大人にとっても魅力たっぷり
今、絵本ブームがきています!新世代作家・しおたにまみこさん、かねこまきさんが初対談
2024.01.10
大人が読んでもじわっとくる
ひたってみませんか?
「新世代作家」 の絵本の世界
色使いや構図、お話のおもしろさ…。今、大人がさらに夢中になれる新感覚な絵本が次々と世の中に登場中! LEEイチ押しの新進作家の対談を通じて、あなたも絵本沼にハマること請け合いです!
Profile
かねこまきさん
上智大学外国語学部ポルトガル学科卒業後、会社員などを経て絵本創作を学ぶ。第18回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞受賞。2019年『ちゃのまのおざぶとん』で絵本作家デビュー。『めんぼうズ』で第14回ようちえん絵本大賞受賞。
今、注目の絵本作家のお2人が初対談!
精密に描き込まれた絵と、ユーモアや風刺が盛り込まれた物語が持ち味のしおたにさんと、日常の中にある“モノ”を中心に、ダイナミックな絵とアイデアが注目されているかねこさん。
作風はまったく異なる2人ですが、実は同じギャラリーの絵本コンペで入賞したのが、デビューのきっかけ。
今、最も注目される絵本作家同士の初対談が、LEEで実現されました。
かねこ しおたにさんは ’14年、私は ’17年の入賞者ですよね。応募のきっかけは何でしたか?
しおたに 姉のすすめだったんです。美大を卒業後、アニメ系の会社に勤めたんですが、辞めた後、少しのんびりしていたんですね。そんな私に姉が焦りを感じたらしく「絵本はどう?」と。そこで『やねうらおばけ』を描いてみたところ、賞をいただきました。
かねこ 初投稿で入賞って、絵本作家を志す人の中では、相当すごいことですよ! 私は何年も、箸にも棒にも引っかからなかったです。もともと趣味で絵や漫画を描いていましたが、大学を卒業してからは、NGOや民間の会社に勤めていて。30歳で結婚した後は、家庭の都合で専業主婦に。
そんなときに家庭以外で社会とのつながりを持とうと、好きな絵を習いに行ったのが、絵本創作の始まりです。その後、自分の表現を本格的に追求するために絵本塾にも通いました。
ようやくコンペで入賞できた後の個展で、会場にいらした編集者さんに作品を見ていただいてデビューに至ることに。実はコンペには2作品出していて。1冊は、まだ発売されていないんです…。
しおたに 惜しいですね…。絵本って完成までにかなり時間がかかりますよね。例えば『たまごのはなし』の場合、鉛筆を使い、3〜7日ほどで1枚のペースです。
デビュー作『そらからきたこいし』などに比べると背景が少ないのでかからないほうですけど、描く枚数が多い分、結局はとにかく描き続ける毎日です。
かねこ 濃密な絵とともに、物語にボリュームがあるのも、しおたにさんの絵本の特徴ですよね。
しおたに それでも物語は余分なものを抜くことを大事にしています。“余白”を設けることで、読み手に自由な受け止め方をしてもらえたらなと。
また、作風は異なりますが、かねこさんみたいに、発想力で読み手を引き込む作品にも憧れがあります! 題材はどうやって決めるのですか?
かねこ みんなが普段あまり気に留めないようなマイナーな存在を取り上げて、どうしたらおもしろくなるのかをいつも考えています。そんな中、『めんぼうズ』は、最初はマッチ、つまようじといろいろと候補がありました。
試しに綿棒に顔を描いてみたら、すごくシュールでおかしくって。それで「君が主役だ!」と。描き方はアクリル絵の具や油性色鉛筆で、複数のページを同時進行します。そのほうが、キャラクターたちの表情が安定する気がして。
しおたに 失敗したらどうしようとか思いませんか?
かねこ アクリルや油彩の絵は、上から塗りつぶせばいい(笑)。ただしモノクロの下書きを何回も描きますね。色を使いたい気持ちをためてためて…。頂点に達したら、一気に描きます。
しおたにさんの「デビュー作」裏話
かねこさんの「デビュー作」裏話
手や耳でも感じることができる楽しみ方が無限大な絵本の魅力
かねこ 私は会社員時代、幼い頃に読んだ『泣いた赤鬼』の話をふと思い出してびっくりしたことがあります。当時の組織の人間関係が、お話と似た状況だったのですが、絵本って、心のタイムカプセルみたいなものなのかもと。しおたにさんは、今も心に根づく絵本体験はありますか?
