の注目情報をお届け!

石井絵里さん

Navigator

石井絵里さん

ライター

大好きな画家・熊谷守一の美術館へ。足を運ぶのは4回目。シンプルな構図と色に毎回癒されてます。

『うらはぐさ風土記』
中島京子 ¥1870/集英社

離婚後に移り住んだ武蔵野の地の、過去と未来を描き出す!

『うらはぐさ風土記』中島京子 ¥1870/集英社

物語の世界の中で、季節の移り変わりを慈しんでみたい――。『うらはぐさ風土記』は、そんな豊かな読書体験をさせてくれる一冊だ。ヒロインの沙希は、大学の教員。離婚をきっかけに30年ぶりにアメリカから帰国し、伯父が所有する庭付きの古い家で一人暮らしを始めることになった。

家があるのは「うらはぐさ」と呼ばれる、東京郊外・武蔵野エリアの一角。ここは沙希の母校で勤務先でもある女子大がある土地で、伯父の家にもなじみがあった。とはいえ、久しぶりの日本での暮らしには戸惑うことだらけ。そんな彼女の前に現れるのが、伯父の友人で庭の手入れをしてくれる70代の秋葉原さん。地元の商店街で生まれ育った彼は、定職に就くことはなく、生家で“親のすねをかじりながら”、両親の介護と看取りを経験。今は高齢結婚した妻とともに、自宅の屋上で野菜を育てている。そんな秋葉原さんの生き様に触れながら、同時に沙希は女子大の教え子たちとも授業以外の場で交流を持つようになる。年齢や性別、立場を超えた人たちから刺激を受ける沙希を優しく見守ってくれるのが、庭にある草花や、柿などの植木たち。そしてお祭りなど、地域に根づいたイベントだった。うらはぐさでの暮らしになじみつつある中で、沙希は秋葉原さん夫妻が暮らすエリアが、再開発されるのを知ることに――。

時代の移り変わりとともに、街もその姿を変えていくもの。変わることで便利になる一方で、失われてしまう風情もある。沙希は“みんなが納得いく街の在り方や住まい方は?”と、考えを深める。秋葉原さんや教え子らの行動も、彼女にヒントを与えることに。こうした小さなエピソードが積み重なり、ラストまで読みごたえは十分。個性的な人々が多く登場するこの小説だけど、誰かとゆるくつながって生きるのは、おもしろいのだと思わせてくれる。また、うらはぐさの四季や、沙希の手料理の描写も味わい深い。彼女のように心に余裕を持ちたいときは、ぜひ手に取りたい長編小説。



『赤い星々は沈まない』
月吹文香 ¥1870/新潮社

『赤い星々は沈まない』月吹文香 ¥1870/新潮社

老人介護施設で色気を振りまく入居者・キヌ子と、彼女の世話をしながら夫とのセックスレスに悩む看護師・ミサの姿を描いた表題作(第18回『R-18文学賞』大賞受賞作)をはじめ、中年期を過ぎた人たちの欲望や悩みが収められた短編集。ママ友との付き合い、過干渉な姑などリアルな設定や心理描写が多く、それぞれの物語は短いながらも、作品世界に没頭できる!

『ネオ日本食』
トミヤマユキコ ¥1980/リトルモア

『ネオ日本食』トミヤマユキコ ¥1980/リトルモア

パフェ、たらこスパゲティ、焼き餃子やカツレツなどを「和食に次ぐ、ネオ日本食」と定義した著者。それぞれのネオ日本食の中でこれぞ!と思える店の店主や、製造元に取材を敢行。私たちの生活に根づいていったプロセスや、作り手側の思いを丁寧に綴ったルポ。身近すぎて顧みることのなかった食文化に好奇心を刺激されると同時に、意外な奥深さにハマってしまう!

『きゅうしょくたべにきました』
シゲリカツヒコ ¥1650/KADOKAWA

『きゅうしょくたべにきました』シゲリカツヒコ ¥1650/KADOKAWA

豊かな人物描写と奇想天外なストーリー展開で人気の絵本作家の新作は、小学校が舞台。とある風の強い日の放課後、給食の献立表が飛ばされてしまいます。受け取ったのは天空に住む小鬼たち。人間が食べるおいしそうな給食を一度は食べてみたいと、小学校に食べに行くことに――。微笑ましくもあり、ちょっぴり怖くもなる物語。どうなる給食、どうなる子どもたち!?


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる