東京都世田谷区に現存する洋館の中でもっとも古いといわれる、豪徳寺の「旧尾崎テオドラ邸」。築135年の貴重な建物が、ギャラリー、ショップ、喫茶室を併設する館「テオドラハウス」として2024年3月1日(金)にオープンします。
LEEwebでは、前編(「マンガ家が「世田谷イチ古い洋館」の家主になるまで」)に続きマンガ家・山下和美先生のインタビューをお届け。『世田谷イチ古い洋館の家主になる』(全3巻)で描かれた洋館の「その後」の姿についてうかがいました!
マンガ家の作品展ができるようなギャラリーに
――マンガ家さん繋がりのメンバーで残すことになった洋館。ご自身で「こんなふうに改修したい」といったイメージをお持ちだったのですか?
山下先生:私と笹生さん(笹生那実さん。新田たつお先生の妻でありマンガ家。主な作品に『薔薇はシュラバで生まれる』、『すこし昔の恋のお話』)で話し合って、やっぱり「館を館らしく残したい」ということを第一に考えました。
山下先生:私たちが死んでいなくなった後も、館らしい形で残ってくれるようにするのはどうしたらいいのかを考えていくうちに、「ギャラリー」という形にたどり着きました。
画廊の方から「ギャラリーを観にきた方は、買ったグッズなどを喫茶店で見せ合うんですよ」とアドバイスをもらって、喫茶も作ることに。他にもまだ部屋があったので、そこを写真撮影のお部屋にすれば完璧じゃない?と。
山下先生:知り合いの少女マンガ家さんたちともいろいろと話してみたんですけど、やっぱり反応はいいですよね。今小さな画廊で個展をやってらっしゃるマンガ家さんが結構多いんですよ。そのあたりと繋がりを持って、個展をひらけたらいいですね。
ほかには、「北九州市漫画ミュージアム」とも連携する予定があります。「北九州市漫画ミュージアム」で開催される展示の一部を東京に持ってくる際に使ってもらう。まず決まっているのは、「文月今日子展」です。
あとは、北海道で設立を検討しているマンガミュージアムとの連携もしたいと思っていて、北海道にゆかりのあるマンガ家である大和和紀先生(主な作品に『はいからさんが通る』、『あさきゆめみし』)とも連絡をとっています。
――ギャラリーの企画、とっても楽しみです。私たちも洋館に足を踏み入れられるチャンスが!
山下先生:最初のうちはマンガ展中心なので、どうしても予約制になってしまうんですが、状況を見て変えていこうと思ってます。いずれは、一般の人にも普通に楽しんでもらえうような感じでやれたらいいですね。予約は公式ホームページでできるようになる予定です。
洋館を残すための費用としてマンガ家さんたちから借りたお金を返していかなきゃいけない、という事情もあり、収益も必要。最初はギャラリーでの展示が中心で、予約制からのスタートでやっていきます。
照明や椅子……ディテールまで家主たちが厳選
――ギャラリーもですが、喫茶もすごく気になります。どんなお店になりそうですか?
山下先生:英国のイメージで考えているので、アフターヌーンティを考えています。腕のたつパティシエさんが来てくれることになったので、メニューも自社で焼こうかと計画中。
――インテリアも楽しみです。
山下先生:館の基本はビクトリア調ではあるのですが、きわめてシンプルな建物なんですよね。私の中では、英国にある建物というよりは、インドやアフリカにある大英帝国領の公館、領事館みたいなイメージを持っていて。だからそういった雰囲気を植物で出せたらいいなと思っています。
――先程、館内で「ここの照明は実際につけてみたらちょっとイメージと違ったので、別のものを購入して付け替える予定」など細かい説明してくださいましたよね。改修費を用意したら、建築やインテリアのプロにおまかせ……みたいな流れを想像していたのですが、マンガ家のみなさんが自ら家具をセレクトし、購入までされていることに驚きました。
山下先生:細かい部分も笹生さんやみんなと選んでいますね。トイレにシャワーノズルをつけるかどうかなんかも意見が割れたので、みんなで多数決で決めたり……。話し合いながら、館のイメージに合うものをひとつひとつ選ぶようにしています。
山下先生:照明なんかは、ネットで古い年代のものを見つけて購入してみたり。ただ実際につけてみると、天井の高い空間には合わなかったり……なんてこともありまして、また買い直したりと、本当に手探りの状態でひとつひとつ慎重に決めています。
海外でも注目されている旧・尾崎邸
――洋館の天井の高さに驚きました。洋館の最初の持ち主といわれている、尾崎行雄の妻・尾崎テオドラさんはここにベッドを置いて寝ていたのでしょうか?
