私のウェルネスを探して/最果タヒさんインタビュー前編
最果タヒさんが語る「『詩』のイメージを変えたい理由」「何度も読み返したい漫画」
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LEE編集部
2024.06.01
今回のゲストは、詩人の最果タヒさんです。最果さんは、10代からインターネットで詩を書き始め、20歳の時に現代詩手帖賞を受賞。『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(ともにリトルモア)などの詩集をはじめ、エッセイ、小説など20冊以上の本を出版してきました。さらには詩を使った美術館での企画展、ホテルとのコラボレーション、詩のプラネタリウム制作など、詩の魅力を新たなアプローチで発信しています。
前半では、最果さんが詩を書くようになったきっかけと言葉を前向きに捉えられるようになった音楽との出会い、著書出版や自作の詩のグッズ化に伴いデザインに込めた思いを聞きます。また、2024年2月に出版したエッセイ『無人島には水と漫画とアイスクリーム』(リトルモア)について、漫画の原体験や漫画への思いを掘り下げます。(この記事は全2回の第1回目です)
幼少期の夢は「自分で何かを生み出す人」になること
最果さんの幼少期の夢は「何かを作る人になりたい」でした。小説家、漫画家、デザイナー、映画監督。時々によって変わるものの、自分で何かを生み出す人になることを夢見ていました。
「5、6歳で好きだったのは、自分で絵本を作ること。絵を描いて、文章を書いて、テープで本の形にまとめることをよくやっていました。あとは、歌いながら歌詞を書くことや、漫画を描くことも。作るのは一人でできるし、何かコツコツ作るのが性にあっていたように感じて。だから作る人になりたいと思っていたんだと思います」
詩を発信するようになったのは10代の頃。言葉=相手を気遣うもの、空気を読むものというイメージがあり、人と話すのが苦手だったそう。そんな中、ブログやインターネットでみんなが自由に気持ちを書いていること、書きたいことを気ままに書いている様子を見て、「自分もやりたい」と始めるように。
「思いつくままに書いていたら“詩みたいだね”と言われて。それを機に詩を投稿するサイトに投稿するようになりました。そこで、現代詩というものがあることを教えてもらいました。現代詩ってなんだろう?と思って、本屋さんに行き、吉増剛造さん、伊藤比呂美さん、田村隆一さんの詩を読んでみて、そこで”詩がなんなのかはよくわからないけど、でもすごくかっこいい!”と思って、それから現代詩を好きになりました」
BLANKEY JET CITY・浅井健一さんの歌詞との出会いが人生の転機に
詩と出会う前、最果さんが一番好きだったのは音楽でした。中学生になると周りではファッションが好きだったり、アイドルにはまったりとそれぞれが好きなものが定まってくる中、ピンと来るものがありませんでした。そんな中で出合ったのがロックです。「これは私が好きなものだ!」と確信。とりわけBLANKEY JET CITYと出会ったことが人生の転機になったと言います。
「ブランキーの浅井健一さんの歌詞がとても好きなんです。文章って、文脈とか流れがあるのですが、歌詞だとそれがなくて突然飛ぶんですよね。浅井さんの歌詞はその飛び方が本当にかっこよくて、言葉そのものがすごく新鮮に魅力的に見えました。知っている言葉を見たことない使い方をしたり、言葉の印象や距離感が読んだ瞬間に一気に更新されていく。それがすごく面白いなと思って、言葉を書くことってかっこいいなぁと思うようになったんです。それまで、コミュニケーションも苦手だし言葉を前向きに捉えることができなかったけど、それから言葉を書いてみよう、自分で自由に書いてそれを作品としてみようと思うようになりました」
2014年に出版した詩集『死んでしまう系のぼくらに』、2016年の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』、2017年の『愛の縫い目はここ』(全てリトルモア)は、新時代を描く詩集3部作として今でも人気を集めています。2017年には『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画化。その時にお願いしたのは、「詩の内容を補足するようなものにしないで欲しい」でした。
