【月組・鳳月 杏さん】舞台ではふてぶてしくていい、でも、頭を垂れる稲穂の気持ちは忘れずに【宝塚スター|ことばの力】
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TAKARAZUKA STAR INTERVIEW ことばの力
2023.07.20 更新日:2023.11.09
気づきを与えた言葉、背中を押してくれた言葉、自分を鼓舞する言葉……。舞台人として、一人の人として。“清く正しく美しく”輝くタカラジェンヌが大切にしている言葉とは?
「舞台ではふてぶてしくていい、でも、頭を垂れる稲穂の気持ちは忘れずに」
An Hozuki
2006年、宝塚歌劇団に入団。月組に配属後、’14年に花組へ組替え、’19年にまた月組へ。たくさんの経験を積み重ねてきたからこその実力、圧巻の存在感、そして、成熟した大人の色気で観客を魅了。男役芸に磨きがかかるばかり。
宝塚歌劇公式ウェブサイト>>
大事なのは言葉に込めた“思い”を受け止め、伝えること
「私がこの世界に興味を持ったのは宝塚ファンだった母が見せてくれたビデオがきっかけでした。それを擦り切れるほど何度も見て、台詞もすべて覚えてしまった、当時の私のお気に入りの遊びが“宝塚ごっこ”で。毎日、学校から帰宅後すぐにビデオを流して“ごっこ”をスタート。母のクローゼットから洋服を拝借して場面ごとの早替わりまで再現。完全になりきって演じていました(笑)」
宝塚歌劇団に入団後も「どこか“ごっこ”の延長線上にいたような気がします」と鳳月さんは振り返ります。
「自分は楽しいけれど、舞台を通してお見せするには何かが乏しいと言いますか。あの頃、上級生からよく言われたのが“サラッとしている”という言葉でした。自分では頑張っているつもりなのにそれが周りに伝わらない……。私は一人っ子だったからか、コミュニケーションがあまり得意ではなくて。自分の気持ちや思いを伝えるのも、表現するのも、上手ではなかった。その殻をどうやって破ればいいのか、下級生時代はいつも悩んでいた気がします」
そんな鳳月杏さんを変えたものはただひとつ、それは“経験”。重要な役を任されるたびに「うまくできない、なんて言っていられない」と覚悟を決めて稽古場で自分をさらけ出し、学年と作品を重ねるなかで「いつまでも誰かに憧れていてはいけない。自分がカッコよくならなければ」と、誰でもない自分だけの魅力を探求するように。
「誰かに誘導されるより、実際に体験して実感して、その経験を自分の中に積み重ねていきたいタイプなので。アドバイスをいただいたとしてもそれを理解するのに時間がかかってしまう、私の歩みはどこかゆっくりで、周りにはそれをもどかしく感じる方もいたかもしれませんね(笑)」
そう語る鳳月さんにも“大切な人がかけてくれた、大切な言葉”はあります。そのひとつが、花組から月組へ組替えするとき、当時の花組のトップスター明日海りおさんがかけてくれた「舞台ではふてぶてしくていい、でも、頭を垂れる稲穂の気持ちを忘れずに」という言葉です。
「花組で過ごした4年半は自分磨きの時間で、自信がなかった私が堂々と舞台に立てるように。その実感があったからこそ“ふてぶてしい”は最高にうれしい褒め言葉でした。ただ、自信をつけても感謝の気持ちは忘れるなと。かかわり、支えて、応援してくれる、たくさんの人の存在を当たり前だと思ってはいけないと、今もこの言葉を思い出すんです」
その実力だけでなく人間力もまた高く評価されている鳳月さん。今年で男役18年目、たくさんの言葉をもらい、届けてきた彼女は“言葉の力”について、こう考えます。
「相手の言葉を聞くときは、“今このタイミングで、この人が、この言葉をくれるその意味”を考える。それだけで言葉の深みは変わります。自分が伝えるときも思いを込める、それだけで口からこぼれ出る言葉も変わる……。目の前の言葉の“音”ではなく“思い”に心を傾けられるようになったときに、人生はより豊かになる気がしています」
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【鳳月 杏さんに3つの質問!】
Q1:
最近、気に入っているものを教えてください
今も昔も好きなのは
おしゃれな母が教えてくれたファッション
実は私、趣味と言えるものがほとんどなくて。休日は体のメンテナンスをして、ごはんを食べて、ゴロゴロしているうちに終了。普段、本当に何もしていないからこそ「舞台で生きることができる」のだと個人的には思っています(笑)。
そんな私ですが、今も昔もずっと好きなものがひとつあって、それがファッションなんです。洋服が好きなのは、今は亡き母の影響。それこそ、“宝塚ごっこ”に使えるような華やかな服がクローゼットに並んでいたほど、母はとてもおしゃれな人で。「この生地は3月に着るものじゃない」とか「その組み合わせは可愛くない」とか、子どもの頃からファッションに関してはとてもうるさく言われて育ったんです。
私が立つ舞台を観劇しにくるときも、お芝居の感想の前に飛び出すのはいつも衣装やヘアメイクの感想で。「あの衣装は丈が短かった」とか「あの髪型はよろしくない」とか、最後の最後まで言われました(笑)。美意識の高い母は宝塚の舞台が大好きでした。その理由はきっと、宝塚の美しい世界が好きだったからなのだと思います。今も昔も「トレンチコートの季節がきたな」なんて、季節の移り変わりをファッションで考えてしまうのも、きっと母の影響なんでしょうね。
Q2:
舞台上で大人の色気を放つ鳳月さん。
色気や美しさはどこに宿ると思いますか?