(※尾崎テオドラ……ワシントンDCに日本の桜の木を寄贈したことで知られる尾崎行雄元東京市長の配偶者。尾崎テオドラ自身は、日本の民話を英語で書いた数多くの本の著者としても知られる人物。洋館は、尾崎テオドラの父により、テオドラのために建てられたものといわれています)
山下和美『世田谷イチ古い洋館の家主になる』第2巻 P.41/ⓒKazumi Yamashita 2022/集英社
山下先生:そこは断定できないんですよね。当時のことはよく分からないので。でも新築時の記録だけは残ってます。館を建てたテオドラさんの父、男爵・尾崎三良の日記が書籍として残っているのですが(尾崎三良著『尾崎三良自叙略伝 中巻』中央公論社)、それによると新築披露会を催した際は、伊藤博文などそうそうたる顔ぶれが館に集ったようで。
住居というよりも、公館のようなイメージで、社交の場としても利用したかったのかもしれません。館が建つ数年前に鹿鳴館が建っているので、そのイメージもあったんじゃないでしょうか。
その後、所有者が変わってからは一部屋に何家族もが住んでいたこともあったようですが。昭和の頃も、たくさんの人が出入りしていたみたいですよ。
――尾崎テオドラさんのために建てた館、海外からの観光客で興味を持つ方も多そうです。
山下先生:館の存続で力を貸してくださっている世田谷区議会議員の方曰く、ワシントンでは「尾崎行雄、尾崎テオドラの2人を知らない人はいない」というくらい有名なご夫妻だそう。そんなこともあって、洋館保存に向けた運動を知ったワシントンの人は、今も変わらず応援してくれているとのことです。ですから、興味を持って応援してくださった海外の方も、ネットで来館予約ができるようにしたいですね。
海外の方からマンガ作品についてのインタビューもされますが、みなさん、館に興味を持っていらして。いろいろと質問されますね。
ただ建物自体は、西欧の方にとってはごく普通の家に見えるでしょうね(笑)。“洋館”は日本独特の表現。明治時代の日本で建てられたからこそ、価値がある建物なわけで。
――なるほど。海外の方で、この洋館の歴史を知る人にとっては興味深いスポットになりそうです。洋館から徒歩2~3分の場所にある豪徳寺も、外国からの観光客が多い場所ですし、一帯が観光の新名所になりそうな気も。
山下先生:豪徳寺に行ったついでに寄っていただけるような場所になったらいいですね
――楽しみです。最後に……! 山下先生の著書では『数奇です!』で本格的な和の家を建て、『世田谷イチ古い洋館の家主になる』で憧れの館の家主に。家との深い縁が続く山下先生ですが、これからまたさらに家とのアレコレが起こる可能性を期待してもよいでしょうか?
山下先生:コリゴリですね(笑)。だってさ、まだ借金が残ってる(笑)。 マンガ家の先生たちにお金を返せるよう、まずは館の運営を軌道に乗せたいと思ってます(笑)。
▶保存活動の気になるその後は!? 洋館オープンまでの激動と衝撃の道のりを描いた『世田谷イチ古い洋館の家主になる』特別読切が、「グランドジャンプ」7号<3月6日(水)発売予定>にて掲載!
旧尾崎テオドラ邸
INFORMATION
マンガ家が出資し、経営する世界初の試み「旧尾崎テオドラ邸」 が2024年3⽉に「テオドラハウス」としてグランドオープン! 歴史を感じる⾮⽇常空間で、ギャラリーやお茶を楽しめます。
1階:喫茶室、ショップ
2階:ギャラリー:マンガを中⼼とした展⽰
グランドオープン:2024年3⽉1⽇(⾦)
所在地:東京都世⽥⾕区豪徳寺2-30-16
営業時間:10:00〜18:00(最終入館は17:30まで)
休館日:木曜日
詳細:営業日、予約方法は公式サイトでチェック 旧尾崎テオドラ邸公式サイト
Staff Credit
撮影/柳 香穂
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