私のウェルネスを探して/ツレヅレハナコさんインタビュー後編
【ツレヅレハナコさんのフルオーダー台所拝見】夫の看取りを経て「今までの自分ならやらないことばかりしてきた」理由
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LEE編集部
2024.03.01
引き続き、ツレヅレハナコさんのインタビューをお届けします。
取材はツレヅレさんの自宅で行われました。2020年にツレヅレさんが自分で建てたこの家は、1階に土間を備えた玄関ポーチと仕事部屋、2階にはリビングと台所があります。日当たりのいいリビングはあたたかく、台所は北側にありどこか隠れ家のような雰囲気が漂います(インタビュー前編に写真掲載)。台所に一歩足を踏み入れると、台所道具や愛用の食材がぎっしりと並び、新しいのに不思議と使い込まれた居心地の良さを感じます。
ツレヅレさんの著書は食にまつわるものがほとんどですが、2020年に出した本『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)は違います。住み慣れた賃貸マンションから卒業し、フルオーダーで家を建てる奮闘を記録した一冊です。
後半では、建築家との偶然の出会いから建てた一軒家完成までの物語と、37歳の時にガンで亡くした夫への思いをお聞きします。「自分はこうである」と決めつけることをやめ、新しいことに挑戦し続けた10年。ジム通い、免許取得、いくつになっても人は変わることができると教えてくれます。(この記事は全2回の第2回目です。第1回目を読む)
一生賃貸でいいと思っていたので、まさか自分が家を建てるとは思ってもいなかった
「一生賃貸でいいと思っていたので、まさか家を建てるとは思ってもいませんでした。おそらく結婚はしないから住むのは1人だし、フリーランスだから家で仕事することになるだろう、と。知り合いの建築家さんに“高い家賃を払うのはもったいない”“中古マンションを買った方がいいのでは”と言われたことがきっかけでした。
で、探してみたものの理想的な物件が見つからず、希望の条件だけははっきりしていたので“じゃあ自分で建ててもいいのでは?”と提案してくれました。“私に家が建てられるんだ!”と驚きつつ“すべてオーダーできるなんて面白そう!”と思い、決断しました」
台所が好き過ぎて、台所に住みたい! こだわりをぎゅっと詰めたシステムキッチンをフルオーダー
建築家との出会いから4ヵ月後には理想の土地と出会い、1年5ヵ月後には新居が完成。ツレヅレさんが長年“台所に住みたい”と言っていた願いを実現した台所が完成しました。場所は2階北側の奥、横からやわらかい光が入る採光窓、重厚感のある総ステンレスのシステムキッチンはフルオーダーです。ステンレスは北海道の工場にまで足を運び、仕上がる工程まで見守りました。
「最近のキッチンは家の中心部の明るい場所に置き、人と会話ができるアイランド型がトレンドですが、私は料理に集中したいから奥まったクローズドのスタイルが好み。料理や作業がしやすいようL字型の広い作業台が欲しくて、かつ天板の奥行きは深めの75cmにしたい。コンロの右側の空きスペースは30cmにするなど、たくさんのリクエストを盛り込みました」
他にも、コンロの高さをシンクより5cm低くする、シンクは洗い物と野菜を分けられるよう2槽式に。シンクの上の飾り棚には、ほこりがたまらないようにアクリル板の引き戸を設置。これらのアイデアは、ツレヅレさんが仕事を通じてたくさんの台所を見てきたからこそ学んだことでした。
「みんなに“家を建てた方がいい”とは言いませんが、その選択肢も自分にあるのかも?と考えてみるのも良いかも。ゼロから家を建てるのは大変でしたが、とにかく楽しくてワクワクでしたね。予算の都合があるので全てを採用することはできませんでしたが、何をやめて何を残すか、一つひとつ優先順位を考えて決める作業をしました。人って、そこまで考えることってあまりないですよね。自分をとことん見つめ直したからできたことで、新しい自分に出会えるような経験ができました」
結婚7ヵ月で夫のスキルス胃がんが発覚。1年半の自宅看護を経て、夫を看取る
ツレヅレさんは、2013年にスキルス胃がんで夫を亡くしました。結婚して7ヵ月で夫の病気が発覚、1年半の自宅看護を経て、夫を看取りました。
