世界の一流どころが一堂に会した豪華なショー
例年、冬が近づくと世界中でその年の優れた映画や音楽を称賛する“賞レース”がはじまり、ショービズ界はにわかに色めき立ちます。その中でも、エンターテインメント映画の最高峰として世界中から注目を集めるのが、アメリカで行われるアカデミー賞。今年もノミネート作品が出そろい、いよいよ授賞式が目前に迫ってきました!
日本時間の2月27日(月)の午前10:00~(現地は26日)、WOWOWが生中継で送る第89回アカデミー賞授賞式の案内役を務めるアナウンサーの高島彩さんに、今年のアカデミー賞の見どころ、注目ポイントを教えていただきました!
そしてもちろん、2人のお子さんのママでもある高島さんに、“映画と子育て”についてもたっぷり語っていただいたので、最後までお楽しみに‼
――今年も授賞式まであとわずか。ワクワクしますね!
「アカデミー賞授賞式って、単なる“賞を与える式”ではなく、司会者、授賞式の舞台を作り上げる技術者、その構成も本当に凝っていて、そしてもちろん大スターなど世界の一流どころが一堂に会した、素晴らしい一つの“ショー”になっているんです。
まさか「サウンド・オブ・ミュージック」を歌うレディ・ガガを、ジュディ・アンドリュースが現れてハグする(一昨年の第87回で)なんて、思いませんでしたから!
簡単には見られない、触れられないものが凝縮されているので、授賞式を観るだけで、すごく得した気分になれる。これを観ないのは勿体ないですよ!」
――今年、一番の話題と言えば、やはり……。
「『ラ・ラ・ランド』の史上最多13部門14賞ノミネートが、どこまで賞につながるかですよね。
歌って踊れて演技も上手い主演女優のエマ・ストーンは、きっと受賞すると思うのですが、主演男優のライアン・ゴスリングは、アカデミー会員の大半を占めるオジサマたちのやっかみで、もらえないのではないか……とか(一緒に案内役を務めるジョン・)カビラさんが言ってました(笑)。
そんな風に本筋とは別のところで賞を予測するのも、アカデミー賞の楽しみですよね。
私も既に拝見させていただいた「ラ・ラ・ランド」は、オープニングからタイトルが出るまで、それだけで壮大な長回しの一本の短編映画を観たような感動というか驚きがあって、心を掴まれたまま、映画の物語に突入しているんです。
そして最後まで心を揺さぶられたままキュ~ンとして、少しビターな終わり方をするからこそ、“そうそう、人生ってこういうことがあるよね”と共感し、切なくて涙が出てしまって。でも心地よさが残って、「こういうの好き!」と素直に乙女になっちゃいました(笑)。こういう楽しさがあるから映画が見たいのよね、という感覚を久々に味わった作品です。
スターが大切に思うことを主張するスピーチにも注目!
――他にも、注目作が目白押しですが、今年の特色としては、どんなことを感じますか?
「次いで多い8部門ノミネートの『メッセージ』や『ムーンライト』も、もちろん注目しています。気になる『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も近々観る予定を立てています。
また、子供が5歳で迷子になっちゃう『ライオン ~25年目のただいま~』も、ストーリーラインを聞いただけで、母親目線では簡単な気持ちでは見られない、もう顔がぐしゃぐしゃになりそうだな、と思います。
全体的な傾向としては、“白すぎるアカデミー賞”と批判された昨年の反省か反動か、実にバランスよくどの主要部門にも、黒人の方や有色人種の作品を入れているのを感じますね。
改善されたと見るべきか、純粋に作品の質を見極めたことになるのか、難しいところですが、有色人種がたくさん入っていようが、一人も入らない年があろうが、だれも何も言わない、気にならないくらいの状態になればいいなぁ、と思いますね」
――世相を映すのもアカデミー賞ならではですね。
「スターが守りに入らず、その場だからこそ政治的なことも含めて世界に向けて発信するスピーチも、毎年大きな見どころですよね。特に今年は、トランプ政権になって、アメリカが抱える多様性に対する差別や意識がどう反映されるのか、それに対してどうスターが反応するか、生のリアクションが見られるのも楽しみです。
今年の司会者も、トランプ政権に対して言いたいことがあるようですし。誰がどのようなメッセージを発し、それが人々にどう伝わるか、またトランプ大統領がどうツイートするのかも楽しみですね(笑)。
