『PERFECT DAYS』

穏やかな日々に潜む諦念と哀情。それでも人生は美しい

名匠ヴィム・ヴェンダース作品と聞けば興味を惹かれずにいられないが、誰が“トイレ掃除をする男の話”と聞いておもしろいと想像する!?　ところがそんな男の毎日が観飽きず、いつしか羨望さえ覚え、ある瞬間、胸を刺す切なさに落涙してしまう――。なるほどカンヌ国際映画祭エキュメニカル審査員賞＆役所広司の最優秀男優賞受賞とは、こういうことか！　年末年始を飾る一作として、胸を射抜かれてほしい。

古いアパートで一人暮らしをする平山（役所）は、夜明けに外を掃く竹ぼうきの音で目覚め、ふとんをたたみ、歯を磨き、作業着に着替え、道具が積み込まれた車で仕事に向かう。そしてテキパキと丁寧に都内の公衆トイレを掃除して回る。遅刻してきたタカシ（柄本時生）は悪びれる風もなく、平山に話しかけてサボってばかり。責めるでもなく平山は、淡々と仕事を続けていく。

公園や境内で木々や空を見上げて昼食を済ませ、夕方には自転車で銭湯へ行き、地下の飲み屋で夕飯を兼ねて一杯飲み、ふとんの中で眠くなるまで本を読む。日曜日は居酒屋に行き、ママ（石川さゆり）と少しだけ言葉を交わす。穏やかな平山を、ママも憎からず思っているようでもある。そしてまたいつもの朝。こざっぱりきれいなほど繰り返される同じ日常。しかしある日、母親とケンカした姪がアパートに転がり込んでくる。

朝焼け空、木漏れ日、住職との目礼、窓辺の植木鉢、小さなスタンドの明かり、チャリンと小銭を置く音さえ心地よく、邪念も無駄もない穏やかな日々に心が研ぎ澄まされる感覚に。しかし娘を迎えに来た平山の妹との短い再会で、彼が手放したものが照射され、平山から漏れる激情にハッと胸を突かれる。抑えてきたその深さに気付いた刹那、それまで平山が慈しんできた草花の成長や自然への愛しさが、さらに輝きを増して心にしみてきて涙が止まらなくなる。あぁ、なんて人生は厳しく、でも美しいのか。ヴェンダースが東京を舞台に放つこの傑作、役所広司のスゴさにも痺れる。ユニークな公衆トイレも必見！

12月22日より全国ロードショー

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『ショータイム！』

この実話には、驚きと夢がある！　フレンチ人情ドラマ

経営難で農場差し押さえの危機に瀕したダヴィッドが、ふらりと訪れたキャバレーでひらめいた！　“広い納屋を改装し、夢のようなキャバレーを作るぞ”。母や元妻にあきれられながらも、改装やパフォーマー集めに奔走。ついに計画が軌道に乗り始めるが。楽天的なダヴィッド、個性豊かな面々にクスクス笑い必至。ワケアリな人たちが個性全開でパフォーマンスする姿にもワクワク！　田舎の厳しい現状も差し込みつつ、そこでキャバレーが希望になりゆく実話には笑いと感動が一杯！

全国順次公開中

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『ブルーバック　あの海を見ていた』

皆、身に覚えのある母娘のすれ違いや強い想いに感涙！

若き海洋生物学者アビー（ミア・ワシコウスカ）は、母が倒れた報を受け故郷に戻る。海を一望する家に口がきけなくなった母を連れ帰ったアビーの脳裏には、子ども時代～家を出るまでの母との生活がよみがえる。環境活動家の母と潜った海で巨大な青い魚“ブルーバック”と出会ったこと。母の教えや信念、愛しさと近づく別れの足音に、思わず鼻の奥がツンとなる。環境問題も含め、今観るべき一作。オーストラリアのまばゆい海の世界を体感できるのもたまらない。

12月29日より全国順次公開

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。