「人生で一番つらい経験でしたが、あれから10年が経ちました。出会って3ヵ月で結婚して、普通の生活ができたのが1年半。その後の1年半は闘病生活でした。当時ブログでそのことを書いたら“私の夫も同じ病気になってしまった”と連絡をくれた方がいたのですが、その後すぐに亡くなってしまったと連絡がきて。スキルス胃がんは、見つかった時はもう末期なんですよね。そう考えると、1年半でいろいろなことができたのは本当に良かったと思います。癌って、すごく痛いし辛い。そんな時に彼が一人じゃなくて良かったと心から思っています」
外食や食べ歩きが好きなツレヅレさんに、闘病中の夫は「なるべく今まで通り過ごしてほしい。ハナちゃんにはしょぼしょぼしていて欲しくないから」と言いました。
「私は普通に家でご飯を作って食べていましたが、彼はどんどん食べられなくなる。私が食べているのを、横で見守ってくれる感じでした。本当は辛かったはずですが、ほとんど泣き言を言いませんでした。病気や自宅看護、病院のこと、あまりすることのない経験ができたと思っています」
家を建てる、筋トレとジム通い…この10年、今までの自分ならやらないことばかりしてきた
家を建てることも含めて、この10年は「今までの自分ならやらないことばかりをしてきた」と振り返ります。昨年から始めたのがジム通いです。もともと運動はしないタイプでしたが「筋力のあるおばあちゃんなりたい」と思い、最初の1ヵ月はパーソナルトレーナーをつけて、今では週2ペースを目標に通っています。
「筋トレもジムも未知の世界でしたが、やってみると意外と楽しくて。大人になると、フィジカルな変化って少なくなりますよね。新しくできることがどんどん減っていく中で、筋トレは昨日まであげられなかった重量が上げられるようになる。それがリアルに感じられるのが嬉しいんです。
ジム友達もできて、どんな筋トレ動画を観ているか、筋肉のために何をしているか情報交換もして。一緒に飲みに行くこともありますよ。筋トレしている人って、基本お酒を飲まない人が多いんですが、私が仲良くなった人は普通にお酒好きで。居酒屋でイカの丸焼きとか、高タンパク低脂質のつまみを注文しています。筋肉と食べ物って、実はすごく関係がありますからね。筋肉を作るのに玄米がいいと知って、主食も玄米に変わりました」
43歳で運転免許取得。「挑戦する」「変わろうとする」ことを意識的に続けたい
毎日のルーティンとして続けているのがウォーキング。1日1万歩を目標に、目的地の2駅前で降りて歩いたり、朝一番に30分の散歩に出たり。初めて降りた街を歩くことで、知らなかった街の景色に気づいたり、気になるお店や飲み屋を見つけることも。新しい趣味として楽しみが増えたそうです。
「うっかり飲みに寄ってしまうこともあるんですけどね(笑)。朝の散歩は、隣の駅前のコンビニでコーヒーを買って帰ってくるだけなんですが、片道15分の往復30分。朝日を浴びてウォーキングをすることで夜もしっかり眠れるようになり、いい循環ができました。自分の体をなんとかできるのは自分だけ、できることを続けられたらいいなと思います」
年齢を重ねることで、好きなものややりたいことが変わらなくなる。だからこそ、“挑戦する”“変わろうとする”ことを意識的に続けたいとツレヅレさんは言います。
「絶対に自分はこうである、自分はやらない・自分とは縁がないことだ、と切り捨てるのをやめました。石垣島に10年以上通って、ずっと海に行かなかったのですが、人との出会いで突然海で泳ぐようになって。“免許があれば、自分が行きたい場所に一人で行ける”と気づき、免許も43歳で初めて取りました。人はいつでも変われるんです。小さなことでもいいい、なんでも試しにやってみる。そうすることで新鮮な気持ちになるし、違う世界が見えてくると思います」
My wellness journey
ツレヅレハナコさんに聞きました
心のウェルネスのためにしていること
「新しいことをやる。これまでの自分がやらなかったことをやることで、意識が変わると思います。人はいくつになっても新しいことに挑戦できる。わくわくする気持ちを大切に、まずはやってみようと面白がる気持ちを大切にしています」
体のウェルネスのためにしていること
「ジム通いとウォーキングです。ジムに通うのは週2回が目標。忙しくなるとついサボってしまいがちなのですが(笑)筋肉がついたおかげで、疲れにくく太りづらくなりました。ウォーキングは、まず朝起きてすぐに30分歩きます。寒いし、すぐに家を出るのって本当に辛い。だけど朝の空気が本当に気持ちがいいんです。それでなんとか続けられています」
インタビュー前編はこちらからお読みいただけます
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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