色気や美しさは外見の美醜ではなく
内側の気持ちが見えたときに感じるもの
色気とは、一人で出すものではなく、人と人との間に生まれるものだと思います。例えば、舞台上ならば男役が娘役に向ける優しさや愛情、それがあるだけで何気ない眼差しやふと差し出した指先がぐんと色っぽくなったりする。「あ、その人にはそういう笑い方するんだ」と思う瞬間、あるじゃないですか。それを目にしたときに私はドキッとするというか。
ウィンクをしてくれたり、投げキッスをしてくれたり、それはその人の表現としての色気。本当の色気は、気持ちを注ぐ相手がいてこそ生まれるのだと、悩み考えながら宝塚人生を歩いてきた結果、私はそこにたどり着きました。
美しさは、その人の意志に宿るのだと思います。私が娘役さんを見ていて「綺麗だな」とよく思うのが、舞台に出るための支度をしているとき。「絶対に私は綺麗な姿で出たい」という気持ちで鏡の前に座る、ピンと伸びたその背中や横顔に、娘役としての誇りが見えたときに「美しいな」と思うんです。
Q3:
男役18年の今、鳳月さんが感じていることを教えてください。
「男役には終わりがない」
この言葉の重みを感じています
今は、ただただ「男役には終わりがない」と感じています。下級生の頃は「これくらいの学年になったら、男役ができあがるのだろうな」と思っていましたが、全然完成しない。どんなに経験を重ねても、その都度、乗り越えたい課題は生まれますし。「もっとこうしたい」という欲も生まれる。やっても、やっても、終わりがないだけに、これをどこまで続けるのか……考えると気が遠くなってしまうほど(笑)。
そんな私が、今、下級生に伝えたいのは「楽しさやときめきを大事にしてほしい」という言葉です。「怒られないようにちゃんとやらなきゃ」とか「場面をしっかり作らなきゃ」とか「〜しなきゃ」が多く、みんなすごく真面目なんです。もちろん、それもとても大事なことではありますが、根本にある「舞台って楽しい!」の気持ちも大事にしてほしいなと。
私がここまで続けてこられたのも、ずっと頑張ることができているのも、大好きな宝塚の舞台へのときめきがあるからこそ。辛いとき、苦しいとき、上手くいかないなと感じたとき、背中を押してくれるのは「舞台が好き」という気持ちです。だからこそ、みんなにもそれを忘れずにいてほしいと思うのです。
>>NEXT STAGE
ミュージカル
『フリューゲル -君がくれた翼-』
東京詞華集
『万華鏡百景色』
ベルリンの壁崩壊へと向かう激動のドイツ。東ドイツ国家人民軍のヨナスと西ドイツのスターのナディア、惹かれ合う若者たちの恋を描く。
● 主演:月城かなと 海乃美月
● 8/18〜9/24 宝塚大劇場 10/14〜11/19 東京宝塚劇場
撮影/柴田フミコ 取材・原文/石井美輪
こちらは2023年LEE8・9月合併号(7/7発売)「ことばの力 vol.7 鳳月 杏さん」に掲載の記事です。
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