日本では、とても公の場で国のトップを批判するようなことはできないけれど、アメリカは主張する文化ですからね。刺激的なスピーチを期待したいです。
個人的には歌曲賞のパフォーマンスが楽しみです! 『ラ・ラ・ランド』で2曲ノミネートされている楽曲がどう出てくるのにも注目しています」
言葉で教えられない時の「助けて!映画!」(笑)
――ノミネート作品の中で子供と一緒に観た作品はありますか。
「『ズートピア』くらいかな。最初は子供のために観たのですが、多様性みたいなことをアニメの世界に落とし込み、動物に変えて伝えてくれていて、大人の方がむしろ夢中になっちゃって(笑)。
もちろん子供もキャラクターの可愛さ、場面転換の面白さなど、食い入るように見ていました。子供にはちょっと激しいシーンや痛々しいシーンなども、一緒に観て、感情が揺れ動いている時間を共にすることがすごく大事だなと思っているんです。
長女は間もなく3歳ですが、虐められるとか、それに立ち向かって自分で超えていくことの大切などを、漠然とでもキャッチしてくれている感じがしました」
――確かに映画って、子供の心をうまい具合に育ててくれる面がありますよね。
「すごくあると思います。子供の人格を形成していく上で、私はまず「いいものはいい、悪いものは悪い」と、ベースで善悪をしっかり教えないといけないと思っているんです。
でも、そのどちらともいえないグレーの部分ってありますよね(笑)。それを言葉で伝えようとすると、子供が混乱してしまう。「さっきは悪いものは悪いと言ったのに…」と。
そういう言葉でハッキリ説明できるものではなく、なんとなく感じ取るものを映画から学んで欲しいと思っています。カクカク線引きしてしまうと、人にもそういうことを強いる人間になってしまうし。
そうじゃないこともあるとか、傷ついたときの人の気持ちを感じるとか……。いわゆる心の豊かさ、柔軟さというか、言葉で教えられない時の、「助けて、映画!」みたいな感じです(笑)。」
――お子さんたちが好きな作品と言えば?
「そうなると、やっぱりジブリ作品ですね(笑)。『となりのトトロ』と『千と千尋の神隠し』は、なぜ子供って同じのを見たがるんだろうと不思議になるくらい、数回レベルではなく、何十回と観ています。
先日、公園で遊んでいたとき、どんぐりが落ちていて、そこに風が強く吹いてきたんです。そうしたら娘が、「ママ、トトロ、来るかも」って言ったんですよ。それがもう可愛くて(笑)!
私なら日常生活で、風が吹こうがドングリが落ちていようがトトロを連想するなんてありえないけれど、風とドングリでトトロを連想するって‼と。でも、一緒に私も『トトロ』を観ていたので、「そうだね~」とトトロの話ができたんです。
その時も、子供に映画を見せるだけではなく、一緒に観ることが大事だなと思いましたね。それによって会話が発展し、親子の大切な時間になるんだな、と実感しました。色んな映画、特にジブリ作品などの自然の描写って、子供の感覚や脳を刺激してくれるんだなぁ、とつくづく思いましたね」
旦那様とも、お子さんたちが寝静まってから、TVでやっている映画を一緒に観ることが多いですね、と語る高島さん。「そういう意味でもWOWOW、重宝してるんですよ」と控えめにアピールしてくれました! 高島さんが語る、子供の心をはぐくむ“映画育”、映画ライターの筆者ももちろん実践中です!
最後に、お話には出てきませんでしたが、脚本賞にノミネートされている“家族ドラマ”をご紹介。
前作『人生はビギナーズ』では自身の父親を描いたマイク・ミルズ監督が、6年振りの待望の新作で、自身の母親をテーマに家族ドラマを紡いだ注目作です。
思春期の息子の成長に悩むシングルマザーにアネット・ベニング。その他、『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグ、『ネオン・デーモン』のエル・ファニングなど、今をときめく魅力的なキャストが揃いました。
さらに監督の分身とも言える少年ジェイミーを演じた美少年ルーカス・ジェイド・ズマン君の、瑞々しい麗しさにも注目です!
トーキング・ヘッズ、デヴィッド・ボウイ、バズコックスなど、作品を彩る音楽世界にも酔える本作。後日、詳しくご紹介したいと思います!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。