しおたに 幼い頃に母親が近所の子育て仲間と一緒に、子ども文庫を開いていました。貸し出しはもちろん、読み聞かせにも熱心で。その中でもトミー・ウンゲラーの『すてきな三にんぐみ』が心に残っています。その作品の読み聞かせ用BGMを音大出身のおばさんが作曲してくれたんですが、今でも頭の中で流れることも。
そんな原体験からか、4歳~7歳ぐらいの幼い子にも響くことを意識して制作しています。そして実際に文章を読み上げることで、絵の情景とリンクするかどうか試すことも。
かねこ それ、すごいわかります。声を出して読むって、絵本ならではですよね。
しおたに 手でめくったり、耳で聞き入ったり。さまざまな感覚に訴えかけてくれることこそ絵本の魅力かも。
かねこ あと、物語を好きなように解釈ができる懐の深さを持っているところに自由を感じますね。
しおたに まさしく絵本の醍醐味ですね!
かねこさん´s works
1.『めんぼうズ』アリス館 ¥1540
夜になると、家のあちこちから飛び出してくる綿棒たち。予測ができない彼らの動きのおもしろさと、綿棒たちの、楽しげながらもシュールすぎる表情に見入ってしまう一冊。
2.『ちゃのまのおざぶとん』 アリス館 ¥1430
主人公は座ぶとん! 蹴られても、ジャンプされても、みんなのお尻を支える座ぶとんたちにピンチが訪れ…? 親子で楽しみながら、信頼感や絆についても思いを馳せられる。
しおたにさん´s works
1.『そらからきたこいし』偕成社 ¥1540
女の子が見つけた、地面から少しだけ浮いている小石。調べても正体はわからないのに、その後も少しずつ見つかって。ファンタジーな世界観とともに好奇心をくすぐられる!
2.『さかなくん』偕成社 ¥1430
水の中で暮らしているさかなくん。ゴムのズボンをはき、水入りのヘルメットをかぶり、学校へ行くのが大好き――。さかなくんの視点で見ると、人間の日常生活はおもしろいことだらけ!
3.『たまごのはなし』ブロンズ新社 ¥1210
ある日突然、目を覚ましたたまご。マシュマロを起こし、キッチンの外へと冒険へ出かけることに。少し上から目線で無邪気なたまごと、マシュマロとのコンビが癖になる物語。
4.『いちじくのはなし』ブロンズ新社 ¥1210
『たまごのはなし』の続編。主役はほらふきのいちじく。彼が繰り広げるお話は、どこまでが本当でどこからがウソなのか!? 絶妙にリアリティのあるストーリーに夢中になってしまう。
5.『やねうらべやのおばけ』偕成社 ¥1320
古い家の屋根裏部屋で暮らすおばけ。月がきれいな夜に、家の周りを一周だけ飛んでみたら女の子が遊びにくるように。絵はすべて木炭鉛筆で描かれたもの。濃密で優しい世界に圧倒される。
絵本雑誌のトップが断言!
絵本ブームきてるんです!
教えてくれたのは?
門野 隆さん
『MOE』編集統括
絵本の情報を集めた専門誌『MOE』編集長。同誌は、年に一度、おすすめの作品を紹介する〝絵本屋さん大賞〞や、新人作家の作品を公募するなど、絵本業界の盛り上げ役にも。
Boom_01
大人も楽しめる人気作家が次々と!
ヨシタケシンスケさん、鈴木のりたけさんの作品など、大人が読んでも夢中になれる絵本が大ヒット。そのおかげで、絵本に親しむ読者層が急拡大しました!
門野 隆さん
Boom_02
Boomグッズ、舞台、展覧会と絵本の広がりがすごい!
作品の世界観をもとにした舞台や展示、キャラクターグッズの売り上げも絶好調。絵本を、より身近に感じられる機会が増えたのも、ブームの理由です
門野 隆さん
Boom_03
販売部数も右肩上がり!参入出版社も増えています
『MOE』の発行部数は増加中。書籍の電子化が進む今、紙の絵本は書店が熱心に売り場を作ってくれることもあり、多くの出版社が新規参入。市場が盛り上がっています
門野 隆さん
次回は「絵本の目利きが激推し! 今、読みたい新世代の絵本作家7人」をご紹介。
Staff Credit
撮影/名和真紀子 柳 香穂(インタビュー中の絵本) 取材・文/石井絵里
こちらは2023年LEE10月号(9/7発売)「大人が読んでもじわっとくる ひたってみませんか? 「新世代作家」の絵本の世界」に掲載の記事です。
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