「詩が原作ではあるものの、別の作品に生まれ変わる感覚だったのですごく楽しみだったし、実際にすごく好きな映画になったのは嬉しいです。映画では、私の作品のまわりにある私が知らなかった世界が描かれています。それこそ詩集を出す、本を出すという行為は、出版されたその冊数分いろいろな人生に溶け込んだ、私の知らない読者の生活の物語があると思うんですけど、そういうものの一つが映画になった感覚があります」
詩が本の中だけではなく、日常の延長線上にあると素敵
最果さんは、詩=本という境界線を越え、美術館や図書館での企画展、詩とコラボレーションしたホテル、パブリックアート、プラネタリウムといった今までにない詩の取り組みに積極的に挑戦してきました。
「詩が本の中だけではなく、いろいろな場所にあって日常の延長線上にあると素敵なんじゃないかなと思っています。詩を読もう、と思って読むのではなく、不意に視界に入った言葉を読んでみて、これはなんだろう? でもなんか好きだなぁ……みたいに思ってもらえたら、それはまた新鮮な詩との出会いになるから。2019年に横浜美術館で行った展示では、詩をモビールにしてつるし、言葉が組み換えられる場所を作りました。展示をしませんか?というお話をいただいた時、ただ言葉を展示するだけではなく、その場に来てもらうのだから、その場所でその瞬間にしか見られない詩がある展示の方がいいな、と思いました。それで思いついたのがモビールだったんです。見にきた人が、この言葉の並びが好きだとある一瞬の写真を撮ってくれる。その人が選び取った詩がそこに現れて、素敵だなと思っていました。
詩は、書いた私が『こう読まれてほしい』と全て決めて、一方的に読者に差し出すというよりも、読者がその時に考えていることや気持ちを詩に重ねて、その人だけの詩を心の中に完成させていくものだと思っています。この展示はそうした読者の中で完成していく詩の様子が、実際に形になって現れて、それが私も見ていて楽しかったですし、“私だけの言葉を見つける”感覚が強まる、面白い場所になったと思います」
「詩」のイメージを変えたい、詩を好きになってくれた人の気持ちを大切にしたい
最果さんの本は、ネオンカラーやポップなデザインが印象的で書店や本棚でも一際目を引きます。展示やフェアなど関連するグッズも、とにかくおしゃれでセンスが良く、持っているだけでワクワクする気持ちになります。
「私がかわいいものが好きだというのもあるのですが、『死んでしまう系のぼくらに』を出す時、担当編集者さんに“詩集らしい本じゃなくて素敵な可愛い本にしたい”と相談して、当時tumblrでデザインをよく見ていたデザイナーの佐々木俊さんにお願いしました。その後、佐々木さんにはグッズや展示のデザインでもたくさんお世話になっています。佐々木さんは詩をどんと前に出しながら、デザインとして本当にかっこいいものを作ってくださるので、いつもとても仕上がりが楽しみです。詩に対して夢見ている人に対して、誠実なデザインをしてくれるんですよね」
そこには長年感じていた詩のイメージを変えたい、詩を好きになってくれた人の気持ちを大切にしたいという思いがあります。
「人は現実的なことばかり考えていても多分生きていけなくて、どこかで夢を見ること、何かを信じ抜くことを大切にしているように思います。たとえ役に立つものではなくても、夢を見ているからこそ、暗闇に一つ星が見える夜のように、何にも先が見えない道をまっすぐに歩めることってあると思うんです。詩が、そうした夢や信じるものになることもあると私は思っています。詩を読んでくれている人が、詩集を手に取るときにここになにかがあるって信じる気持ちや、そこに見出している夢そのものに、書く私は誠実でいたい。詩を素敵だと思ってくれている人が手に取ってくれるなら、詩を素敵だと思ってくれるその気持ちに正面から応えるようなものが作りたいです。詩を読むことが嬉しいこと、素敵なことだと思っている人の気持ちを大切にしたいと思っています」
「漫画」をきっかけに、人生や価値観を違う角度から切り取る読書体験を
最果さんの新たな一面、漫画への思考を掘り下げるエッセイが『無人島には水と漫画とアイスクリーム』(リトルモア)です。セレクトショップを運営するアパレル企業・BEAMSが発行するカルチャー誌『IN THE CITY』及びウェブメディア『Be at TOKYO』で連載されていた漫画エッセイを一冊にまとめた本です。漫画史に残る傑作から近年のヒット作まで、最果さん自身が取り上げたい漫画を選び、思いを綴っています。
「漫画はジャンル問わず何でも読みます。このエッセイで取り上げた作品は、ずっと大好きだった作品もあれば、つい最近読んで、どうしても書きたいことがある!となって選んだものもあります。漫画って、登場人物に共感したり反感しながら読んだりすることが多くて、それが物語の楽しみ方として面白いんです。何度も読んで、何度もその人物のセリフや行動を反芻して、突然ああこういうことなのかな、ってその人物に心を重ねることができる瞬間が嬉しくて。『半神』(萩尾望都著/小学館)についてのエッセイはそんな感じで、作品のことを考えて、考え抜いて書きました。
一方で、自分の見てきた風景の中にある漫画として、自分の人生ごと振り返って書いたものもあります。『ちびまる子ちゃん』(さくらももこ著/集英社)についてのエッセイはまさにそんな感じでした。どのエッセイも、漫画の紹介というよりは、自分の人生とか価値観を漫画をきっかけに違う角度から切り取って、一人の読書体験として描いていくような書き方をしています」
漫画を思い出すと、読んだ時の光景と気持ちを思い出す
最果さんが漫画と出会ったきっかけは6歳くらいの頃。初めて読んだ漫画は、『動物のお医者さん』(佐々木倫子著/白泉社)と『ちびまる子ちゃん』でした。
「近所に住んでいたお姉さんからもらったのがきっかけでした。漫画がない家だったので、お姉さんからもらった漫画と図書館で読んだ『らんま1/2』(高橋留美子著/小学館)が最初でしたね。その後、『なかよし』(講談社)を買ってもらえるようになって、『怪盗セイント・テール』(立川恵著)とか『美少女戦士セーラームーン』(武内直子著)、『ミラクル☆ガールズ』(秋元奈美著)を読んでいた記憶があります。その後は漫画を読むことがあまり多くなかったのですが、大学生になりアルバイトで稼いだお金で漫画をまとめ買いをするようになって。間が空いていた分、みんなが読んでいた漫画を知らなかったりしつつも、大人が好きな『動物のお医者さん』とかは詳しかったりして。10代の頃は漫画の話をすると少しみんなとズレがありました」
漫画と自身との関係は、いわば人生の1シーンを共にするもの。漫画を思い出すと、その時の光景と気持ちを思い出すと言います。
「自分にとって漫画は、電車から見えた景色が綺麗で忘れられなかった、みたいなもの。そんな感覚の漫画がたくさんあるんです。気持ちが動いた瞬間の自分の思い出、それが作品を大事に思う理由や何度も読み返したい漫画になる。漫画は、自分にとっての愛用品、愛着のあるもの。人生の一部にあるものとして受け止めています」
My wellness journey
私のウェルネスを探して
最果タヒさんの年表
1986
生まれる
2004
インターネット上で詩作を始める
2006
現代詩手帖賞を受賞
2007
第一詩集『グッドモーニング』(新潮社)を出版、中原中也賞を受賞
2014
『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)を出版、現代詩花椿賞を受賞
2016
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)を出版(2017年に映画化)
2019
横浜美術館での企画展「詩になる直前の、横浜美術館は。 ―― 最果タヒ 詩の展示」を開催。HOTEL SHE, KYOTOとのコラボによる、コンセプトルーム「詩のホテル」を手がける
2020
絵本『ここは』(及川賢治/絵、河出書房新社)を出版
2024
KYOTO TOWER SANDO(京都タワーサンド)でのパブリックアートの展示。エッセイ『無人島には水と漫画とアイスクリーム』(リトルモア)を出版
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